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[イベントレポート]

ユーザー/IT基盤技術/業界の3動向から読み解く、クラウド/データセンターの今とこれから

クラウド&データセンターコンファレンス 2017 Summer アフタヌーン基調講演レポート

2017年8月18日(金)狐塚 淳(クリエイターズギルド)

企業が求めるITインフラ像が数年前とは様変わりしている。企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)を含む今日のビジネス課題に応えうるITインフラを求め、また事業者はそうしたユーザーニーズを充足するITインフラの提供に努めている。クラウド&データセンターコンファレンス2016-17(主催:インプレス)のアフタヌーン基調講演に、国際大学GLOCOM 客員教授 林雅之氏が登壇。国内外のクラウド/DC動向を毎日発信し続ける林氏が、ユーザー/IT基盤技術/業界の3動向から、この分野・業界の“現在のリアル”と“この先起こること”を読み解いた。

デジタル社会の進展とIT部門の役割

写真1:国際大学GLOCOM 客員教授 林雅之氏

 ITインフラの提供側と利用側双方にとっての課題を挙げ、今後を展望した「クラウド&データセンターコンファレンス2017 Summer」(オープニング基調講演)。アフタヌーン基調講演に登壇した林氏(写真1)は冒頭、「2017年末には、グローバル2000企業のCEOの3分の2がデジタルトランスフォーメーションを企業戦略の中心に据えるようになります」と切り出し、ユーザー企業側でのデジタルトランスフォーメーションの機運向上について言及した。

 市場調査会社IDC Japanの定義によれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、ビッグデータやクラウドなど第3のプラットフォーム技術を用いて、新製品やサービス、新しいビジネスモデル、新しい環境などを確立して価値を生み出し、競争上の優位を獲得する取り組みを指す。

 従来型の情報システムの構築・運用にとどまっていた企業のIT部門が、デジタル技術を駆使した新しいビジネスモデルの創出で大きな役割を果たすようになる。事業部門はエンドユーザー向けサービスの俊敏な展開が可能になり、企業はサービスプロバイダーのようなサービス/サポートの提供を行うようになる。これがDXの潮流の中で期待され、課題となるIT部門の新しい役割である、と林氏は説明した。

 「これらの新しいビジネスモデルの大半は、外部のクラウドやデータセンターを基盤に構築される流れになるでしょう。顧客や社外パートナーなどとの関係性も、収益を目指すビジネスモデルの中で大きく変化していきます」(林氏)

 林氏は、「デジタル社会は段階的に進展していく」として、個別の技術要素であるクラウドやモバイル、ソーシャル、ビッグデータなどの統合から始まり、IoTやAI、ブロックチェーンなどを主役にしたDXの実現を経て、将来的にはロボット、自動(自律)運転車といったスマートマシンが普及していくという発展のロードマップをスライドに示した(図1)。「この中でブロックチェーンは最近の注目技術ですが、2021年の市場規模は298億円に達すると予想されています。その基盤となるのもやはりクラウドとデータセンターです」(林氏)

図1:デジタル社会の進展イメージ(出典:林雅之氏)
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 林氏によれば、デジタル社会進展の過程においては、AI/IoTを中心とした「デジタルインテグレーション」が重要になるという。「従来のインテグレーションと比較して、レイヤが横断的であり、さまざまな領域の新技術の知識が必要とされます。デジタルインテグレーションは大きなビジネスチャンスであり、多くの企業にとって、市場での差別化要因になる可能性が高いです。ただし、スキルの高い『デジタルインテグレーター』は不足するでしょう」(林氏)。また、デジタルビジネスの進展で多種膨大なデータが多方面から集まってくるため、データドリブンのエコシステムを構築する必要も生じるという。

 しかし一方で、国内企業はデジタルの重要性の理解が進んでいないと林氏は指摘。「日本企業と海外企業のCEOの意識調査から、日本のCEOはイノベーションを非常に重視していることが判明しました。ところが、デジタルおよびデジタル技術に関する能力を重視しているCEOは、世界の15%に対して日本はわずか4%。トップの理解が進むまで、日本企業のDXはまだまだ時間のかかるアプローチになると言えます」(林氏)

