[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

WHY、WHATを見える化する「ビジネスアナリシス」の薦め

TERRANET代表/IIBA日本支部代表理事 寺嶋一郎氏

2019年2月25日(月)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、TERRANET代表でIIBA日本支部代表理事を務める寺嶋一郎氏のオピニオンです。

 日本におけるIT導入プロジェクトの多くは、今も当初予算に比べて費用が膨れ上がったり、稼働時期が遅れるといった問題を抱えている。そこまでして完成させたのに、稼働後にたいして活用されないケースもある。費用や期間の超過はもちろん問題だが、十分に活用されないのはもっと大きな問題だろう。

 多くの大企業が導入しているERPパッケージにしても同様だ。コンサルタント会社に高い費用を支払いながらも、“現行踏襲”という形で現場ニーズを重視するあまりアドオンだらけで導入。その結果、想定した効果を出せないシステムを高い費用を払って使い続ける──こんな企業がいったい何社あるのだろうか。ITはあくまでも道具であり、どう活用して企業やビジネスに貢献する価値をもたらすかが重要なのに、そうなっていない。

 こうしたことの大きな原因は上流工程(企画や要件定義)にある。ビジネスの問題や課題・ニーズといった背景(WHY)をしっかりと理解・認識し、本当に必要とされる機能とは何なのか(WHAT)を明らかにする必要があるのに、それをおろそかにしたり、いかに実現するか(HOW)に重きを置きすぎるきらいがあるのだ。WHY、WHATの理解を怠るから本来の目的を果たさない、そして使えないシステムができ上がってしまう。そんな状況がずっと昔から続いていることに危機感を感じているのは、筆者だけではないと思う。

 そこで本コラムの読者の皆さんに知っていただきたいのが「ビジネスアナリシス」である。日本ではまだ認知度が低いが、簡単に言えばWHY、WHATを誰もが分かるように可視化する手法/方法論だ。ビジネスアナリシスの実践者が理解すべき知識を体系化した「BABOK」がバックボーンにある。プロジェクトマネジメントの知識体系である「PMBOK」をご存じの方は多いはずだが、それと同じく体系的に学び、理解できるのが特徴である。

 BABOKができる前、欧米でもITプロジェクトに関する状況は同じだった。ビジネスとITが離れていて、互いのコミュニケーションがうまくできない状態だったという。ITが経理や人事などのバックオフィス業務サポートを果たしている時はそれでも良かったのかもしれないが、ビジネスに直結するシステムが増えるにつれ、これではまずいということで、ビジネスとITを結びつけるためにビジネスアナリシスが生まれた、普及・啓蒙の専門団体であるIIBA(International Institute of Business Analysis、本部はカナダ)が発足したのは2004年のことである。

 そんなビジネスアナリシスは2つの流れを汲んでいる。まずはソフトウェア工学の一つの分野だった要求工学だ。詳細は省くが、要求工学は矛盾や過不足なく正確に要求を明確化するための学問である。ちなみに欧米でビジネスアナリシスを実践する企業では、ITの要件定義はビジネスの戦略からスタートし、それをブレークダウンしながらITの要件を導き出し、それらが互いに紐づけされるようにツールで管理する。変化の速い昨今、ビジネス戦略が変化すれば、それに追従して要件も変更しなければならないから、要求や要件を管理するツールは必須だ。レベルや粒度の異なる要件をExcelで管理している企業もあるだろうが、これではビジネスの変化に対応できる要件定義の管理がなされているとは思えない。

 第2がBPM(ビジネスプロセスマネジメント)とザックマンのEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)である。ビジネスアナリシスの国際コンファレンスに参加した際、ある米国企業がビジネス部門とIT部門が互いを理解するようになった経緯を説明していた。結論を記せば、ビジネスプロセスやビジネスルールを可視化、さらにEAを使ってビジネスの構造を可視化し、ビジネスとITのメンバーが同じ土俵で互いに意見交換できる環境を作ったというのだ。互いに理解できずにいた二つの部門を繋いだのは、まさにビジネスの「見える化」だった。

 日本ではまだ経営やビジネスとITの距離が遠く、経営者や事業の責任者は「ITは分からないから」と現場やIT部門任せにしているケースは少なくない。それでなんとかなっていた時代は遠くに過ぎ去った。これからはビジネスそのものを見える化することで「ITは分からない」という理屈を封じ、ビジネスにITがどう貢献するのか、ビジネスをどう変革するのかを、ビジネスとITの両者で喧々諤々と議論する状況を作らなければならない。

 この点で筆者が危惧するのが、導入の広がるRPAである。現場の問題を改善できるのならととばかり、どんどん導入が進んでいる。そうではなく、まずやるべきことは改善すべき業務プロセスの見える化のはずである。無駄なプロセスを改善する中で、どこをRPAで置き換えるべきなのかを戦略的に考えるべきなのだ。やみくもにRPAを導入しても野良ロボットが増えるだけである。

 RPAのような低価格で便利なツールを使えば、いくつかの問題を改善できるのは確かだ。しかし、デジタル化が進むことにより、また企業を取り巻く環境が目まぐるしく変わる中で、何をやるべきかがビジネスに携わっているメンバーも分からなくなってきつつある。まさしく「木を見て森を見ず」が起きている。それを避けるには、ビジネスそのものを可視化して分析し、どこにどうメスを入れるのか、変革するのかを考えなければならない。ビジネスアナリシスが必須になることでもある。読者の皆さんには、本年はぜひビジネスアナリシスを勉強していただきたい!

寺嶋 一郎

TERRANET代表/IIBA日本支部代表理事
寺嶋 一郎

※CIO賢人倶楽部が2019年2月1日に掲載した内容を転載しています。

 


CIO賢人倶楽部について
大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOをはじめとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。経営コンサルティング会社のKPMGコンサルティングが運営・事務局を務める。

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