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富士通が深層学習専用のシステムなどAIビジネス戦略を発表、クラウドAPIもリリース

2017年5月17日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)

富士通がAI関連のサービスや製品に本腰を入れ始めた。ディープラーニング(DL)専用のハードウェアやプロセサ、クラウド経由で利用できる高機能のAPIやサービスを投入したのだ。同社の谷口典彦 取締役執行役員副社長は「AIは今後のビジネスにおいて必然の存在。サービスの開発や提供をさらに加速していく」と語る。

 富士通は2017年5月16日、AIビジネス戦略に関する発表会を開催した。(1)ディープラーニングの専用サーバー、「FUJITSU AIソリューションZinraiディープラーニングシステム」、(2)クラウドサービス「FUJITSU Cloud Service K5 Zinraiプラットフォームサービス」の一環であるAIを利用したAPI群、(3)そのAPIを利用して構成したサービス2種、などが柱。谷口典彦 副社長は席上、「富士通はAIに関して30年を超える知見、技術の集積がある。AI技術をコアにサービス指向カンパニーを目指す」と表明した。(4)量子コンピュータ技術をエミュレートすることで組み合わせ最適化問題を高速に解くアーキテクチャも開発する。

ディープラーニング専用のシステムを出荷開始

 このうちFUJITSU AIソリューションZinraiディープラーニングシステム(以下ZDLS)は、GPU「NVDIA TeslaP100」を最大8基搭載できるDL専用マシン(写真1)。TeslaP100は153億個トランジスタを集積しており、単体で倍精度5.3TFLOPS、単精度10.6TFLOPSの浮動小数点演算性能を持つ。管理ツールのOSにはCentOS、DL部にはUbuntuというLinux系OSを搭載し、使い勝手に配慮した。DLのフレームワークとしては、プリファードインフラストラクチャー&プリファードネットワークの「Chainer」、米Googleの「TensorFlow」、米Microsoftの「CNTK(Computational Network Toolkit)」、米カリフォルニア大バークレー校BVLCの「Caffe」など主要なものを搭載し、選択して利用できるようにしている。

写真1 富士通が発表したZinraiディープラーニングシステム。中央の緑の部分がGPU「TeslaP100」。赤は開発中のDLU(ダミー)
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 オンプレミス設置のZDLSの価格は3570万円から。米NVIDIA自身が昨年に発売したP100×8基搭載の「DGX-1」が12万9000ドル(1400万円強)なのに比べると割高に思えるが、ストレージや富士通のサポートがあることを考えるとそうとも言えない。ZDLSはクラウドサービスとしても提供する。さらに今年度には特殊な液体に演算部を浸して冷却性能を高める液浸オプションを追加する考えだ(写真2)。オプションを使わない場合に比べて40%の省電力化を図れるという。計画では2020年度までに累計1900システムを販売する。

写真2 ZDLSの液浸オプション。見にくいが、右奥の緑がGPUである
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 一方で富士通はGPUベースのTeslaP100に代わる、DL専用プロセサ「DLU(ディープラーニングユニット)」を開発中。「画像処理機能を基本にするGPUには、DLには不要な回路やインターコネクトが備わっている。DLUはそうした部分をそぎ落とす一方で、スーパーコンピュータの開発で蓄積した並列技術、インターコネクト技術を投入し、処理性能と電力性能を高める」(吉沢尚子同社執行役員サービスプラットフォーム部門AI基盤事業本部長)。2018年に出荷を開始し、ZDLSの次期版に搭載する計画だ。

クラウドAPI30種のうち9種を先行提供

 ZDLSよりも敷居が低く、一般企業にも使えそうなのが、Cloud Service K5の一環として提供するAPI群。富士通は2017年内に30種のAPIを提供すると表明しており、この4月に9種を先行リリースした。どんなものがあるかというと、APIと呼べるのは(1)AIを応用した基本機能である画像認識や手書文字認識、音声テキスト化、音声合成、知識情報検索、(2)特定用途に特化した専門分野別意味検索、需要予測、の合計7つ。ただし、例えば需要予測は回帰分析やARIMAモデル、クラスタリング、ランダムフォレストなどの分析手法をAPI経由で使えるようにするものであり、機械学習の要素はあるにせよ、いわゆるAI応用かというと疑問が残る。

