[市場動向]

「2025年までに200万人のアップスキルを目指す」─教育に注力するSAPがCourseraと提携

システム開発の内製化支援と合わせて“SAPシステム人材”の拡大を目指す

2022年12月28日(水)末岡 洋子(ITジャーナリスト)

IT/ハイテク企業のレイオフ報道が続いているが、ソフトウェア開発者やITエンジニアの人材不足は世界的・長期的な傾向にある。独SAPは、同社エコシステムに携わるソフトウェア開発者/エンジニアの裾野拡大に向けて、ローコード/ノーコードによるシステム開発の内製化/市民開発や、IT人材育成/教育に大きな投資を行い、状況を打開しようとしている。2022年11月15日・16日に米サンフランシスコで開催されたメディア向けイベント「SAP Business Innovation Day」で、一連の取り組みが説明された。

 SAP Business Innovation Dayは、米ラスベガスでの開発者向け年次イベント「SAP TechEd 2022」と同時開催の形で、SAPの幹部がTechEdで発表された内容を、サンフランシスコでメディア向けに説明するスタイルをとった。

 今回フィーチャーされたのは、SAPエコシステムに携わるソフトウェア開発者/エンジニアの裾野拡大に向けて取り組みだ。SAPが数年がかりで進めてきたローコード/ノーコード開発プラットフォームに加えて、新しい開発者を取り込む意図から、オンライン学習プラットフォームのCourseraとの提携が紹介された。

ローコード/ノーコードの統合環境「SAP Build」を紹介

 SAPのローコード/ノーコード開発プラットフォームは今後、「SAP Build」と総称される。データ、アナリティクス、AI、アプリケーション開発、自動化などの統合プラットフォーム「SAP Business Technology Platform(BTP)」の一角という位置づけになる。なお、独SAPのエグゼクティブボードでCTOを務めるユルゲン・ミューラー(Juergen Mueller)氏(写真1)によると、SAP BTPは2021年1月の発表以来、すでに世界で1万5000以上の顧客が活用しているという。

写真1:独SAPのエグゼクティブボード/CTO、ユルゲン・ミューラー氏

 SAP Buildは、買収により2021年1月よりポートフォリオに加わったノーコード開発ツールの「SAP AppGyver」、デジタルワークプレイス構築のための「SAP Work Zone」、新UIであるSAP Fioriベースの「SAP Launchpad Service」といったこれまでの取り組みをまとめたものだ。

 このうちSAP AppGyverとSAP Work Zoneは、SAP Buildの発表に伴って、「SAP Build Apps」「SAP Build Work Zone」とそれぞれ名称が変更された。両製品に、プロセス自動化/プロセスマイニングツール「SAP Signavio」との連携も可能な「SAP Build Process Automation」(画面1)を加えた3つの製品でSAP Buildプラットフォームを構成している。

画面1:「SAP Build Process Automation」の画面(出典:独SAP)
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 ミューラー氏はSAP Buildを次のようにアピールした。「ビジネスユーザーがみずからの手で課題を解決するサービスを迅速に構築できる。世界最大のドメイン固有ライブラリにより、事前統合済みのワークフローと自動化を1300以上用意している。また、IT部門向けには、一貫性のあるガバナンスとライフサイクルを管理するローコード開発プラットフォームを提供しており、ビジネス部門とIT部門のコラボレーションを促進する」

Courseraと提携してSAP認定付き講座を開始

 IT/ハイテク企業のレイオフのニュースが続いているが、ソフトウェア開発者やITエンジニアの人材不足は世界的・長期的な傾向にある。「世界中の大学や高等教育機関、教育プログラムの受講生をかき集めても足りない」とミュラー氏。SAPは、SAP Buildの促進をはじめとする既存のSAP顧客のアップスキルに加えて、新規の取り込みにも力を入れている。「2025年までに200万人のアップスキルを目指す」という野心的な目標を掲げる。

 そこで重要な役割を果たすのが、有力なMOOC(Massive Open Online Course:大規模公開オンライン講座)プラットフォームである米Cousera(コーセラ)との提携だ。

 サンフランシスコから車で約1時間の都市、サン・ラモン(San Ramon)に開設したSAP Academy for EngineeringでCLO(Chief Learning Officer)を務めるマクスウェル・ウェセル(Maxwell Wessel)氏(写真2)が、CourseraのCPO(Chief People Officer:最高人材活用責任者)のリッチ・ジャケット(Rich Jacquet)氏(写真3)と共に提携について説明してくれた。

写真2:SAP Academy for EngineeringのCLO(Chief Learning Officer)、マクスウェル・ウェセル氏。米スタンフォード経営大学院の非常勤講師も務める

 ウェセル氏は、「あらゆる業務にテクノロジーが入ってくることで、2030年までに10億人をリスキルする必要がある」という世界経済フォーラム(WEF)の予測を引用。「10億人という数は現在の就労者の3人に1人にあたる。プロの開発者や市民開発者だけでなく、店舗のフロア担当者など、さまざまな業務の人が対象になる」と語った。「大卒などこれまで以外のルートへのアクセス」と「教育分野へのアクセス」という施策のポイントを挙げる同氏は、「そこで重要な入口になるのがCourseraだ」とした。

 現在、Courseraでは世界1億1000万人以上が学んでいる。創業者2人の出身校である米スタンフォード大学、ペンシルベニア大学などの学術機関だけでなく、グーグルやIBM、Metaなどもコースを開講している。SAPはまず、7つの学習コースを始めるという。例えば、その1つ「SAP Technology Consultant」を受講し修了すると、SAPコンサルタントの認定が得られる。

写真3:CourseraのCPO(Chief People Officer)、リッチ・ジャケット氏

 ジャケット氏は、「さまざまな国から、さまざまなバックグラウンドを持つ人がCourseraで学んでいる。なぜなら皆、教育は自分たちの生活を変えると信じているからだ」と語った。SAPは、そのような意欲を持つ層に照準を合わせ、初級レベルの学習者向けのプログラムを多数揃えている。

 今回加わるSAPがそうしたように、グーグルなどが提供する講座の多くは認定プログラムの取得がセットになっている。受講者にとっては、すぐに雇用につながることもあり人気だという。ウェセル氏によると、2022年10月31日にローンチして以来、SAPのコースのページには1万人の訪問者があったという(画面2)。

画面2:CourseraのSAP講座ポータルページ
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●Next:競争激化のオンライン学習コースで、受講者がSAPを選ぶ理由は?

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