[市場動向]

今、UI/UXを再考すべきとき─単なる操作体系にあらず、戦略性と妥当性の上に“ビジネスセンス”が凝縮

ユーザーインタフェースを考える Part1

2012年4月5日(木)力竹 尚子(IT Leaders編集部)

これまで、多くの企業システムはユーザーの使い勝手や快適さを二の次にしていた。しかし、優れた体験を提供できるか否かはシステムの価値を大きく左右する。これからのIT部門に、「ユーザーエクスペリエンス(UX)」という視点は不可欠になる。力竹 尚子 (編集部)

「必要な情報になかなかたどり着けない」「次に何をすべきかすぐに判断できない」「1つの作業を完了させるために画面をいくつも立ち上げなければならない」……。

企業システムはこれまで、数々の使いにくさをユーザーに強いてきた。よくある例として、交通費精算を考えてみよう。ユーザーはまず、机上のパソコンから経費精算システムにログイン。次に、いつどこに行ったかを思い出すためにスケジューラを立ち上げる。さらに、路線検索ソフトを起動し、行き先までの交通費を確認。再び経費精算システムの画面に戻って訪問先や日時、金額を入力する。こうして、3つの画面を行きつ戻りつしながら、ようやく精算業務が完了する─。どうだろう。心当たりのある読者は、決して少なくないはずだ。

「そんなものは慣れの問題。使い続ければ、スムーズに操作できるようになる」と思うだろうか。確かに、これまではそれで通用した。「ECをはじめとする個人向けサービスは、使いにくければすぐに顧客が離れていく。それに対して企業内の業務システムは、ユーザーに強制的に利用させることのできる唯一のIT領域だった」(インフラジスティックス・ジャパンの東賢シニアUXアーキテクト)。しかし、スマートフォンやタブレットといった新たなデバイスの登場により、状況は一変しようとしている。

急速に普及が進むスマートデバイスの最大の特徴は、直感的に使えること。iPhoneなどはその典型だが、購入時に分厚いマニュアルは付いてこない。ユーザーは、初めて電源を入れた瞬間から、正しい操作に自然と誘導される。こうした使い勝手に馴染んだユーザーが「なぜ会社のシステムはこんなに操作が面倒なんだ?」という疑問を抱くのは当然の流れだろう。

一方、事業の海外展開においても、システムの使い勝手は大きな意味を持つ。いくら多言語対応しようが、操作に習熟するためのトレーニングに時間がかかるようでは、新規ビジネスの垂直立ち上げは不可能。ユーザーが新システムの操作にまごついているすきに、競合他社に先手を奪われるかもしれない。

図1-1 大きさや使い勝手が異なる端末が数多く登場。ユーザーインタフェースを見直すべき時期が到来した
図1-1 大きさや使い勝手が異なる端末が数多く登場。ユーザーインタフェースを見直すべき時期が到来した

貧弱なユーザー体験で社員が“逃げる”

どんなに優れた機能を実装しようと、すぐに正しく使えないシステムは、ユーザーにとってもビジネスにとっても価値がない。そんな時代がやってくる。そこで、これからの企業システムに求められているのが「ユーザーエクスペリエンス(UX)」という視点である。

UXとは、一言で言えばシステムとそれを利用する人との間に生じる相互作用のこと。システム機能や人の知覚・反応を含む概念だ。「ユーザー体験」と表現することもある。野村総合研究所 情報技術本部共通基盤推進部の山之内亜由知主任テクニカルエンジニアは、「UXの善し悪しは、社員の定着率にも影響する」とさえ指摘する。「使い方が難しく、操作法を周囲にたびたび尋ねなければならない。その気兼ねから、業務への意欲を失ってしまうケースは決して少なくない」(同氏)。経営とITとの融合が進むなか、システムを介したUXはその企業の“ビジネスセンス”を象徴するとも言えるだろう。

実際、優れたUXは業務効率や生産性を向上させる。論より証拠。日本マイクロソフトが公開している実践例を見てみよう(図1-2)。

図1-2 日本マイクロソフトが公開しているUX改善例
図1-2 日本マイクロソフトが公開しているUX改善例。ページ遷移を減らすほか、文字の見やすさや要素配置などを改善することにより、会議室予約にかかる時間を大幅に削減できる

同社は、企業内の会議室予約システムに「画面の切り替えが多く、何をしようとしているかが分からなくなる」「前の画面で設定した値を忘れてしまう」といった不満を持つユーザーが多いことに着目。UXの観点から画面を見直すことでそうした問題を解消できることを示している。

具体的には、予約開始画面で日時を選択できるようにする、予約状況の会議室情報を1つの画面で見られるようにする、重要な文字要素を見やすくする、といった策を施す。こうした改善策により、ユーザーの作業負荷を大幅に削減。予約完了までにかかる平均時間を、3分40秒から1分40秒と2分の1以下に圧縮できるという。

ユーザー企業の間でも、UXへの関心が高まっている。日本IBM GBS アプリケーションイノベーションサービス スマーターコマース、WBSの部長である吉武良治氏は、「開発方針に『使いやすさ』を明記する企業が増えている」と話す。

以下ではまず、UXとは何か、その“正体”に迫る。さらに、優れたUXを生み出す源泉となるユーザーインタフェースを作るための“レシピ”を解説。UX重視型の開発手法や、その際に役立つ最新技術も紹介していく。

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