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異例のスピードで立ち上げた「子ども食費支援事業」─大阪府が取り組む行政のデジタルシフト

2023年12月18日(月)神 幸葉(IT Leaders編集部)

物価高騰が長期化する中で、大阪府が2023年3月から実施している「大阪府子ども食費支援事業」。家計に占める食費の割合が大きい子育て世代に米や食料品を給付する、府民約139万人を対象にした生活支援施策だ。施策決定から数カ月でシステムを構築してスタートさせたスピード感は、府が見据えるスマートシティ構想やデジタルトランスフォーメーションにも生かしていく考えだ。同事業を主導した大阪府 スマートシティ戦略部 行政DX推進課 推進グループ 総括主査の大野哲史氏、福祉部 福祉総務課 物価高騰対策チーム 参事の廣川宏氏に話を聞いた。

アナログな業務スタイルからの脱却

 大阪府(府庁所在地:大阪市中央区)は2020年3月に住民のQOL向上を目標に掲げた大阪スマートシティ戦略を策定し、同年4月新設のスマートシティ戦略部を中心に、庁内における業務の効率化・生産性向上を図るべく、民間企業との協業やIT/デジタルを活用した業務改革に取り組んでいる。(図1)。

図1:大阪スマートシティ戦略の概要(出典:大阪府)
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 スマートシティ戦略部の立ち位置を、同部 行政DX推進課 推進グループ 総括主査の大野哲史氏(写真1)は「庁内の各部門のデジタルトランスフォーメーション(DX)を伴走支援し、結果として府民によりよいサービスを届けることを目指す組織」と説明する。当初は通常業務の変革を目指していたが、新型コロナウイルスの流行により、支援対策への優先度が高まり、アナログからデジタルへのシフトが急速に進んでいったという。

写真1:大阪府 スマートシティ戦略部 行政DX推進課 推進グループ 総括主査の大野哲史氏

異例のスピードで立ち上げた食費支援事業

 そのスマートシティ戦略部が手がけたプロジェクトの1つに、2022年11月から福祉部総務課の物価高騰対策チームと共に取り組む「大阪府子ども食費支援事業」がある。物価高騰の長期化を受けて、特に家計に占める食費の割合が多い子育て世代に対し、米または食料品を給付するという支援施策だ(画面1)。

画面1:大阪府子ども食費支援事業のWebサイト(出典:大阪府)
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 2022年度内の事業開始を目指して同年11月末から事業内容を固めて、12月下旬に委託事業者の入札、1月下旬にデロイト トーマツ コンサルティングへの申請システムの構築委託を決定。3月下旬には事業を開始しており、府の事業としては異例のスピードとなった。なお、申請システムの構築以外では申請後の審査業務、コールセンター業務、商品の手配業務などをJTB、大日本印刷、ギフトパットの共同事業体が担う。

 事業の第1弾は申請期間が2023年3月22日~6月30日、商品交換期間が8月31日まで。第2弾は9月1日~11月30日の期間で交換期限は2024年1月31日までとなっている。支援対象は大阪府の18歳以下の児童と妊婦139万1000人で、第1弾の申請率は78.4%、第2弾は2023年11月末時点で81.8%と第1弾を上回った。

 「給付事業のため、1人でも多くの方に申請してもらうことが前提です。もちろん食料品の支援は不要というご家庭もあり義務ではありませんが、事業そのものを知らなかったと言われることは避けたく、広報活動にも注力しました」と福祉部 福祉総務課 物価高騰対策チーム 参事の廣川宏氏(写真2)は説明する。吉村洋文府知事の会見での紹介やチラシの配布・設置などを行ったが、クチコミやSNSを通じて知ったという人が一番多かったという。

写真2:大阪府 福祉部 福祉総務課 物価高騰対策チーム 参事の廣川宏氏

スムーズかつ安全な申請受付体制を構築

 給付申請は、原則保護者が対象の児童に関する必要事項をWebフォームに入力し、本人確認書類のアップロードを行って完了となる。府の審査が完了すると、メールでクーポンIDと給付物品受取サイトのURLが届く。申請者はクーポンIDを「お米PAYおおさか」に登録することで、対象店で米を購入または選択した給付物品受け取りサイトから約5000円相当の米または食料品を受け取れる仕組みになっている。

 申請を世帯単位ではなく、対象の児童ごとに申請が必要なシステムとしたのは、シンプルなシステム構築を優先したためだ。「世帯単位で申請を受けると、兄弟のうち1人が書類不備の時、世帯ごと支給が遅れてしまいます。その対策を講じれば事業開始が遅れてしまうので、スピード感のある事業開始と審査を優先し、児童単位での申請にしました」(廣川氏)

 申請システムは、セールスフォース・ジャパンの顧客管理プラットフォーム「Salesforce」をベースに構築している。大規模自治体の新型コロナウイルスワクチン接種予約サイトや療養者管理などの実績などからSalesforceを委託事業者が選択したという。

 「新事業でかつ対象者も100万人超と、府が行うこの種の施策で最大規模のシステムとなります。初日の申請数も予測できない中で、どれだけアクセスが集中してもサーバーがダウンしないシステムをどう実現するかという課題もありました」と大野氏。コロナ禍で中小企業支援などの申請をオンラインで受け付けた経験もあったが、そのときの申請対象数は10万程度であったという。そこでSalesforceによる本システムに加えて、外部サービスとして「Web待合室」を設けることでアクセス集中の緩和を図ることにした。

 そして、大規模自治体の施策として情報セキュリティはこのうえなく重要となる。府は今回のシステム構築に伴い、ウィズセキュアのクラウドセキュリティツール「WithSecure Cloud Protection for Salesforce」を導入し、SalesforceにアップロードされたファイルやURLを介した攻撃への対策を講じて、申請者の本人確認書類をはじめとした重要ファイルを保護する。

 「手作業で本人確認書類を1つずつチェックしているのでは時間がかかり過ぎてしまいます。人間のチェックが必要な場合のみアラートを上げられるようにし、担当者がそこに集中して業務にあたれるようにしました」(廣川氏)

 2023年3月22日、第1弾申請の受付がスタート。初日に7万人の申請があったが構築したシステムはトラブルなく稼働して処理を進めることができた。一方で、数万件単位で毎日届く申請を前に200人体制でも審査業務が追い付かず、申請受付が問題なく済んでも、審査完了メールの送信に1、2週間待たせてしまったという。アップロードされた本人確認書類と行政に登録されている情報が合致しているか、重複申請はないかといった確認を人の目で入念に行う必要があり、その作業負荷が府の想定したマンパワーを超えてしまったようだ。

●Next:府民/府庁の双方の負担を軽減する仕組みと、DX人材育成の試み

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