[市場動向]

データ活用のモデルケースに―横浜市官民データ活用推進計画

2018年5月21日(月)清水 響子

横浜市は2018年2月19日、全国市区町村に先駆けて「横浜市官民データ活用推進計画」の素案を公表した。同時に市民の意見募集を開始した。2016年12月に成立した官民データ活用推進基本法 は、政府と都道府県に計画策定を義務づけているが、市区町村や民間企業の計画は努力義務だ。策定義務のない横浜市が、全国に先駆け官民データ活用推進計画を公開する背景には、これまで手探りで進めてきたデータとデジタルテクノロジーを活用した社会課題の解決や経済活性化の取組みを加速させる狙いがある。基本法対応を迫られる自治体だけでなく、デジタル化の優先順位や「出したけど、使われないデータ」に悩む民間「データ◯◯部」のヒントにもなりそうだ。

ビジネスとデータを分断させない

 横浜市の計画には、データを活用しソリューションを創造する企業やNPO側のニーズ起点という特徴がある。ビジネスとデータを同じ枠組みのなかで捉え、ソリューションへ向けた対話のなかで、ビジネスのために行政を中心とするデータ保有者が必要なデータ提供を進める思想だ。

 ビジネス創造を通じた「安全で安心な市民生活」「経済活性化」が計画の3大目的のうち2つを占めており、行政オープンデータ最大の阻害要因といわれる「公開のメリットが見えない」状況を避ける。残る1つの目的「市政運営の効率化」は、「庁内の理解が得られない」タテ割りの壁を打破する。計画策定に携わった政策局共創推進室の担当係長・関口昌幸氏は、「民間主導によるビジネスの成功が大前提で、計画はそのためのデータ活用方針や施策を盛り込んでいる。データを出すこと、ましてや計画を作ることがゴールではない」という。

 具体的には、政府が自治体の計画に求めた(1)手続における情報通信の技術の利用等(オンライン化原則)、(2)官民データの容易な利用(オープンデータの推進)、(3)個人番号カードの普及及び活用(マイナンバーカードの普及・活用)、(4)利用の機会等の格差の是正(デジタルデバイド対策)、(5)情報システムに係る規格の整備及び互換性の確保(標準化、デジタル化、システム改革、BPR)に加え、経済発展、市民協働、横浜市立大学との連携を重点に、EBPM(Evidence Based Policy Making証拠に基づく政策立案)や職員の理解向上を目指す実施、イノベーションプラットフォーム構築など、横浜市独自の施策を盛り込んだ。

図1:横浜市官民データ活用推進計画の主な内容:基本法に基づく政府公表の雛型に示された施策の枠組みに加え、横浜市独自の施策を設定(青色の欄)
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 3つの目的達成のための個別9施策が①基盤・環境の整備、②データの整備、③データの活用の3フェイズ別に整理された点も横浜市オリジナルで、政府手引では区分がない。「③フェイズの川下でデータが活用されるとき、どのような形式やデータ流通手段が使いやすく、マネタイズしやすいのか。ビジネスとデータを分断して①インフラの話を始めても、データが使われない、結果出したくないという負のスパイラルが繰り返されるだけ」(関口氏)。多様なステークホルダー間の対話をスムーズに運ぶためにも、フェイズの切り分けが求められた。

図2:官民データの活用の推進に関する施策:①基盤・現場の整備、②データの整備、③データの活用の3フェイズ別に施策を整理。③活用フェイズでの理想的なありかたを起点に計画を推進する(出典:横浜市官民データ活用推進計画)
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国待ちにならざるを得ない施策も

 各施策は、これまでの取組みと実施内容、評価指標、スケジュールから構成されているが、具体性には濃淡が見られる。例えば「6 情報システムに係る規格の整備及び互換性の確保」では、日本一の基礎自治体に見合う費用対効果や利便性の観点から、国推奨の自治体クラウドではなく「庁内プライベートクラウドへの集約」を掲げるものの、実施スケジュールは示されていない。国の指針や取組みに左右される「2 行政手続のオンライン化」や「4 マイナンバーカードの普及・活用」は現時点で具体化しづらいようだ。また「5 デジタルデバイド対策」は公式サイトのウェブアクセシビリティJIS適合レベルAA対応のみ今年度内実施のスケジュールを示すにとどめているが、AA準拠はそもそも2010年総務省「みんなの公共サイト運用モデル」で2014年度末の対応期限が示されていたもので、むしろ後手といえる(計画しないよりずっと良いが)。

 他方、これまでの市の取組みに根ざした施策はより具体的で実効性が期待できる。例えば「1 データを重視した政策形成と基礎的データの整備の推進」はデータ活用プロセスの文書化や市内外のEBPM事例の体系化に言及しており、データ活用現場のニーズを感じさせる。7人材育成や8と9官民協働に関する施策も同様に、リアルな民間との共創のなかで求められた施策と推察される。

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