CIOコンピタンス CIOコンピタンス記事一覧へ

[イベントレポート]

JALのCIOが語る“遅れたIT”挽回の軌跡とデジタル対応ITインフラへの道

クラウド&データセンターコンファレンス2017-18 オープニング基調講演レポート

2017年12月26日(火)阿部 欽一(キットフック代表)

デジタル変革に本腰を入れる日本航空(JAL)で、その取り組みの基盤となるITインフラの刷新が進んでいる。2010年の会社更生法適用申請時に「経営破綻の原因は遅れたIT」と指摘されて以来、IT投資の回復とレガシーシステムの移行を着実に進め、2017年11月には、47年間メインフレームで稼働し続けた旅客予約・発券・搭乗システム「JALCOM」のSaaS移行を果たしている。2017年12月5日、東京都内で開催された「クラウド&データセンターコンファレンス2017-18」(主催:インプレス)のオープニング基調講演に、同社執行役員 IT企画本部長の岡敏樹氏が登壇。JALのITインフラ運用・構築の歴史を振り返った後、現状の課題整理とこの先の戦略を詳らかにした。

経営破綻からの再生で“遅れたIT”の巻き返しへ

 世の多くの企業が取り組みを始めるはるか前より、航空業界は日本の他産業に先駆けて、コンピュータやネットワークの構築・整備を行ってきた。なかでも、国営航空会社として出発したJALのIT活用の歴史は長い。

 驚くことにJALは、1955年に太平洋横断専用回線を開設し、1961年にはすでに「世界一周通信網」、すなわち自社専用のグローバルネットワークを完成させている。東京・大阪間のダイヤル直通サービスの開始が1963年だから、同社の着手がいかに早かったのかがわかる。この時期、当時の最新ITであるメインフレームをフルに活用して、国際線電子座席予約システム(1967年)、国際線電子搭乗手続システム(1970年)の稼働を始めている。

 2000年代に入ると企業でインターネットの活用が加速する。コンピュータはメインフレームから、UNIX/Windowsなどのオープンシステム、クライアント/サーバーモデルへの移行が進んだ。JALのデータセンターにおいても長年の稼働でメインフレームシステムの老朽化が進んだが、メインフレームで業務電子化が完成されていたがゆえに、新しいテクノロジーの導入に遅れをとったという。岡氏は当時の状況を次のように振り返った。

 「2006年のJALとJAS(日本エアシステム)の経営統合に伴うシステム統合は、実に5年を要することになりました。また、2011年9月11日の米国同時多発テロを契機に、航空会社の経営環境が急激な悪化していきます。その中で、当社はインフラやシステムへの投資が抑制され、その影響で市場競争力が低下し、さらなる収益低下を招くという悪循環に陥ってしまいました」

 周知のとおり、2010年1月にJALは経営破綻を迎える。大きな衝撃が走る中、再建にあたっては「ITシステムの刷新」が不可欠との判断がなされた。「『破綻の原因は遅れたITにある』との指摘を受けました。そして、会社更生計画における事業骨子の1つに『老朽化、複雑化したITシステムの刷新』が盛り込まれました」(岡氏)。

 ITにあらためて注力することが大命題となり、依然として厳しい経営環境の中、IT企画本部はITインフラやシステムの刷新を一歩一歩推し進めていった。

「攻めのIT投資」で目指す、デジタル時代の機動性を備えたITインフラ

 2014年、JALは新しいサービスや商品の創造を推進する「チャレンジJAL」を掲げる(画面1)。このグループ全社スローガンの下、IT企画本部が進めてきた「攻めのIT投資」が一層加速することとなる。

画面1:チャレンジJALのWebページ(http://www.jal.com/ja/outline/brand/challenge/)
拡大画像表示

 同年7月には大規模ITプロジェクトの計画が公にされた。40年以上稼働する旅客予約・発券・搭乗システム「JALCOM」の刷新プロジェクトである。しかも、オンプレミスでのカスタム開発ではなく、スペインのアマデウス(Amadeus IT Group)が提供する業界特化型SaaS「Altea」を採用し、国内線と国際線のシステムプラットフォームを統合するという取り組みだった。

 Alteaへの移行で顧客の搭乗情報の一元化が図られ、国内線/国際線の乗り継ぎがよりスムーズになる。また、各国で運賃体系が変更される際、これまでJALが個別に対応しなくてはならなかった作業がシステムに基本機能として備わる。運用面では、システムコストが固定費から搭乗旅客数に連動した変動費に転換され、維持管理費用を削減する狙いがあったという。岡氏は2017年11月にこの大規模プロジェクトがついに完了し、Alteaベースの新システムの本稼働が始まったことを紹介した。

画面2:乳幼児連れでハワイ旅行を計画している顧客の相談・悩みにチャット形式で自動回答するバーチャルアシスタントサービス「マカナちゃん」(出典:日本航空)
拡大画像表示

 航空事業の根幹を支える旅客予約・発券・搭乗システムのクラウド化を遂げたJAL。同社が今、臨むのは、デジタルテクノロジーへの積極的な取り組みだ。例えば、「IBM Watson」のAI技術を取り入れたチャットボットによる顧客支援サービス「バーチャルアシスタント」(画面2)や航空機整備士専用のモバイルアプリケーション(写真2)の開発、「Microsoft HoloLens」のMixed Reality(複合現実)技術によるコクピットシミュレーションシステムの実証実験などがある。「日に日にデジタル時代を実感することで社員の意識も変わり、あらゆる業務に先端的なITを活用する機運が高まりました」(岡氏)

写真2:日本航空と日本IBMが共同開発した航空機整備士専用のモバイルアプリケーション(出典:日本IBM YouTubeチャンネル)
拡大画像表示
関連キーワード

日本航空 / ITインフラ / 基幹システム

関連記事

JALのCIOが語る“遅れたIT”挽回の軌跡とデジタル対応ITインフラへの道 [ 2/4 ] デジタル変革に本腰を入れる日本航空(JAL)で、その取り組みの基盤となるITインフラの刷新が進んでいる。2010年の会社更生法適用申請時に「経営破綻の原因は遅れたIT」と指摘されて以来、IT投資の回復とレガシーシステムの移行を着実に進め、2017年11月には、47年間メインフレームで稼働し続けた旅客予約・発券・搭乗システム「JALCOM」のSaaS移行を果たしている。2017年12月5日、東京都内で開催された「クラウド&データセンターコンファレンス2017-18」(主催:インプレス)のオープニング基調講演に、同社執行役員 IT企画本部長の岡敏樹氏が登壇。JALのITインフラ運用・構築の歴史を振り返った後、現状の課題整理とこの先の戦略を詳らかにした。

PAGE TOP