 一方、残る2つはAPIを利用して作ったサービス。具体的にはコールセンター向けの自動応答サービスである「FUJITSU Business Application ODMAデジタルエージェント for コールセンター」、および社内に散在する大量の文書を関連づけて視覚的に分かりやすく表示するサービス(名前は特にない)である。名称の長さや有無などはなんとかしてほしいが、それはさておき、前者はいわゆるチャットボット。富士通のPCサポート部門の対話を学習済みであり、個別のコールセンターの対話を追加学習させることで一定レベルまで自動応答できるようになるという。「AIに関して様々な問い合わせや依頼をもらっているが、中でもコールセンターの実需が多い」(谷口副社長、図1)。それゆえこのサービスを優先した形だ。

図1 富士通Zinraiのビジネス状況。コールセンター関連がトップ
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 後者は企業が保有する研究報告や過去の契約書、提案資料などの文書を入力すると、AIが文書同士の関連性を認識し、一覧化したり、視覚的に把握しやすくするサービス。事例として発表のあった野村證券のケースでは、「数億件規模の業務データのチェックに同サービスを適用。数10件程度のデータを人手によるチェックとは異なるものと認識し、うち数件はベテランの担当者が気付かなかったパターンを抽出できた」(原裕貴同社執行役員デジタルサービス部門AIサービス事業本部担当)という。

 (4)の量子コンピュータ技術は、実際の量子コンピュータではない。確率論の手法を用いてある状態からより最適な状態への探索を繰り返す「基本最適化回路」(FPGAを使ったデジタル回路)を集積して並列動作させることにより、量子アニーリングと呼ばれる処理を擬似的に実行するもの。富士通研究所がカナダのトロント大学と共同開発したアーキテクチャであり(http://pr.fujitsu.com/jp/news/2016/10/20-1.html)、富士通はこれを「デジタルアニーラ」と呼んでいる。今回、デジタルアニーラ上でカナダの1QBit社が開発した量子コンピュータ向けソフトウェアを稼働させ、 Zinraiディープラーニングのオプションとして2017年中に提供すると発表した。物流や投資ポートフォリオの最適化など計算量の多い組み合わせ最適化問題に向く。

富士通のAI戦略はまだ始まったばかり?

 富士通は、2015年11月に「Human Centric AI Zinrai」というAIに関する統一ブランドを発表し、2016年秋にはZDLSやDLUの開発意向を表明したものの、実際に使えるAI関連サービスや製品については控えめというか、様子見とさえ思える姿勢だった。しかし5月16日に発表した上記の製品、サービス、技術以前にも2017年だけで

  • 2月:グラフ形式データを解析するディープライニング技術「Deep Tensor」(図2)
  • 3月:理化学研究所とAIに関する連携センターを設置
  • 4月:機械学習/深層学習フレームワーク「ReNom」を持つベンチャー企業、グリッドとの提携

といったことを発表済み。今回の発表会では「日本はディープライニングに投入し、学習させるデータが足りない。CG技術で様々なバリエーションの画像を生成し、不足を補う技術も開発している」(吉沢尚子AI基盤事業本部長)とも言い、ここへ来てAI関連のサービス、製品開発に本腰を入れ始めた。

図2 「Deep Tensor」の特徴と用途
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 それでもすでに様々なAPIを提供しているマイクロソフトやAWS、Watsonで多彩な実績を積み上げているIBMなどとの差は大きい。かつて富士通が提供していた機械翻訳システム「Atlas」もいつの間にか市場から消え、今日では機械翻訳といえばGoogle、マイクロソフトが席巻する。谷口副社長は、「状況は承知している。AIは今後のビジネスにおいて必然の存在であり、サービスの開発や提供をさらに加速していく」と語る。見方を変えれば、富士通のAIの取り組みは、まだ始まったばかりだ。

 

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