[市場動向]

IT人材育成の有力な手段「オンザジョブラーニング(OJL)」の薦め

2018年6月5日(火)加藤 正彦(IT人材育成協会 会長)

企業における人材育成手段だったOJT(オンザジョブ・トレーニング)が、機能しなくなったと言われて久しい。ではOJTの代わりになる手法は何なのか。IT人材育成協会はこの問いに対し、「OJL(オンザジョブ・ラーニング)」を提唱している。アジャイル開発手法の1つであるスクラムに範をとり、“自ら学ぶ人と組織”の形成を支援している。本稿ではOJLの考え方、実施内容、推進のしかたについて解説する。

 人材育成の大事さを否定する経営者はいないはずだ。しかし本音は「お金がかかる」、「結果がはっきり分からない」、「会社は仕事の場であって教育機関ではない」といったところではないだろうか?むろん一定の規模になれば責任者や専任担当者を置いて取り組むところが多いが、育成のための予算は経営状況次第。売上げや利益を上げるのと同レベルの重要課題とは言えず、未だに投資ではなくて費用なのである。

 原点に戻って考えると、すべての事業は人によって行われている。担当する人の能力、つまりタレント次第で事業の成果が大きく異なる。事業目標を達成するには、相応のタレントを持った人に事業を担ってもらわなければならないが、事業を遂行するスキルや能力が予め備わっている人はいない。特に大学を出たばかりの新卒を一括採用するのが今も主流の我が国では、入社後の先輩の指導や関連する研修、自らの学習、業務経験などを通じて能力を磨かなくてはならない。

 手段の中核を担ってきたのが、先輩のやり方を見習ったり指導を受けたりしながら、日常業務をこなす中で成長を促すOJT(オンザジョブ・トレーニング)である。しかし、そんなOJTが機能しないと言われるようになって久しい。短期的な成果を重視する評価制度の広がり、事業環境の急激な変化に伴う教える側の余裕のなさ、業務の外部委託の浸透……。理由はいくつも考えられるが、今日の労働環境における問題――ブラック職場やセクハラ/パワハラ、いじめ――などとも複雑に関連していると言ってもいい。もし体系的な人材育成策が機能していれば、意図的なブラック職場はともかく、そうでない職場はプラックと言われる状況には陥っていないのではないだろうか?

「OJT」から「OJL」へ

 優れた戦略やリーダーシップがあっても、人材がいなければ持続的発展はあり得ない。とすると何が必要だろう?OJTに代わる人材育成策を経営の最優先課題の1つとして取り入れ、実行することだと筆者らは確信している。それが組織学習によるパフォーマンス向上策として欧米で議論されている「OJL(オンザジョブ・ラーニング)」である。言葉の上では「トレーニングをラーニングに変えただけ」だが、そこには大きな違いがある。

 まずOJTの課題は以下のように指摘されている。

①学習デザインがない
②Off the Jobの学習による補完がない
③指導する側の技量に左右される
④技術の変化が激しく、トレーナとトレーの関係が作りにくい

 つまりOJTは人材育成策をシステマチックに計画し、統制し、実施する施策という面では多くの課題を抱えていた。事業や業務内容が大きく変化せず、年功制の処遇が有効だった時代には、それなりの効果を発揮したが、例えばOff the Jobの学習による補完がなければ、変化する事業や業務に追従できないのは自明だろう。なにより、ほとんどの人は自ら「学ぶ」ための術を持っていない。誰のサポートもなく、自ら学び、自ら成長していくということは難しいにもかかわらず、そのための支援が現在の職場・現場では希薄であり、人や組織の成長が停滞する要因となっている。

 こうした課題にメスを入れたのがOJLである。自ら学ぶという視点と、組織全体の学習するという習慣を形成することで、種々の能力の向上を図るものである。日常の業務を通じて、まずは「業務を学ぶ」。次の段階では、一段高い視点で業務から学んで成長する「業務で学ぶ」。上司は部下に仕事を教えるのではなく、仕事を通じて学習する機会を提供して支援する。学習する習慣を根付かせることで、従業員や組織は変化への対応力をつける。目指すのは、人材と組織の同時並行的な成長である。

 とはいってもOJLは「魔法の杖」や「銀の弾丸」ではない。OJLを実践するために、チームや個々の社員による経験学習をサポートする「ファシリテータ」を置く必要がある。ファシリテータとは職場における学びの文化を醸成する人材であり、OJLでは特に「LF(ラーニング・ファシリテータ)」と呼ぶ。逆に考えれば、LFによって組織学習を活発に展開する仕組みがOJLであると言える。

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