[市場動向]

スパコン「富岳」で3.5kmメッシュ・1024回の大規模な全球気象シミュレーションを実施

2020年11月20日(金)日川 佳三(IT Leaders編集部)

国立環境研究所、理化学研究所、富士通、メトロ、東京大学大気海洋研究所は2020年11月20日、スーパーコンピュータ「富岳」を用いて大規模な全球気象シミュレーションを実現したと発表した。水平3.5キロメートルメッシュと細かい精度で1024種類のシミュレーションを実行した。世界の気象機関が日々行っている気象予測のための計算と比較して、およそ500倍の大きさに当たる。将来の気象予報・気候変動予測の精度向上に繋がる、としている。

 現在の気象予測は、世界中で毎時刻行われている気象観測の情報と、コンピュータを用いた数値シミュレーション、さらに観測データとシミュレーションを数学的な手法を用いて繋ぎ合わせるデータ同化によって支えられているという。

 気象予測の精度を高めるためには、観測データの利用効率を上げ、よりメッシュの細かい数値シミュレーションを実行し、より多くのアンサンブル計算(誤差の範囲内にある複数のシミュレーションを実行し、実際の観測データとつきあわせ、シミュレーションの軌道を修正して「確からしさ」を高める)を行う必要があるとのことだ。

 「しかし、そのどれもが、より多くの計算を必要とする。また、計算だけでなく、シミュレーションが出力するデータサイズも大きくなるため、データの転送を現実的な時間内に終わらせることについても限界がある」。

3.5kmメッシュ1024回のシミュレーション計算を実施

 国立環境研究所、理化学研究所、富士通、メトロ、東京大学大気海洋研究所による研究では、現在気象庁などが行っている計算と比べて30倍以上多い1024個のアンサンブル計算を行った。シミュレーション数の増加によって、効果的に観測データの情報を活用できるので、実際の天気予報の精度を向上させることができる。

 研究グループは、3.5kmメッシュで1024個のアンサンブル計算では、富岳の総計算ノード数の82%にあたる13万1072ノード(629万1456個の計算コア)を利用し、シミュレーション部分で29PFLOPS、データ同化部分で79PFLOPSの計算性能を得た。一連の計算全体を4時間弱で終わらせられる見積もりという。

 研究グループは、今回の実験における計算の流れと、それぞれの計算で行うデータの入出力量は、図1に示している。

図1:NICAM-LETKFデータ同化システムの実行の流れとデータの移動量(出典:国立環境研究所、理化学研究所、富士通、メトロ、東京大学大気海洋研究所)図1:NICAM-LETKFデータ同化システムの実行の流れとデータの移動量(出典:国立環境研究所、理化学研究所、富士通、メトロ、東京大学大気海洋研究所)
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 まず、256個ずつのシミュレーション計算を実行し、これを4回繰り返すことで、1024個のアンサンブル結果を得た。出力データはのべ1.4PB、ファイル数は100万個に達した。データ同化パートでは、出力したデータを一気に読み込んで解析した。

ソフトウェアの工夫でデータ転送と読み書きの時間を削減

 シミュレーションパートとデータ同化パートで大がかりなデータの持ち替えを行わなければなけない点が、全体の計算時間に大きな影響を与えるという。このため、今回の研究では、全く別々に開発したプログラムである、大気シミュレーションモデルNICAMと、LETKFデータ同化システムの間のコデザインを行った。

 「なるべく同時にたくさんのファイルを、それぞれの計算機の近くにある高速なディスク(SSD)を使って読み書きすることを徹底し、データの持ち替えにともなう移動も最小限になるように改良した。これにより、たくさんの計算機を同時に利用する場合にも、ファイルの読み書きにかかる時間を削減することに成功した」。

 実数の桁数を減らすことにも取り組んだ。「コンピュータの中では数字を2進数で表しており、有効数字の桁数が多い実数を表現するには、より多くの0と1の並びを準備しなければならない。この実数の精度を落とし、桁数を減らすことによって、移動するべきデータのサイズを減らした。また、計算機が1回の命令で処理するデータの数を増やした」。

 この一方で、精度を落とした計算ではシミュレーションの結果が劣化するため、理想化した実験などを用いて結果を劣化させる恐れのある計算区間を検証した。

 システムとアプリケーションのコデザインでは、コンパイラの改良を進め、一部の計算高速化が自動で適用されるようにした。また、数十万行あるプログラムコードの中に潜むたくさんの小さな「無駄な時間消費」を効率よく見つけ出す手法や、用途に合わせた数値計算ライブラリの改良を進めた。

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