[インタビュー]

デジタル時代に改めて脚光浴びる「EA」、その理由と活用指針を米Gartnerに聞く

2017年11月13日(月)田口 潤(IT Leaders編集部)

EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)──。2000年代中頃に一世を風靡した概念だ。すでに顧みられることのない過去のものと思いきや、10年以上を経た今、「EAに取り組む企業が急増している」(ベッツィー・バートン氏、米Gartnerバイス プレジデント兼最上級アナリスト)という。背景には何があるのか。米GartnerでEAチームを率いるバートン氏に聞いた。

 少し復習しておくと、EAとは企業の組織構造や役割、それを支える情報システムを、ビジネス(業務)、データ、アプリケーション、ITインフラストラクチャという、4つのレイヤーごとに様々なモデル化手法を用いて可視化・定義したもの。同時に現在と将来を示す2つのEAを策定する。これにより現在のシステムのどこに課題があるか、将来のモデル(あるべき姿)に移行するには、どこをどう変更すればいいかなどを判断しやすくなる。言わば業務と情報システム全体の見取り図のようなものだ。

写真1 米Gartnerのベッツィー・バートン氏(バイスプレジデント兼最上級アナリスト)

 企業内に構築年代や利用技術の異なる様々なシステムが乱立していた2000年代半ば、全体像を整理・俯瞰し、将来のIT戦略立案やIT投資の意思決定に向けたガイドになり得るとして脚光を浴びた。しかし、クラウドコンピューティングやビッグデータ、モバイルコンピューティングなど様々なIT案件が目白押しになる中で、いつしか注目されなくなった経緯がある。そんなEAが再び関心を集め、取り組む企業が増えているのは、なぜなのか。以下、ベッツィー・バートン氏(写真1)との一問一答を示す。

─バートンさんはGartnerでEAに関わる調査やコンサルティングのチームを率いています。しかしEAは古い概念で、今日ではもう廃れたと思っていました。どううことなのか、説明して頂けますか?

 確かに2010年頃には欧米でも、EAは瀕死状態になりました。せっかくEAを策定したとしても、誰も注意を払わないようになり、EAの取り組みを止めてしまった企業も少なくありませんでした。我々も2009年に実施したグローバル調査の結果をもとに「EAは死んだ」という趣旨の報告書をまとめたことがあります。

─その理由、あるいは原因は何ですか?

 EAの関心事がITアーキテクチャだけになってしまったことです。ビジネスや事業との関係が薄まったと言えるでしょう。2000年代後半にはクラウドコンピューティングやモバイルデバイスなどが登場し、IT部門にすればEAよりも、これらの新しいITに取り組む必要がありました。

 しかし最近になって、EAに対する関心は大きく盛り上がっています。当社のレポートでもEAに関するものは引き合いが強いですし、世界各地で年に何度も開催している「Gartner Enterprise Architecture Summit」の参加者は常に想定を上回り、数千人が来場します。このような関心の高まりは日本でもまったく同じです。

─何がEAに対する関心を高めているのでしょう。

 2000年代と異なるのは、ビジネスとテクノロジ-の関係が緊密になったこと。言い換えればテクノロジーのサポートなしにビジネスを考えられなくなったことですね。今日のEAはまさしくエンタープライズためのもので、Gartnerが実施したCEO調査では回答者の64%が「ビジネスを進化させるのにデジタルとITが必要」と回答しています(図1)。ビジネスとテクノロジーが統合されているのです。CIOもデジタルビジネスの形成に積極的に関与するようになっています。

図1 CEOの64%がデジタルとITはビジネス変革を駆動すると回答
拡大画像表示

 ところがビジネスとテクノロジーの統合をマネジメントし、イノベーションに導くのは簡単ではありません。市場はどうか、業務部門や人がどういう方向を向いているか、どのようにプロセスをサポートすることが適切か、そのためのテクノロジースタックは適切か…。そういったことを常に把握できているかが鍵の1つになります。人材やプロセス、事業と業務、情報、テクノロジーなど様々な要素を包括的に把握する方法としてEAが必然になっているのです。

 この点で今日のEAは経営コンサルティングのようなものであり、複雑化する一方のビジネスとテクノロジーの関係を把握し、戦略に生かすには不可欠と捉えられています。逆に、たとえ精緻であってもITアーキテクチャばかりに力を入れている企業はEAを実践しているとは言えないことが分かるでしょう。EAの中にビジネス・アーキテクチャを包含していなければ、今日では通用しないのです。

─テクノロジー志向か、よりビジネス志向かという面で現在は後者であるというわけですね。しかし、そのように位置づけが変わったとすればEAという表現を変えるか、変わるべきでは?

 いい質問です。その通りで、実はGartnerは前述した「EAは死んだ」という報告書をまとめた8年前に違う名前をつけようとしました。ITアーキテクチャだけのEAは終わったにせよ、EAの考え方はむしろ重要になると考えたからです。概念や取り組みそのものは拡大しなければなりません。また非常に少数ですが、違う名前で本来のEAを実践している企業もありました。

 一方で「意義のある取り組みに進化するのであれば、呼び方は定着したEAで何ら問題はない」と考えるCIOやエンタープライズ・アーキテクトが多いことも分かりました。EAという呼び方はそのままに、位置づけや役割を変えるものです。どうするかを検討した結果、無理に違う呼び方をするよりも定着したものがいいと判断し、今日でもEAと呼んでいます。EAより的確な表現が見当たらなかったこともあります。

─なるほど。もう少し、以前のEAと今日のEAについてお聞きします。ビジネスとテクノロジーの融合という点ですが、具体的にはどういうことなのでしょう。

 従来型のEAは“インサイド-アウト”でした。現在のテクノロジーを基本にして、事業部門などビジネスのカウンターパートに対し演繹的にアーキテクチャを説明するものです。つまり「今のシステム環境がこうだから、このように事業部門に使ってほしい。現在のシステムはこうだからここまではできるが、これ以上は難しい」といった、内向的な志向が非常に強いものでした。

 これに対し今日のEAは、外から中を見る“アウトサイド-イン”です。何をしたら顧客はうれしいのかという顧客視点から発想するもので、Gartnerでは「ビジネスアウトカムEA(ビジネスの成果駆動型)」と呼んでいます。具体的には顧客やパートナー、関係者の視点からアーキテクチャを検討し、ビジネスをサポートする人材、テクノロジーを整理していくわけです。

 今後はこれが“アウトサイド-アウト”になると見ています(図2)。現在の顧客だけではなく、将来の顧客─まだ顧客ではない人─も視野に入れるもので、最先端の企業はここへ向かっています。例を挙げましょう。ある金融機関は自らの価値は何かと考え、取引のエンジンであると結論しました。もちろん金融商品も扱いますが、取引を安全確実に実施するエンジンであることが本質だとしたのです。

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
関連記事

デジタル時代に改めて脚光浴びる「EA」、その理由と活用指針を米Gartnerに聞くEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)──。2000年代中頃に一世を風靡した概念だ。すでに顧みられることのない過去のものと思いきや、10年以上を経た今、「EAに取り組む企業が急増している」(ベッツィー・バートン氏、米Gartnerバイス プレジデント兼最上級アナリスト)という。背景には何があるのか。米GartnerでEAチームを率いるバートン氏に聞いた。

PAGE TOP