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[ザ・プロジェクト]

製鉄所基幹システムの脱メインフレームで全社IT基盤の刷新に挑む―JFEホールディングス

「攻めのIT経営銘柄 2016」選定企業のIT戦略<13>

2017年1月17日(火)佃 均(ITジャーナリスト)

JFEホールディングスの中核企業であるJFEスチールのIT活用が脚光を浴びたのは、川崎製鉄と日本鋼管の合併に伴うシステム統合「J-Smile」プロジェクトが2006年度情報化月間の経済産業大臣賞を受賞した時だった。あれから10年、「攻めのIT経営銘柄」に選定された事由は、製鉄業の“本丸”たる製鉄所の全プロセスの脱メインフレーム化だ。理事でIT改革推進部長の新田哲(あきら)氏は、「製鉄所システムの刷新を含む全社IT基盤の整備に挑みます」と言う。

データモデルをキチッと作った

「迅速に変化に対応できるグローバルレベルのIT活用先進企業に」とIT改革推進部長・新田哲氏は語る

 冒頭、新田氏は「本日はJFEスチールの新田という立場ですが……」と切り出した。「今年の4月に設置されたJFEホールディングスの情報セキュリティ専門チーム、そのチーム長も兼務しています」

 「JFE-SIRT(JFE-Security Integration and Response Team)」のこと。通常、「I」は「 Incident」の意味だが、「当社ではIntegrateと読み替えています」という。

  「JFEグループ情報セキュリティ委員会」に直属し、グループ全体のセキュリティ基盤を共通化したり、インシデント発生時に迅速な対策を講じる。またセキュリティの状況を、定期的にグループCSR会議に報告する。「確固とした守りが“攻め”につながる」という認識だ。

 「で、お話しを進める前に、J-Smileで取り組んだ概念データモデリングのことを」新田氏は語を継いだ。

 「J-Smile」は同社2003年から2006年まで取り組んだ新統合システムのこと。その名は「JFE Strategic Modernization & Innovation Leading System」に由来する。「超」が付く大規模な2社(川崎製鉄、日本鋼管)のシステムを円滑に統合した事例として、世界的に知られている。

図1:従来型とJ-Smileの手順の違い(提供:JFE)
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 「実は私はシステム部門から営業部門に異動しまして、統合が決まったら、戻ってこい、と。システムと営業が分かるから、受注系のシステム、できるよな、というような軽いノリで呼ばれた……、と言うより呼んでいただいたんじゃないかと」

 苦笑しながら新田氏は言う。

 システム統合の作業は、川鉄と日本鋼管のシステム部門が千葉県某所で合宿して喧々諤々の議論を重ね、お互いの長所・短所を理解し合うことからスタートした。そのときに形成されたのが、データ項目やコードを統一するとともに、データとデータの関連をモデル化するという共通認識だった。両社のIT子会社(川鉄情報システム、エクサ)のSEを巻き込んで、データ中心のアプローチに転換したわけだった。

 旧来の一般的なシステム設計の手順は、現状の業務分析から入り、アプリケーション設計の中でデータの流れや構造を分析する。しかしそれだと業務プロセスとデータ構造が一体なので、アプリケーションが硬直化する。業務プロセスや取引ルールが変わったとき、臨機応変な対応が難しくなリかねない。

 「そこで、高炉メーカーのビジネスモデルを確認して行きました。そういう泥くささと、基礎になるデータモデルをキチッと作ったのは、鉄作りのDNAかもしれません」

 もう一つのDNAは「現場とシステムのハイブリッド人材」だ。新田氏もそうだったように、現在のIT改革推進部の要員の大半は、現業部門からの配転組だ。

 「業務規程に書かれているIT改革推進部のミッションは、“業務改革を推進すること”なんですね。ITなんですけど、軸足は業務改革に置いています。現場での課題認識をどう解決するか。それがミッションですから、まず業務を熟知していて、ITもこなせる。そういう選り抜きが各部門から集まっています」

漢字だと「鉄」の一文字だが

 「鉄製品は鉄鉱石から銑鉄を作って、それを転炉で不純物を取り除いて、2次精錬でさらに純度を高めて、初めて鋼の塊ができます。それを圧延したり型に押し込んだり曲げたり捻ったりして鋼板や鋼管、形鋼などになるわけです。海外にある下工程についても一貫した品質管理、進捗管理をしている。」

 確認のために記しておくと、JFEスチールの生産拠点は銑鋼一貫製鉄所が東日本製鉄所(京浜地区、千葉地区)、西日本製鉄所(倉敷地区、福山地区)の2製鉄所4地区、鋼管専門工場が1ヶ所(半田市の知多製造所)。鉄を作る「上工程」が東西両製鉄所に集約されていて、システムを共通化しやすいのが同社の強みとなっている。

 その場合、留意しなければならないのはデータの項目数だ。漢字で表せば「鉄」の一文字だが、1件当たりの項目数が半端ではない。「製品のほとんどがオーダーメードです。厚さや長さだけでなく、強さ、柔らかさ、表面の滑らかさなど、平均で3千項目。モノによっては6千というケースもあります」

 新田氏は両腕を大きく広げてみせる。

(表)最近の取り組み
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 自動車、家電製品、建・配管設資材、生産機械、事務機器・設備など、鉄を使うありとあらゆる製品ごと、納入先ごとに異なるスペックに対応し、かつ納期を確実にしなければならない。「下工程」が海外となると、現品(製品)情報の共有と陸路と海路の物流が肝要となる。

 そこでIT改革推進部は経営計画に沿って、販売・生産管理やロジスティックにかかわるシステムの標準化、共通化を推進してきた。J-Smileの機能拡張、海外下工程標準システム、販売生産管理システム「J-Flessa」(JFE-Flexible Efficient Speedy Sales and operation management system)、新販売情報共有システムと途切れがない。

 並行して検討しきたのが「製鉄所基幹システム」の刷新だった。経営統合から12年で、ようやく“本丸”に取り付く準備が整ったと言うことができる。

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