[技術解説]

オムニチャネルが求めるシステム連携 目標はリアルタイムなサービス提供

オムニチャネルで創る新ビジネス

2013年11月27日(水)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)

顧客接点の強化に向けてオムニチャネルが必要なことについては誰もが異論を挟まないだろう。ただ、その実現に向けては多くの課題があることにも気づいているはずだ。既存の基幹システムを見直す動きも出始めている。オムニチャネルを旗印にすることで、“全体最適化”という課題の達成に踏み込める可能性は高い。(志度 昌宏 IT Leaders編集部)

オムニチャネルを実現するためのシステム像を把握するために、今一度、Part2の『【図解】なぜ「今のあなた」に最適なコンテンツが届くのか』に掲載した下図を見ていただきたい。

 

図解の主に左側が、Webサイトやスマートフォン、メルマガ、店頭といった各チャネルに対して、顧客が置かれている状態に最適であろうコンテンツを配信するための仕組みである。レコメンデーションエンジンや位置情報把握システムなど、マーケティング系のテクノロジが中心にある。図解の筆者、西村康宏氏が所属するNTTデータでは、この仕組みを実現するために、レコメンデーションや位置情報把握のそれぞれに特化したアイリッジとナビプラスの両社と組んでいる。

最終アウトプットの精度をより高めるためには、図解の右側に位置する、POS (販売時点情報管理)システムや在庫管理、販売管理といった各種情報システムの連携が不可欠なことは明らかだ。Webマーケティングに詳しいアンダーワークスの田島学代表取締役社長は、「CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)とWebサイトのログの連携から取り組もうという動きが高まっている」と話す。

オムニチャネル=全体最適

オムニチャネル対応のコンテンツ配信システムが求めるのは、「顧客情報と商品情報を一元化しマルチユースできる環境」である。特にPart4(p.16)で、野村総合研究所(NRI)の中村博之 先端ITイノベーション部 上級研究員が指摘しているように、顧客情報の一元化は喫緊の課題だ。オムニチャネルの効果として挙げられるポイント統合や、ネットから実店舗へ誘導した顧客に過去のやり取りを引き継いだ接客などのいずれもが、顧客を一意に特定できる仕組みを前提にする。

一方の在庫を中心とした商品情報の一元化も欠かせない。店頭やECサイトでの品切れによる販売機会の喪失を防ごうというのに、他店舗の在庫の有無が分からないのではオムニチャネル以前である。

しかし、ここで課題になるのは、歴史が長い企業ほど一元化が難しいということだ。例えば顧客データは、これまでにポイントカードを導入したり、メルマガを発行したりと種々の施策に取り組んできた企業ほど、バラバラに管理されている確率は高い。商品情報も、企業の成長に合わせ業態を増やしたりECサイトを立ち上げたりする過程で、商品マスターが複数に分かれていく。委託販売や店舗スペースの貸し出しで事業拡大してきた企業では、商品管理自体が不徹底なケースもある。

顧客情報や商品情報のマスター管理が重要なことは、オムニチャネルに限らない。ただ従来は、バックエンドの仕組みを整備したくても、売上拡大といった直接的なメリットの説明が難しかった。顧客獲得を狙う「オムニチャネル」という理由が掲げられる今は、バックエンドを見直す好機である。

オムニチャネルに詳しい日本オラクル製品戦略事業統括本部製品ビジネス推進部の首藤聡一郎部長は「MDM(Master Data Management)の仕組みを構築済みの企業は、オムニチャネルへの対応速度が速い」と証言する。

既存システムとは“時差”がある

顧客情報と商品情報を一元化を図るための手段や進め方は一意には決まらない。データベースを統合するか連携するかだけをとっても、「オムニチャネルでどんな店舗、あるいは企業を創り出したいのか、ITガバナンスをどこまで効かせたいのかなどに依存する」(SAPジャパン ソリューション本部アプリケーションエンジニアリング部販売/物流ソリューションズの阿部匠マネージャー)からだ。

基本的には、コンテンツ配信に必要なデータを既存システムから「必要なときに、必要な形式で」抜き出すのが現実的な解だろう。抽出した情報をプールし、必要に応じて更新する。複数システムを束ねることに加え、リアルタイム性を求めるコンテンツ配信やECサイトのシステムと、バッチ処理が残る既存システムの間にあるデータ更新の“時差”を補うことになる(図6-1)。

図6-1:オムニチャネル用システムと既存システムの稼働サイクルの違いを吸収する仕組みが必要だ

上記のような考え方を持つオムニチャネル用パッケージ製品に独hybris softwareが開発・販売する「Omni Commerce」がある。同製品では、既存の関連システムから必要なデータを取り込み、「PCM(Product Content Management)」というオムニチャネル用データベースを構築する。PCMが管理する顧客、製品、在庫の各情報を、Webサイトやスマートフォン、あるいはコールセンターなどのチャネルが利用する。

hybris日本法人の堀裕シニアアカウントエグゼクティブは、「顧客接点を担うシステムは24時間365日の運用が求められる。PCMが止まらなければ、たとえ在庫情報が最新でなくても顧客対応は続けられる。海外では、この仕掛けを利用して、対外業務を止めずにERP(Enterprise Resource Planning)ソフトをバージョンアップする企業もある」と話す。

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