CIOコンピタンス CIOコンピタンス記事一覧へ

[インタビュー]

企業は今こそ「バイモーダルITを」─米ガートナー ジョン・エンク氏

2016年5月10日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

Systems of Record(SoR)とSystems of Engagement(SoE)。この概念は日本でもある程度定着したと言えるだろう。では欧米ではどうなのか。日本のはるか先を行っているのか、それとも何らかの壁に直面しているのか。来日した米ガートナーのトップアナリストに聞いた。(聞き手は田口 潤=IT Leaders編集部)

 デジタルビジネス時代における企業ITには、特性が大きく異なる2種類のITがある。いわゆるSystems of Record(SoR)とSystems of Engagement(SoE)だ。これをガートナーでは、モード1とモード2からなる「バイモーダルIT(2つの流儀のIT)」と表現する。

写真1:米ガートナー リサーチ部門のマネージングバイスプレジデントであるジョン・エンク氏

 表現の違いはさておき、バイモーダルITの浸透度や欧米企業における取り組み状況はどうか。企業のIT部門が取り組みを進める際の壁は何か。あるいは特にモード2(=SoE)にCIOやITリーダーはどう取り組むべきか?来日した米ガートナーのジョン・エンク(John Enck)氏に聞いた(写真1)。

 エンク氏はリサーチ部門のマネージングバイスプレジデントであり、ITリーダーのためのITインフラストラクチャ&オペレーションのチームを率いる人物である。

──ガートナーは「バイモーダルIT(2つの流儀のIT)」を提唱しています。情報システムを、主に企業内の業務を対象に効率化や合理化のために構築されてきたシステム群と、モバイルやIoTなど新しいデジタル技術を生かして従来は存在しなかったことを実現するために構築されるシステム群の2つに大別し、それぞれに適したやり方で構築・運用するアプローチですね。その意義を改めて教えていただけますか?

 まずデジタルビジネスの話をしましょう。少し前まで、歴史のある大手企業は大きな経営上のミスなどがなければ安泰でした。私のクライアントの1社にカナダを拠点にするベアリング大手がありますが、この企業は「デジタルビジネスの影響はない」と言い切っていました。

 今は、そうではありません。例えば3Dプリンティングは日々進化しており、5年あるいは10年後にも影響がないと考えるのは、資本力のある大手製造業であっても、間違った考え方でしょう。加えてデジタルビジネスそのものも変わってきています。これまでは人をエンゲージすることに重きが置かれてきました。今後は人が持つモノや人の仮想アシスタントが、その対象になり得るといったことです。

 そんなデジタルビジネスと強く、密接に関係するのがバイモーダルITです。我々の調査では、総売上高に占めるデジタルビジネスの売り上げの割合は2015年に18%でした。それは2017年に25%になり、2020年には41%になると予測しています。5年という短期間に起きる変化としては、とても大きな変化なんですよ。ですからバイモーダルITを実践するかどうかは問題ではありません。どのように実践するかが問題です。

図1:デジタルビジネスの総売上高に占める割合図1:デジタルビジネスの総売上高に占める割合
拡大画像表示

──なるほど、そうした考えは日本でも着実に広がってきています。ところで欧米では実際のところ、どんな企業が取り組んでいますか。割合など何らかの調査結果はあるでしょうか。

 モード1とモード2の割合について、具体的な数字はありません。しかしグローバル2000(米Forbes誌が発表する世界の公開企業上位2000社のこと)の大半は、すでにバイモーダルITを実践しています。GEやGM、Ford Motorといった米国企業がその一例です。こうした企業のCEOの77%はデジタル化に伴うリスクが拡大すると見ており、83%はリスクへの対応に向けて俊敏性を高める必要があると考えています。

 つまりバイモーダルITのモード2が必要だと認識し、何らかの取り組みを始めているのです。しかし、それ以外の企業については、まだら模様です。配車サービスの米Uber Technologiesのようにシステムの100%近くがモード2の企業が存在する一方で、そうでない企業も多いのが実情とみています。これまでの情報システムとあまりに違う特性が影響している面もあります。

──ではバイモーダルITを改めて説明してもらえますか。別の表現ではSoRとSoEと言われ、正確ではありませんが、日本では「守りのIT」と「攻めのIT」とも呼ばれます。

 定義的に言えば、モード1はニーズを受けて開発する予測可能なアプリケーションを、モード2はパートナーと協力して可能性を探る探求的なアプリケーションを指します。比喩的に言えば、モード1は「侍」、モード2は「忍者」です(笑)。欧米でも、この比喩を使っています。

 というのも、侍は階層構造の中に存在し規則を常に遵守します。行動は予測可能で信頼性が高いのも特徴です。忍者は階層構造の外に存在し、規則とは無縁で環境変化に極めて柔軟に対応します。成果を達成するために失敗と学習を繰り返しながら試行します。このように対照的なものです。

●Next:モード1のアプリがモード2になることはない

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
関連キーワード

Gartner / バイモーダル / SoR / SoE / CIO / Uber / GE / GM / Ford Motor

関連記事

トピックス

[Sponsored]

企業は今こそ「バイモーダルITを」─米ガートナー ジョン・エンク氏Systems of Record(SoR)とSystems of Engagement(SoE)。この概念は日本でもある程度定着したと言えるだろう。では欧米ではどうなのか。日本のはるか先を行っているのか、それとも何らかの壁に直面しているのか。来日した米ガートナーのトップアナリストに聞いた。(聞き手は田口 潤=IT Leaders編集部)

PAGE TOP