[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

ドイツの政界を揺るがす、ファーウェイ5G機器導入の是非:第9回

2019年12月27日(金)麻生川 静男

ドイツ政府の5Gシステム導入を巡って政界が揺れている。2019年11月、「中国ファーウェイ・テクノロジーズの機器を排除せよ」というトランプ米大統領の要請を、メルケル独首相は拒絶。この判断に対しては、独政府与党内部からも非難の声が上がった。ファーウェイの機器を使わずに国の5G網が構築できるのかと訝る声も根強い。しかし問題の本質は、過去何度も取りざたされているファーウェイ製機器を使った中国政府の疑惑ではなく、欧州社会の基本的価値観を経済メリットと引き換えてよいものか、という点にある。

 ドイツの5G(次世代無線通信網)構築に、中国の通信機器メーカー、ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)の機器を導入するか否か──。2019年11月22日の報道によると、アンゲラ・メルケル独首相は米国側からファーウェイを締め出すようにとの要請を拒否した。メルケル首相のこの判断に対して、以前から独政府与党であるCDU(Christlich Demokratische Union Deutschlands:キリスト教民主同盟)からも公然と反対の声が上がっている。

 独ライプツィヒで開催されたCDUの党大会で、サイバーセキュリティに詳しい独国会議員クルストファ・ベルンシュティール(Christoph Bernstiel)氏を含むCDUの政治家たちは、政府はファーウェイを締め出すようにとの動議を提出した。それは単に5G関連の機器だけでなく、ドイツのモバイル通信網全体から同社を締め出すべきだと主張している。

 主張の根拠には、過去にファーウェイによる機密情報の盗聴が幾度となく報道されていることが大きく関係している。ファーウェイによる情報盗聴の被害はチェコやエチオピアの例がある。ファーウェイはチェコに合弁会社を作ったが、その会社の幹部や国家機密に関係する人々の個人情報を盗み出し、プラハの中国大使館に秘かに通報していたという嫌疑が持ち上がっている。

 アフリカではこんなことがあった。2018年初頭、フランスのルモンド誌が報じたところによると、エチオピア首都アディスアベバに建設されたアフリカ連合のメインビルディングにファーウェイの通信機器が設置された。中国政府が2億円以上の金を注ぎ込んだ結果だが、それらの機器を使って中国政府が盗聴を行ったという。もっとも、中国政府ならびにファーウェイは否定している。

写真1:ファーウェイはエンドツーエンドの5Gソリューションを提供できるとアピールする。写真はMobile World Congress 2018での同社の5Gセッション(出典:ファーウェイ・ジャパン)

ドイツを足がかりに5G覇権を狙う

 「中国政府はファーウェイのようなネットワーク機器メーカーを上手く使って、5G通信網の世界制覇を狙っている」──反対派は、ネットワーク機器から情報を盗み取って秘かに中国政府に流しているのではという批判を続けてきた。また、2019年1月には独外務省が、「中国企業は、中国政府から命じられる秘密の任務を遂行するように義務づけられている」との声明を出している。当然、ファーウェイはそのような秘密の任務はないと反論している。

 「ファーウェイ製機器の価格の安さにも懸念がある」とベルンシュティール氏は指摘する。「アフリカなどでは、明らかに生産コストを下回る価格でファーウェイの機器が売られていたが、これは政府の援助があったためだ」と言う。同氏はさらに続けて「ドイツでも、過去大幅な値引きが行われたり、研究資金という形での援助もあった」と指摘。これらの活動を通して、ファーウェイはドイツに足がかりを作り、欧州市場を席巻しようとしていると結論づける。

 現時点では、まだドイツ政府の最終決定は出されていない。そのため、ドイツテレコムなどは、ファーウェイからの機器購入に関する結論を棚上げしている状態だ。

 しかし現実的にファーウェイを締め出した時にはドイツならびに欧州5G網の構築はどうなるのだろうか。当然、選択肢は欧州のネットワーク機器メーカーであるエリクソン(Ericsson)やノキア(Nokia)になるが、現在の市場占有率はというと、ファーウェイが31%、エリクソンが27%、ノキアが22%となっている。

 エリクソンの上席副社長兼ネットワーク事業部総責任者のフレドリック・イェドリング (Fredrik Jejdling)氏は2019年12月2日、ドイツの通信社に、エリクソンだけでも欧州の5G網の構築に必要な機器を出荷できるとの自信を示した。ただ、ドイツ国内でこの問題が出るたびに、エリクソンとノキアだけではたして供給が追いつくのかを不安視する声は依然として消えない。そういった不安を払拭するかのごとく、エリクソンは最近、エストニアに工場を新設し、それがまもなく稼働するとアピールしている。

●Next:メルケル首相が難色を示す別の観点

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
バックナンバー
麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド一覧へ
関連キーワード

ドイツ / 中国 / 5G / 政策 / Huawei / Ericsson / Nokia

関連記事

Special

-PR-

ドイツの政界を揺るがす、ファーウェイ5G機器導入の是非:第9回ドイツ政府の5Gシステム導入を巡って政界が揺れている。2019年11月、「中国ファーウェイ・テクノロジーズの機器を排除せよ」というトランプ米大統領の要請を、メルケル独首相は拒絶。この判断に対しては、独政府与党内部からも非難の声が上がった。ファーウェイの機器を使わずに国の5G網が構築できるのかと訝る声も根強い。しかし問題の本質は、過去何度も取りざたされているファーウェイ製機器を使った中国政府の疑惑ではなく、欧州社会の基本的価値観を経済メリットと引き換えてよいものか、という点にある。

PAGE TOP