メガクラウドの寡占状態に国内事業者はどう対抗するか

 セッションの話題が、DXの基盤たるクラウド基盤サービス市場動向に移った。焦点は、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCF)、IBM Bluemixという4社のサービスですでに勝負は決している感がある中、国内のデータセンター/クラウドサービス事業者はどのような策を取っていくかである。

 林氏は、今後、AWSとAzureの2強の独占が進み、2019年までにIaaS事業者の90%が撤退を余儀なくされるという米ガートナーの予測を示した。現在、AWSのシェアがグローバル全体の30%を占め断トツのトップだが成長率は50%を切っており、2番手のAzure、3番手のGCFが高い成長率で追いかけている。「これらに続くKDDI、ソフトバンク、富士通、NTTコミュニケーションズなどの国内事業者勢は、さまざまな提携・協業を探っている」(林氏)状況だ。

 林氏によれば、世界4大クラウドベンダーがそれぞれのエコシステムを成長させていく一方、買収・再設計などの差別化や、大型ソリューション案件に注力する事業者が増えているという。「国内事業者がグローバル展開で海外ベンダーと契約を結ぶ際には、販売や開発体制を条件として示す必要があります。例えばNECはマイクロソフトと協業し、大規模なAzure販売/構築支援体制を整えています。とはいえ、提携に成功しても、海外のサービスと自社のサービスをバランスよくユーザーに提供していくことは難しい課題になります」(林氏)

 そうした困難な舵取りが待ち受けていることも含め、国内事業者間の競争は、ホステッドプライベートクラウドを主戦場に今後激化するという(図2)。「国内ではパブリッククラウドよりホステッドプライベートクラウドのほうが高い成長率で市場規模も大きい。ホステッドプライベートクラウド市場の競争はもっと激しくなるでしょう。多くの国内事業者が、たとえパブリッククラウド市場を海外勢に握られても、売り上げ単価の高いホステッドプライベートクラウドで顧客をつかみ、トータルでクラウド関連の売り上げを伸ばしていく戦略に変えてきています」(林氏)

図2:国内クラウド市場で大半を占めるホステッドプライベートクラウド(出典:MM総研「国内クラウドサービス需要動向」2016年12月13日)
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 林氏は、2020年までに企業のITインフラとソフトウェア利用の67%がクラウドベースのサービスに移行するという米IDCの市場予測を挙げた。定型的な業務はSaaSへ移行し、ITインフラはIaaS(PaaS)が主流になっていくという流れだ。ただし、パブリッククラウドだけが伸びるのではなく、専用型のプライベートクラウドが伸びていくと指摘した。

 「2020年までにクラウドサービス事業者の収益の70%がパートナーやブローカー経由になる」というガートナーの予測を挙げて、林氏はパートナーエコシステムの拡充とそこでの“協創”活動の重要性を強調。そして、「クラウドコンサルティング、クラウドインテグレーション、マネージドサービスプロバイダー(MSP)といった複合型サービスの提供に取り組む過程でビジネスチャンスを得る可能性が高まるでしょう」と、今後の国内事業者の目指す方向性を示唆した(図3

図3:クラウド基盤サービスのパートナーエコシステム(出典:林雅之氏)
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 また、技術の潮流として近年注目度が増しているコンテナにも触れた。林氏は、世界で稼働するコンテナのインスタンス数が2015年の約200万から2020年には500倍の約10億に増加するという米IDCの予測を挙げた。「代表的なコンテナ管理ソフトウェアのDockerの導入はまだこれからですが、今後、使い勝手が上がれば飛躍的に利用が伸びてくる可能性があります」とした。

 そのほか、2019年までにIoTデータの43%はクラウドサービスのエッジ側で処理されるようになるという米IDCの予測と共に、IoT時代のコンピューティングアーキテクチャにも言及。「工場内や病院などにエッジコンピューティングの仕組みを置く現場指向型や、コネクテッドカーなどの分散協調型が考えられます。今後、データセンター事業者の側では、マイクロデータセンターの構築など、エッジ対応の議論がもっと必要になりそうです」(林氏)

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