[イベントレポート]

HPE分社から2年、CEOが交代へ─Whitman氏と新CEOが語る「これまで」と「これから」

Discover 2017 Madrid レポート

2017年12月8日(金)末岡 洋子(ITジャーナリスト)

Hewlett Packardがエンタープライズ事業の「Hewlett Packard Enterprise(HPE)」、PCの「HP」の2社に分社してから2年。分社化のプロセスを経てHPEを率いてきたCEO、Meg Whitman氏が退任する。2017年11月末、Whitman氏はスペインで開催したイベント「HPE Discover 2017 Madrid」に集まった顧客、パートナーを前に、「HPEは強く、アジャイルで、イノベーションにみなぎる会社になった」と自身の成果を語った。

6年で立て直し「HPEは生まれ変わり最先端にいる」

 Whitman氏がCEO退任を発表したのは11月末のことで、「HPE Discover」はその翌週に開催された。Discoverは同社が春に米国、秋に欧州で開催する顧客とパートナー向けの大規模イベントである。

 11月28日の基調講演で、Whitman氏は後任として任命しているAntonio Neri氏(現在、HPEプレジデント)と共にステージに立ち、CEO交代を報告した。

「選択と集中」で自らに大鉈を振るってきたCEOのMeg Whitman氏

 2011年にHP(当時)のCEOに就任したWhitman氏は、2015年秋にエンタープライズのHPEとPC/プリンターのHPとの分社化を進めた。ビジネス史上からも大規模な分社となったが、HPEの株価は分社化当初の10ドルから現在14ドル付近を推移しており、現時点では成功といえる。なお、ライバルのDellは同時期、EMCを買収してDell Techonologiesとなり、こちらもハイテク市場の歴史に残る大型買収となっている。

 拡大するDellに対してHPEはフォーカスを絞った。分社後もビジネスプロセスアウトソーシングなど一部事業をCSCに売却して、2017年4月にDXCテクノロジー(DXC Technology)が立ち上がり、ソフトウェア事業もマイクロフォーカス(Micro Focus)に売却した。

 フォーカスは、オンプレミスとクラウドで構成されるハイブリッドIT、IoTエッジのインテリジェント化、そしてサービスの3つだ。Whitman氏は会期中記者向けに開催したセッションで、「顧客のニーズは何か、そのうちどれを解決するかを見極めることが大切だ。全ては解決できないのだから」と述べた。「自社のコアにフォーカスし、顧客、パートナーの現実、何が起こっているのかを見て、適切なことをする」と戦略の背景にある考え方を説明した。

 リーダーチームを確立・安定させ、バランスシートも再構築したとするWhitman氏は「HPEは新しくなった。業界の変化が加速する中、我々は最先端にいる」とあらためて強調。自身が再建の命を受けて外部からCEOに就任したのに対し、次期CEOは社内からと決めていたという。実際、2人の間では数年前からNeri氏がCEOになった時に備えて準備を進めてきたとWhitman氏、ここ1~2年、HPE Discoverでも共にステージ立ってきたこともあり、驚きの人選ではない。

Meg Whitman氏(左)とAntonio Neri氏(右、現HPEプレジデント)。2018年2月にCEOのバトンを渡す

3つのフォーカス領域で展開する製品戦略

 HPEとして再出発してから2年、3つのフォーカスの製品ラインはどうなっているのか。

 ハイブリッドITではコンピュート、ストレージ、ネットワークの物理リソースを柔軟に組み合わせるコンポーザブルインフラ「HPE Synergy」を2015年末に発表。今年のHPE Discoverではオンプレミス、それにパブリッククラウドのリソースを管理し、使用を追跡できる「HPE OneSphere」を発表し、ハイブリッドITの戦略を固めた。Synergyはフルプロダクションから1年未満で1000社以上の顧客を獲得したと報告している。

 出遅れていたハイパーコンバージドではSimpliVityを買収した。フラッシュストレージ分野でもNimble Storageなどを買収、この時に取得したAI技術を「HPE InfoSight」とブランディングして11月初めにローンチしている。データ分析により障害を予知でき、「86%の問題を未然に予防できる」とNeri氏は述べる。

 IoTエッジでは「Edgeline」ブランドの下で、高度な処理能力を備えた「Edgeline EL」シリーズを2016年夏に発表。2015年に買収した無線ネットワーク技術のAruba Networksと共にソリューションを構築している。

 サービスはビジネスプロセスアウトソーシングなどを切り離す一方で、ITサービスに特化したサービス組織、HPE PointNextを立ち上げた。HPE Discoverでは、7年前に提供開始したインフラの従量課金サービス「HPE Flexible Capacity」を「GreenLake Flex Capacity」とブランディングし、ビックデータ、バックアップ、SAP HANAなど個別のソリューション別に切り出した。「顧客はアウトカムをすぐに得られる」とPointNextを率いるAna Pinczuk氏は説明する。

