[ザ・プロジェクト]

「三方よし」のITプロジェクトを完遂。116店舗のシステムをクラウドへ移行─ヤオコー

2012年4月11日(水)IT Leaders編集部

北関東を地盤に地域密着型のスーパーを展開するヤオコーは、落雷による停電など、店舗システムの運用に悩みを抱えていた。ユーザー企業、ベンダー、エンドユーザーの「三方よし」を果たした店舗システムのクラウド移行プロジェクトについて、ユーザー企業の責任者とベンダーの担当者に聞いた。 聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉

齊田純児氏
齊田 純児 氏
ヤオコー 営業企画部 システム企画担当マネージャー
大手電機メーカーを経て、1996年4月にヤオコーへ入社。深谷上野台店の日配主任を務めた後、1997年1月に情報システム部門に配属となる。その後、管理会計システムや財務会計システムをはじめとする基幹系のほか、日配発注EOBシステム、予約集計システム、情報分析データウエアハウスシステムなど数多くの新システムの企画や開発導入、運用全般を手掛けてきた。2011年3月にロジスティクス推進部(現在の営業企画部)システム企画マネージャーに就任

 

溝呂木寛和氏
溝呂木 寛和 氏
富士通 流通ビジネス本部 小売第二統括営業部 小売第二営業部
2000年4月に富士通へ入社。関越支社にて埼玉県内の衣料品店や量販店、外食、通販業向けのソリューション販売を担当。2009年6月に現在の流通ビジネス本部に異動し、主に関東近県の量販店向けソリューションパッケージやハードウェアの販売に従事している

 

村松泰夫氏
村松 泰夫 氏
富士通システムソリューションズ 第一流通ソリューション本部 第三リテイルソリューション部
2001年4月、富士通システムソリューションズに入社。流通ソリューションサービス本部にてスーパーマーケットやドラッグストアなどのシステム構築に従事してきた。現在もソリューション提案に携わるほか、プロジェクトマネージャとしてプロジェクト管理を担当している

 

─富士通のクラウド環境に店舗システムを移行されたそうですね。プロジェクトについてうかがう前に、貴社のビジネスについて教えてください。2011年12月までの3四半期の連結営業利益が過去最高を記録しましたが、好業績を保つ秘訣はどこにあるのでしょうか。

齊田:当社で「パートナー」と呼んでいるパート社員の活躍が大きな原動力になっています。パートナーの多くは地域で生活する主婦たちで、地元の行事を含め地域特性に通じている。そうしたパートナーに牛乳や豆腐、卵、パン、麺類など、特に日配食品の価格決定権や発注権限を持ってもらい店舗を運営しています。

─大型チェーンだと本部主導で仕入量や販売価格を決めるケースもありますが、それとは一線を画す。

齊田:ええ。全商品ではありませんが、一定の割合は店舗主導で品ぞろえをしています。地域のコミュニティで生まれた話題は品ぞろえのヒントになりますから。

─素人目には、POSデータで売れ行きを把握して自動発注したほうが効率的な気もします。

齊田:現にそうした企業もありますね。でも、自動発注には向き不向きがあるんです。日配食品は曜日によって需要が極端に波打つので、あまり自動発注に向いていません。

─変動幅が大きな商品の過剰在庫や欠品を防ぎ日々の売り上げを確保するには、売り場の最前線に立つ目利きにまかせたほうが得策だと。

齊田:地域の事情に詳しいパートナーが「これだけ売りたい」「だからいくつ発注する」「発注したからには売り切る」という責任感を持って懸命に売り場を運営しますから、結果的に発注量などの精度が高まるのだと思います。

─自ら商店を切り盛りする店主の感覚だ。

齊田:そうですね。ご来店時にパートナーにおすすめ商品を聞いてもらえたら、必ず良いアドバイスをさせていただけると思いますよ(笑)。

積極的にアウトソーシング
社内はシステム企画に注力

ヤオコーの店舗の外観イメージ(上)と店内の様子(下) ヤオコーの店舗の外観イメージ(上)と店内の様子(下)

─店舗数も増えている?

齊田:おかげさまで順調に伸びていて、2011年12月時点で北関東を中心に116店舗になりました。

─店舗が増えると、共通業務の重複など悩ましい問題が浮上してくる。効率化に向けた貴社のIT活用の歴史を簡単に振り返らせてください。

齊田:私がシステム担当になったのは1997年で、当時は汎用機で受発注システムを構築していました。電話の受話器のような装置を使って、店舗の発注端末から汎用機にデータを送信する仕組みです。

─受話器というと「ピーガガガー」と鳴る、いわゆる音響カプラ(本誌注:デジタル信号を音に変換することで電話の受話器越しにデータ通信する装置)ですか。

齊田:おっしゃる通りです。

─なつかしい(笑)。

齊田:ですね(笑)。その後、1990年代終盤からアウトソーシングを推し進め、汎用機を野村総合研究所に移したりダウンサイジングしたりといった変遷をたどってきました。

─2000年前後といえば、アウトソーシングの流れの一方で、自社でシステムの企画から開発、運用まで担うためにIT部門の陣容拡大や情報システム子会社を設置する動きも活発でした。

齊田:確かに。ただ、当社は外部に任せられる部分は積極的にアウトソーシングして、社内ではシステム企画により多くの力を注げるように考えてきました。

老朽化や落雷による停電でサーバー運用負荷が課題に

─前段が長くなってしまいましたが、本題の店舗システムについて、どのようなものか概要を教えてください。

齊田:日配食品の発注に使う富士通製の専用タブレット端末「EOB(Electric Order Book)」を、各店舗の規模に応じて4〜7台置いています。EOBに入力したデータは各店に1台ずつ設置した管理サーバーで取りまとめたうえで、野村総合研究所にアウトソーシングしている業務システムに送る仕組みになっています。このうち管理サーバーを富士通のクラウド環境に移行したのが、今回のプロジェクトです。

─管理サーバーに何らかの課題があった?

齊田:当社にいる10人程度のシステム担当が新システムの企画やテストと並行して管理サーバーの面倒をみるには、運用の負担が大きかった点が挙げられます。管理サーバーは経年に伴う老朽化で、希にですが障害が起きます。そのほかに年1度の法令点検による計画停電や、夏場の落雷による停電でサーバーが停止することもある。

─貴社の主要な事業地盤である北関東は雷が多いんですよね。実際、落雷でサーバーが止まることってあるのですか。

齊田:あります。中には雷の通り道になっているのかと思うような店舗もあるんです(笑)。

溝呂木:管理サーバーのサポートを担当する私ども(富士通)としても、雷が鳴り始めるとヒヤヒヤです(笑)。

村松:そんなときは、いつでも出動できる準備を整えるんです(笑)。

齊田:もちろんUPS(無停電電源装置)を接続しているので、瞬間的な停電ならまったく問題ありません。しかし、落雷が続いて数分間の停電が何回も連続すると、(蓄電容量を消費して)UPSが自動的にサーバーをシャットダウンします。サポートを依頼しているといっても、状況報告を受けて的確に復旧の指示を出すのは、なかなか大変なものです。

─なるほど。

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