[技術解説]

累計1億人が利用する「pixiv」のタイムリーな開発を支えるRuby on Rails─ピクシブ

Ruby開発最前線─Ruby bizグランプリ2023大賞サービスを紹介(1)

2024年4月2日(火)Ruby bizグランプリ実行委員会

日本発のオープンソースのプログラミング言語「Ruby」と、その開発フレームワーク「Ruby on Rails」。これらを用いて開発されたアプリケーションやサービスは数多あるが、その中から、特にすぐれたものを表彰するのが年次アワードプログラム「Ruby bizグランプリ」だ。本稿ではRuby biz グランプリ2023の大賞に選ばれた2つのサービスのうち、イラスト、マンガ、小説の投稿プラットフォーム「pixiv」とその関連サービス(開発:ピクシブ)を紹介する。

Rubyのすぐれたビジネス事例を表彰するアワード

 Rubyは、生産性を高めるフレームワークRuby on Railsと共に、世界の多くの開発現場で使われているオープンソースのプログラミング言語である。その普及を促進するために2015年に始まったのが「Ruby bizグランプリ」という年次アワードプログラムだ。Rubyの開発者まつもとゆきひろ氏の活動拠点である島根県が中心になって組織したRuby bizグランプリ実行委員会が主催し、グランプリの審査委員長をまつもと氏自身が務めている。

 アワード名のとおり、Rubyを使って開発されたビジネス用途のシステムやサービスの中から、新規性、独創性、市場性、将来性に富み、今後継続的に発展が期待できる事例を表彰する。

 前回のRuby bizグランプリ2022では、JUKI松江が開発した『mruby/cで実装されたミシンの補助装置』(関連記事老舗ミシンメーカーの『縫い』へのこだわりを形にした「楯縫(たてぬい)プロジェクト」─JUKI松江)と、Shippioが開発した国際物流プラットフォーム「Shippio(シッピオ)」(関連記事アナログ業務が多く残る国際物流の現場をデジタル化するプラットフォーム「Shippio」─Shippio)が大賞を受賞している(関連記事2018~2022年のRuby bizグランプリ大賞を紹介した記事)。


Ruby bizグランプリ2023大賞
イラスト、マンガ、小説の投稿プラットフォーム「pixiv」およびpixiv関連サービス
開発概要:pixiv、pixiv関連サービス
開発企業:ピクシブ https://www.pixiv.co.jp/
開発した主なシステム: BOOTH、pixiv FACTORY、pixiv Sketch、pixivノベル、Palcy、VRoid Hub、pixiv Ads、pixivコミック
利用技術
・Ruby/Ruby on Rails
・MySQL
・Go
・React
・Vue.js
・TypeScript
ニーズおよび解決したかったこと:創作活動の楽しさを広げるための高速かつ柔軟な事業展開を行うこと
Ruby採用理由
・RubyとRuby on Railsの明快さ
・Rubyコミュニティとのつながりの強さ
・堅牢なシステムとしての運用実績
Ruby採用効果
・他言語と併用することでの技術力の強化
・複数プロダクトでの開発・運用ナレッジの獲得
・コミュニティとともに技術を進めている実感
・活発なRubyコミュニティからの縁で多様性のあるメンバーを採用できた
審査委員長 まつもとゆきひろ氏コメント: クリエイターエコノミーという時代の流れに沿っている。すでに国際的な知名度があり、この分野において世界一と言えるサービスにRubyが貢献している点を評価した。

●もう1つのRuby bizグランプリ2023大賞の記事はこちら
関連記事魚市場から生まれた水産流通プラットフォーム「UUUO」、Rubyで迅速開発─ウーオ

Railsを活用してpixivの周辺サービスを拡大

 2005年に設立したピクシブ(本社:東京都渋谷区、画面1)は、イラスト、マンガ、小説といったポップカルチャーのコンテンツに根ざして事業を展開している。現在は従業員数約600人、そのうち約180人がエンジニアである。

画面1:ピクシブのコーポレートサイト
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 ピクシブのメイン事業は、イラスト、マンガ、小説の投稿プラットフォーム「pixiv」の開発・運営だ。2007年にサービスを開始し、2024年2月現在、累計ユーザー数1億人以上、1億3000万以上の作品が投稿されている。個人で活動するクリエイターから創作の舞台として大きな支持を集めており、国内だけでなく海外のユーザーも多い。新規登録ユーザーの約7割が海外からで、約230の国・地域のユーザーが利用しているという。