パブリッククラウド重視とオンプレミス重視、両方に対応する

 しかし、Dell Technologies、IBM、Ciscoら従来の競合に加え、中国Huaweiなど新参も出てきている実状に照らすと、市場競争は熾烈だ。システム分野でのトレンドであるハイパーコンバージドについてWhitman氏は、SimpliVityは市場平均を上回る成長率で成長している、とし、さらにはコンポーザブルに向けた“パス”の役割を果たしている、と説明した。「コンポーザブルとソフトウェア定義ストレージは同じフォームファクタに統合されていく」とWhitman氏が述べると、Neri氏も「ハイパーコンバージドは全てで拡張性があるわけではない。HPEにはソリューションポートフォリオがある。コンバージド、ハイパーコンバージド、コンポーサブルを単一の管理ソフトウェアで管理でき、サービスとして消費できる。他のベンダーは提供していない」と競合との違いを強調した。

 もっとも、「競合はパブリッククラウド」というNeri氏の言葉通り、これらの競争もパブリッククラウドを睨みながらだ。実際、クラウドはHPE分社化、DellとEMCとの合併など、ベンダー再編の震源となっている。そのクラウドについて、採用に地域差があることに話が及ぶと、Neri氏は「顧客が望んでいるのはこれまでの資産を最大活用しながら柔軟性を得ることだ」と述べた。そこで、新製品のOneSphereは「CIOがクラウドサービスブローカーになることができる。ゲームチェンジャーの製品だ」という。パブリッククラウド、オンプレミスなどを柔軟に管理できるだけでなく、使用量も追跡できるため「パブリッククラウドの請求書を見て驚くようなことがなくなる」と語る。

 柔軟性のためのもう1つの製品が、新製品のGreenLake Flex Capacityだ。Neri氏は「パブリッククラウドのスピードと経済をどうやってもたらすかを考えた結果、コンサンプション(消費)ベースの課金モデルを導入した」と説明する。

 「顧客の中には、絶対にパブリッククラウドは使わない、オンプレミスの方が安いというところもある。一方で、3~5年後はほとんどパブリッククラウドにするというところもある。このような“両極”状態は今後も続き、我々はそれに対応しなければならない」とNeri氏。コンポーザブルと従量課金により、オンプレミスでクラウドに対抗を図るという意図が見え隠れする。

 Neri氏はさらに、IoTのエッジがもたらす変化も予想した。「オンプレミス、パブリッククラウドのバランスはデータをどこに置くかが大きな決定要因となるが、ここで興味深いのがエッジだ。60~70%のデータがエッジで生成されると言われており、エッジがハイブリッドITに接続する。これがハイブリッドの将来を決定する」とNeri氏は述べ、必要な技術を全て備えるとアピールした。

コンポーザブルからメモリードリブンへ

 では、HP時代から研究開発に取り組んできたメモリスタ(memristor)はどうか? 開発がなかなか進んでいないのではという記者の質問に対し、Neri氏は「メモリー中心のコンピューティングは机上の空論ではない。すでに現実だ」と語気を強める。

 HPEは研究組織Hewlett Packard Labs(HP Labs)の下で「The Machine」の研究を進めている。The MachineはHP Labsが2014年に発表、不揮発性のユニバーサルメモリーのプールにSoCがアクセスするというもので、フォトニクス技術により高速な通信を実現する。2016年末にはプロトタイプ動作に成功、2017年5月には160TBの共有メモリーを、ファブリックプロトコルで相互接続した物理ノード40個上に分散したプロトタイプシステムを用いた実証実験に成功したと報告している。

次期CEOのポジションに就くNeri氏はHewlett Packardに23年在籍し技術をよく知る人物だ

 HPに23年勤務し、技術をよく知るNeri氏は、「(現在The Machineで使われている)DRAMや(HPEが開発する不揮発性メモリー)Persistent Memoryは途中段階に過ぎない」とし、最終的にはメモリスタにより「約4100ヨタバイトが可能になる。これは現在のデータの総量の250倍という膨大なものだ」と続けた。メモリスタについてはHPE Labsで研究が続いているとし、「技術が利用できるようになれば採用する」とした。

 コンポーザブルのSynergyでもThe Machineの開発要素を取り込んでいく。「2018年から2019年にはシリコンフォトニクス技術の採用が始まる」とNeri氏。5年ぐらいでメモリー中心の“メモリードリブンアーキテクチャ”への移行が始まるとした。Neri氏はまた、2016年に買収したSGIにより、高性能コンピュータ(HPC)分野でも地位を固めていることにも触れた。

 このように、Neri氏はWhitman氏のバトンを受け取った後、これまで固めてきた方向性を継続することになりそうだ。着任は2018年2月1日、Neri氏に最初の12カ月の最優先事項3つを聞いたところ、「ビジョンと戦略の実行をさらに加速する」「再構築により目的のある会社になり、戦う」「顧客、パートナー、従業員にフォーカスし支援する」と語った。なおWhitman氏はCEOを退いた後も取締役の立場で参加することになっている。

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