[市場動向]

情勢変化に対応した人材指針を出さすに「人材が足りない」は敗者の言い訳

2019年10月9日(水)佃 均(ITジャーナリスト)

筆者が最近受講した2つのセミナー。1つは「組込みDX推進フォーラム」(2019年8月26日/IoTイノベーション協議会、組み込みシステム技術協会主催)、もう1つは「PSAセミナー」(同年9月12日、インプレス主催)である。これらを聴講していてふと感じた「素朴な疑問」を深掘りしてみた。今回も日本のIT人材に関わることだ。

 EUのIndustrie 4.0/第4次産業革命(IR4:The 4th Industrial Revolution)に対して、日本政府がSociety 5.0(図1)/CPS(Cyber Physical System)を提唱したのは2016年だった。あれから3年、いまやIT業界は就職先の上位に位置する「常に人材が足りない」業種となっている。

図1:Society 5.0(出典:内閣府)
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 今のIT人気は、GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)、あるいはデジタルトランスフォーメーション(DX)のイメージに引っ張られているのだろうか。多少なりとも社会・経済におけるITの役割を理解したうえでならいいのだが。2020年卒の4年制大学生に就職先として希望する業界を聞いたところ、「情報・インターネット」が16.7%で5位、「情報処理・ソフトウェア・ゲームソフト」が14.0%で9位(いずれもディスコ調べ)という。ちょっと前まで学生たちがIT業界を「3K」(キツイ、キタナイ、キケン)と忌避していたのはウソのようだし、産業界は「IT人材が足りない」の大コールである。

1980年代後半の「人材クライシス」に類似

 いわく、「AI人材がいない」「IoT人材が不足している」「データサイエンティストの育成が急務」等々、ユーザーであるとIT企業であるとにかかわらず、降って沸いた人材クライシスにオタオタしているように見える。

 発表以降、概念にとどまっていたSociety 5.0やCPSが、2018年9月に経済産業省がまとめたDXレポート「2025年の崖」をきっかけとして、にわかに現実味を帯びてきた。たまたま社会・経済の流れと、2025年の崖公表のタイミングが合ったのかもしれないが、Society 5.0/CPSの提唱、その関連のIoT税制やIoT推進コンソーシアム発足などの動きを官僚は的確に予見していたと言っていい。それに刺激されて多くの企業がDXに取り組もうとしたら、目の前にいるのはレガシー系エンジニアだけ、ということなのだろう。

 さかのぼると、1980年代後半、メインフレーム全盛時代にも似たようなことがあった。金融機関の第3次オンラインシステムの構築やデータ通信システムのリプレース、電子事務機器とコンピュータを連携するOA(オフィスオートメーション)やインテリジェントオフィス需要などを背景に、「このままだと西暦2000年に100万人のプログラマーが不足する」と喧伝されたのだ。

 「100万人のプログラマーが不足」の根拠は何だったのか。それが叫ばれていた1985年度、通産省の特定サービス産業実態調査によると情報サービス産業の売上高は約2兆円、従業員総数は約16万人だった。「100万人」という数字は、通産省が大手金融機関や製鉄業、総合商社などにヒアリングした結果ということになっている。

 しかし実際は、国主導の大型プロジェクトの予算を確保するために、筆者のような業界記者を交えて役人が鉛筆を舐め舐め作った数字にほかならない。実際、当時の担当課長が「これくらいじゃないと大蔵省は驚かないからな」と言っていたのを覚えている。ただし課長氏のために補足しておくと、「このままだと」から「ツールの活用や生産技術が変化しないかぎり」の文言が抜け落ちて、「100万人」だけが一人歩きしてしまったきらいがないでもない。

 ともあれ、それが総額250億円を投入した5年がかりの官民共同プロジェクト「ソフトウェア生産工業化システム」(いわゆる「Σ(シグマ)システム」)に結びついたのだが、当時は「ソフトウェアクライシス」と呼ばれていた。危機感を煽る点では類似しているが、「人材」でなくソフトウェアの作り方に照準が当てられていたことに留意すべきだろう。

 毎年5万人以上の旧来エンジニアをリスキルする「組込みDX推進フォーラム」で登壇した情報処理推進機構(IPA)社会基盤センター センター長の片岡晃氏(写真1)は、『DXに向けたアーキテクチャと人材育成』と題して次のように語った。

写真1:片岡氏は「DXに向けたアーキテクチャと人材育成」と題した後援でIPAの方針や氏の見解を述べた

 「IPAでは毎年、組み込みIoT産業における人材育成について調査している。デジタルトランスフォーメーションに取り組む企業が増えているなかで、何がポイントになると考えているかを調べると、『世の中のトレンドへの対応』が50%を超え、『顧客の要求への対応』が40%を超えている」(片岡氏)

 片岡氏によると、DXを実行する上での課題では、「DX人材が不足している」と「関係者の役割が不明確である」の2つが圧倒的に多いという。

 「人材不足は新しいビジネスを始めるとき、新しい技術が出てきたとき、必ずテーマになる。人材育成について、『現在重要と考えている技術』と『将来強化したい技術領域』を調べると、AI、データサイエンス、システムエンジニアリングが上位に並ぶ。『新技術の適用ばかりでなく、セーフティ/セキュリティも』という考え方が見受けられる。その担い手をどのように確保するかというと、即戦力の中途採用、将来に向けて大学など教育機関との連携、スキルチェンジの3つがある。その中でもIPAとして重視しているのは『学び直し』だ」(片岡氏)

 片岡氏の言う「学び直し」とは、どうやら「スキルチェンジ」の拡大解釈のようだが、いずれにせよ「従来型のIT人材をDX人材に変えていくには、毎年5万人、6万人をリスキルしていかなければならない」(同氏)という。

●Next:エンジニアに「学び直し」の機会提供は有効か?

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