[市場動向]

“Keep the Core Clean”を維持して、カスタム機能開発も可能に─S/4HANA Cloud新版でSAPが目指したこと

2022年11月15日(火)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)

独SAPの主力製品「SAP S/4HANA」をクラウド上で稼働させる「SAP S/4HANA Cloud」。その新バージョンの国内提供が2022年10月より始まった。新版で特に注目されるのは、ABAP言語を用いたカスタム機能開発手段の追加だ。日本企業からも強い要望があったというこの追加は、SAPが提唱する“Keep the Core Clean”(ユーザーはS/4HANAのコアに触れない)戦略とどう両立させることができるのだろうか。本稿では、S/4HANA Cloudのアップデート内容と共に、日本企業のクラウド移行を加速させるためにSAPが展開しているアプローチについても紹介する。

パブリッククラウド版がS/4HANA Cloudの第1選択肢

 SAPのERPアプリケーション製品群「SAP S/4HANA」には、以下の3つのエディションがある。

●S/4HANA:オンプレミス型ERP
●S/4HANA Cloud, Private Edition:プライベートクラウド型ERP
●S/4HANA Cloud (Public Edition):パブリッククラウド型ERP

 このうち、SAPが日本を含むグローバルを挙げて導入を推進しているのが、AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudといったハイパースケーラーのパブリッククラウド上に構築される「S/4HANA Cloud」、そして、顧客がそれらをSaaSとして利用可能にする「S/4HANA Cloud (Public Edition)」である。表1は、SAPジャパンが示す各エディションの特性と販売戦略である。

表1:SAP S/4HANAの3つの利用形態とSAPジャパンの販売戦略。事業のクラウドシフトを推進する過程で新規ERP導入を検討する顧客に対し、第1の選択肢としてPublic Editionを提案している(出典:SAPジャパン)
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 2021年に発表した、企業のビジネス変革を支援する包括的なサービス提供形態「RISE with SAP」においても、パブリッククラウド型のS/4HANA Cloudはインテリジェントでサステナブルな企業経営を支える中核的存在として位置づけられている(図1)。

図1:SAPがグローバルで展開する「RISE with SAP」において、S/4HANA Cloud (Public Edition)が移行の中核の位置にある(出典:SAPジャパン)
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 SAPジャパン バイスプレジデント RISEソリューション事業統括の稲垣利明氏(写真1)は次のようにユーザーメリットを訴えている。「オンプレミスでERPを“作り込む”のではなく、クラウドでERPを“使う”にシフトする。このことで、変化の激しい時代にありながら常に(四半期ごとのアップデートで追加される)最新の機能を使うことができ、新規投資やイノベーションへの取り組みがしやすくなる」

写真1:SAPジャパン バイスプレジデント RISEソリューション事業統括の稲垣利明氏

 表1にあるように、日本市場においても、「新規にERP導入を検討する顧客に対しては、第一の選択肢としてS/4HANA Cloudを強く推奨」(稲垣氏)しており、現在、SAPジャパンは、Public Edition事業体制の拡充に加え、パートナー企業も含めてそのエコシステムの構築を進めているところだ。

国内ユーザーの強い要望を反映した新版

 国内提供が始まった新版のS/4HANA Cloud(2022年8月リリース)では、UXの改善やグローバライゼーション/ローカライゼーション、サービス業界向けの機能拡張、支払通知エンジンの実装、購入製品のCO2排出量分析など多くの機能追加/拡張が施されている。その中でも「特に日本企業からの要望が強かった機能」として、稲垣氏は以下の3点を挙げている。

製造業向け機能の拡充:自動車販売会社、ハイテク、産業機械、精錬などの業界を対象にした機能を強化、エンドツーエンドの企業間販売や在庫移動のサポート、変更のリスクとコストの影響を分析する変更影響分析、出荷/配送プロセスの計画から実行までを統合するフロー、需要主導型生産計画など

機能拡張手段の追加(パートナーテンプレートの充実):ABAP(Advanced Business Application Programming)を用いたクラウドシステム上のカスタム機能開発、パートナーによる拡張

システム運用保守性の向上: 2システムランドスケープ(品質保証/本稼働)に加え、3システムランドスケープ(開発/品質保証/本稼働)の運用が可能、プロジェクトライン/メインライン/開発ラインの用途別構成

●Next:カスタム機能開発手段の追加は、Keep the Core Cleanと両立できるのか?

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