 同社はpixivを中心に創作活動にまつわる多彩なサービスを展開している。当初の開発基盤はPHPだが、2011年頃からRuby/Ruby on Railsを取り入れ始めた。創作物の総合マーケットプレイス「BOOTH」、グッズ制作サービスの「pixivFACTORY」、pixiv投稿マンガや出版社とのコラボ作品などが楽しめるマンガサービス「pixivコミック」、講談社と共同で企画・運営・開発するマンガアプリ「Palcy」、小説の無料試し読みや連載小説を楽しめるサービス「pixivノベル」、3Dキャラクターのための投稿・共有プラットフォーム「VRoid Hub」など、多くのサービスをRailsで開発している。「Railsの特性を生かしてさまざまなプロダクトの開発が迅速/スムーズになり、タイムリーなリリースにつながっている」(同社)という(図1)。

図1:Ruby on Railsを活用した高速なプロダクト開発(出典:ピクシブ)
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海外ユーザーの増加に伴いマーケティングやリスク対策を強化

 事業の中核にあるpixivは、当初から海外進出を意識していたわけではなく、日本のイラストやマンガを好む海外のファンが見つけて広まっていったという。とはいえ、ユーザー数の伸びは、ピクシブが事業として海外を意識し始めてからのほうがやはり大きい。2011年頃から英語、中国語(繁体字)などの閲覧に対応したのを皮切りに、国際版pixiv βをリリースするなどの施策を積極的に展開。海外ユーザーを考慮した翻訳機能やSEOなどサイト面はもちろんのこと、海外ユーザーに作品投稿を促すマーケティング施策などに力を注いでいる。

 一方で、海外から広く使われるようになると、リスクも当然出てくる。有名なサービスになるにつれサイバー攻撃対象になりやすく、ユーザーやブランドを守る責任も大きくなるわけだ。世界中の人々に安心してサービスを利用してもらうには、グローバルサービスとしての一般的なセキュリティ基準の確保は必須となる。

 そこで、社内にセキュリティの専任チーム「pixiv CSIRT」を組織し、継続的なインシデントレスポンスに取り組むことにした。また、ホワイトハッカーによる脆弱性報告を促進するため、バグバウンティ(脆弱性報奨金制度)も設けている。決済サービスに関しては、全社利用する決済基盤を構築し、安心・安全な決済のためのエマージェンシーフローを整えている。

サービスの健康状態を測る「Railsプロダクト診断」

 ピクシブの開発チームが実践する特徴的な取り組みに、「Railsプロダクト診断」がある。同社のサービス/プロダクトは長期運用されているものが多く、運用の過程でRubyやRailsのバージョンアップの必要が生じる。また、使用しているGemライブラリに不具合や脆弱性が見つかったり、サービスの利用実態に合わなくなったりといった問題もある。そこで、定期的に外部の専門家にソースコードレベルでシステムの検査をしてもらい、各プロダクトの安定性や性能の維持に努めている。

 ピクシブでCTO(最高技術責任者)を務める道井俊介氏(写真1)は次のように説明する。「Railsのソースコードを実際に“診て”もらい、開発・運用において支障が出そうなところを洗い出しています。例えば、『Rubyの次期バージョン/リリースで使用中の機能が削除されるので、その前に対処したほうがよい』『現在の状況では、RubyとRailsのどちらを先にバージョンアップすべきか』『Gemの変更に合わせてどう対応すべきか』といったように詳細なアドバイスを得ています」。

写真1:ピクシブ CTOの道井俊介氏

 老朽化したコードの修正は後回しにするなど滞りがちだが、コードの健康診断という形で外部の専門家から指摘を得て品質を確保しているわけだ。

 「人間も、不調を自覚しても後回しにしたり、健康診断の数値を見てようやく何とかせねばと動きますよね。プロダクトの健康診断は、今なすべき対応の後押しをしてくれます。当社の規模的に、CTOがすべてのサービスの開発状況を常にこと細かに知るのは困難です。Railsプロダクト診断は、私自身が各サービスの状況や困りごとを把握するよい仕組みになっています」(道井氏)

●Next:スピーディーな開発のための組織体制とRubyコミュニティの存在

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