[ユーザー事例]

カシオ計算機がゼロトラスト移行をDXロードマップに組み込んだ理由

「この取り組みはセキュリティ対策にとどまらない」リーダーの大熊眞次郎氏、原田龍雄氏に聞く

2022年12月6日(火)齋藤 公二(インサイト合同会社 代表)

カシオ計算機が、ゼロトラストモデルを軸にしたセキュリティとネットワークの抜本的な見直しを進めている。担い手は、カシオのデジタルトランスフォーメーション(DX)をIT施策で支えるデジタル統轄部である。同部は、ゼロトラストへの取り組みをグローバルな事業/組織のデジタルシフトと密接に関わる一大プロジェクトととらえて推進している。その詳細について、取り組みをリードするカシオ計算機 デジタル統轄部 統合プラットフォーム部 エキスパートの大熊眞次郎氏と同部 インフラグループ グループマネジャの原田龍雄氏に聞いた。

グローバルネットワーク/セキュリティのあり方を変える

 時計や電卓、電子楽器、プロジェクター、ハンディターミナル、電子レジスターなどさまざまな電子機器を世界中で販売するカシオ計算機。以前より同社は、ゼロトラストモデルを軸にしたセキュリティとネットワークの抜本的な直しに取り組んでいる。

 カシオは、ゼロトラストへの移行を、歴史ある同社のグローバルネットワーク/セキュリティのあり方を変える一大プロジェクトととらえている。新たに設置したデジタル統轄部が中心になって、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを推進しているところでもあり、その取り組みは「DXを下支えする基盤」の構築という意味合いも持つという。

 今のカシオの業容を見ておこう。2021年度実績では、連結売上高のうち時計事業は60.3%、教育事業は21.6%、楽器事業は11.6%となっている。売上高比率は日本が25.3%、アジア・その他が42.4%、欧州が18.8%、北米が13.5%で、実に全体の4分の3が海外での売り上げだ。また、カシオグループとして、世界43社、192の国と地域で商標権を取得・保護している。

 カシオ計算機 デジタル統轄部 統合プラットフォーム部 エキスパートの大熊眞次郎氏(写真1)は、「ゼロトラストの取り組みは、グローバル規模かつ事業/組織変革と密接に関わってきます。当社のDXやこれからの働き方を左右する、大きなチャレンジと言えます」と話す。

写真1:カシオ計算機 デジタル統轄部 統合プラットフォーム部 エキスパートの大熊眞次郎氏

 カシオは経営理念に「創造貢献」を掲げ、パーパス(社会における存在価値)として「使う人にとって最も大切な存在を創り続ける」ことを据えている。この理念とパーパスを実現するために、経営基盤の抜本的な改革を進めており、ゼロトラストの取り組みもその一環となるものだという。

 「ゼロトラストを推進する目的の1つに、外部環境の変化に柔軟に適応するレジリエンスの強化があります。セキュリティインシデントやシステムトラブルなどが起こったときも、製品やサービスを安全にお客様に提供し続けられるようにします。この高いレジリエンスをもって、カシオの中長期の成長戦略を支えていくというのが大きなねらいです」(大熊氏)

バリューチェーン全体をセキュアに守る仕組みが必要

 カシオのDXを象徴する新しいプロジェクトの1つに、2021年10月にスタートした「My G-SHOCK」がある。「カシオ史上初のOne to Oneのものづくりへのチャレンジ」になるもので、6億通りの組み合わせの中から、自分だけのG-SHOCKをオンデマンドで作ることができるというカスタムサービスである(図1)。

図1:カシオのDXを象徴する「MY G-SHOCK」(出典:カシオ計算機)
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 G-SHOCKファンをはじめユーザーにとって楽しく、親しみのわくサービスだが、これは言ってみれば、究極の多品種少量生産である。実際にサービスを成立させるためには、同社ECサイト「CASIOオンラインストア」での販売から、基幹システムでの受発注処理・売上計上、製造管理システムでのオーダー情報管理・製造状況管理、倉庫管理システムでの在庫・出荷管理、API連携の「HUBシステム」、カスタマイズ用エンジンなど、バックエンドからフロントエンドまで、あらゆるシステムが連携する必要がある。

 「My G-SHOCKのような、DXの取り組みの中で生まれてくる新しいサービスは、さまざまなシステムが安全に連携することが実現の前提で、ネットワークやAPIの扱いが大きなポイントです。多数のシステムが連なる途中で、もし不正アクセスや改竄、サイバー攻撃を受けてしまえば、新しいサービスや価値をお客様に提供すること自体が難しくなります」(大熊氏)

 そこで、従来それぞれのシステムごとに担保していたセキュリティを、今後はサービスのサプライチェーンやバリューチェーン全体で担保することが重要になると同氏は説明する。そうなると、ネットワークのゼロトラスト化は必然の取り組みとなる。

 カシオでは、My G-SHOCKのほかにも新規領域でさまざまな取り組みを推進している。スポーツ・健康領域では、ウォーキング/ランニング愛好者向けのパーソナルコーチ「Walkmetrix」「Runmetrix」、メディカル領域で医工連携を支援するソリューション「D'z IMAGE」、イメージング領域でカメラ機能とAI機能を1つの端末内で提供するクラウドAI、プロジェクション領域でのAR活用のための組み込み用プロジェクションモジュールなどだ。こうした新規領域での事業展開を加速させるためにも、ゼロトラストへの移行が待ったなしの課題となったわけだ。

●Next:カシオが描いたゼロトラストへの移行ロードマップ

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