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[インタビュー]

SMBCの次期勘定系は、相反する可用性と俊敏性をどう両立させるのか─日本総研の谷崎勝教社長に聞く

2022年11月9日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)

三井住友銀行が2025年の稼働を目指して次期勘定系システムを構築中だ。NECのメインフレーム新モデル「i-PX AKATSUKI」を採用して安定性/可用性を確保しつつ、俊敏に新機能や新サービスを追加できる柔軟性を併せ持つシステムを打ち出している。構築費用は約500億円と、メガバンクの勘定系システムとしては異例の低コストだ。いったいどういう仕掛けがあるのか。三井住友フィナンシャルグループのSIerとして構築の実務を担う日本総合研究所の谷崎勝教社長に聞いた。

SMBC次期勘定系システムの意義、仕掛けは?

 メガバンクや地方銀行を取り巻く環境は厳しさを増すばかりだ。長期化する低金利環境による預貸利ざやの低迷はもとより、テクノロジー活用や経営スピード・身軽さで勝るネット銀行の伸張、小売や流通業によるペイメント業務の拡大など、強い逆風が吹き続ける。一方で法令順守やサイバーセキュリティ対策など、コスト増加の要因は多い。文字どおり、待ったなしで変革を迫られている業界の筆頭だろう。

 そんな中にあって、三井住友銀行が2025年稼働を目指して次期勘定系(基幹系)システムの構築を進めていることは周知のとおりだ。ざっと復習すると構築に着手したのは2021年度で、2025年度に現行システムからの移行を完了させる。メインフレームとオープン系システムを組み合わせたアーキテクチャが特徴で、総投資額は約500億円、規模感は約2万人月である(関連記事三井住友銀行、次世代勘定系システムの構築に着手、2025年度に移行を完了)。

 2022年6月には次期勘定系システムに採用するメインフレームの新モデルを、NECが発表した。「i-PX AKATSUKI/A100シリーズ」(写真1)がそれで、コア数の倍増、耐故障性の強化、データ暗号化アクセラレーション機構の内蔵などにより処理性能や信頼性、セキュリティ、省電力化・省スペース化などを強化した。SMBCは東日本と西日本のデータセンターで各8台を運用しつつ、メンテナンス時にはそれぞれ半分の台数で縮退運転。残りをメンテすることで、24時間の無停止運転を可能にするという(関連記事NEC、ACOS-4メインフレームの新モデルを発表、三井住友銀行が次期勘定系システムに採用)。

写真1:三井住友銀行が次期勘定系システムに採用したメインフレーム新モデル「i-PX AKATSUKI/A100シリーズ」(出典:NEC)

 ここで、いくつかの疑問が生じる。①強い逆風が吹く環境に対し次期勘定系はどういう意義があるのか、②なぜ今、メインフレームか、③投資額の500億円は少なすぎないか、といったことだ。

 例えば③については、三菱UFJ銀行が2008年に勘定系を統合した際の投資は3300億円(14万人月)、みずほ銀行が2019年に稼働させた現行システム「MINORI」への投資は4000億円台(35万人月)とされる。時期や内容が違うので単純な比較は禁物だが、メガバンク同士のシステムなのにケタが違うのだ。

 これらの疑問について、このシステムの構築を担う日本総合研究所社長の谷崎勝教氏(写真2)に聞く機会があった。詳細は下記をお読みいただきたいが、厳しい環境に適応するための再構築およびメインフレームの採用であり、投資額の小ささにも納得できる理由があった。なお谷崎氏は三井住友フィナンシャルグループのグループCDIOでもあるが、今回は日本総研社長の立場で話を聞いている。

次期勘定系にメインフレームを採用した真意

──2021年度に構築に着手した、三井住友銀行の次期勘定系システムの基本的な考え方を教えてください。なぜ今、メインフレームを採用したのかも含めて。

写真2:日本総合研究所 代表取締役社長の谷崎勝教氏

谷崎氏:聞いていただいてありがとうございます(笑)。コンセプトを簡単に言えば、既存の勘定系システムで実行している処理の中で、メインフレームでしなくてもよい処理がたくさんあります。それを外に出していこうというのが我々の基本的な発想です。

 銀行のシステムは勘定系にいろんな機能やデータを加えてきた歴史があるので、どんどん大きくなってきたのです。何らかの新しいサービスをしようと思ったら、いちいち時間とコストをかけてチェックする必要のある仕組みになっていました。そこで、本当に中核の、心臓部であるトランザクション処理をする部分をできるだけ小さくし、ここはメインフレームで実行する。絶対止めないように、もう、ともかく安定性を重視します。

 一方で勘定系以外の処理はできるだけ、メインフレームとは別のオープンプラットフォームに持っていきます。オープン側に勘定系のミラーデータベースを作ってね。いろんな参照だけで済む情報とか、取引のデータを見て何かを返すような処理は、オープン系だけでできるようにします。ですからコアな勘定系システムとしては、もう完全にダウンサイジングをしていくのです(図1)。

図1:三井住友銀行の次世代勘定系システムのイメージ(出典:日本総合研究所)
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──メインフレームは勘定系のトランザクション処理だけに特化させると?

谷崎氏:そうです。NECのメインフレームで処理するのは、小さくする勘定系だけです。メインフレームのハードウェアの性能は今とはまるきり違ってきますから、トランザクション処理の増大を見越したときに何がボトルネックになるかというと、ソフトウェアです。そこを今以上に止まらないように、処理性能もよくなるように、ギュッと作り込みしてメインフレームで稼働させます。

──あえてお聞きしますが、メインフレームを撤廃することは考えなかったのですか?

谷崎氏:我々は2009年から3年ほどかけて、オープン勘定系の仕組みを検証しました。できるという自信はあったのですけど、実際には使いませんでした。2011年3月の東日本大震災の直後に、ある銀行のシステム障害があり、安定性が問われる状況になったんですよ。僕はそんな最中の2011年に情報システム部長になりましたが、もう「絶対に止めてはならん」というプレッシャーがあった(笑)。そんなこんなで、オープン勘定系に移行するメリットが本当にあるのかという議論になったのです。

 オープン系の大きなメリットは、要するにトータルコストですよね? でも作り込みやミドルウェアのバージョンアップ、トランザクション課金といった費用を考えると、これは何回もシミュレーションしていますけど、全体としてはたいして変わらないという結論です。安定性とコストときっちりと比較すると、実績がないことをやるよりもメインフレームのバージョンアップのほうが確実でコストも安いだろうと判断しました。

 当然、コストだけでなくて、僕らはメインフレームのチップレベルでこれだと性能が出るとか出ないとか、そういうことも研究しました。(チップ内部の)細かいことまではわからないけど、設計はどうなっていて製造はどこだというふうにです。台湾のファンドリーが作るっていうから、 部下に視察してもらうこともしました。当時は知らなかったけど、それは今ではだれもが知るTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company:台湾積体電路製造)です。

●Next:オープン勘定系への取り組みの歴史と得られた結論

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