[ユーザー事例]

「ビジネスを止めるな!」大規模イベントをライブ配信ウェビナーに切り替えて開催─JDMC

Zoom/Box連携+各専門家の知見+事務局の情熱──「データマネジメント2020」の舞台裏

2020年4月1日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)

2020年2月26日午後、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて政府から大規模イベントの開催自粛要請が出され、開催予定だった国内の多数のイベントに影響が及んだ。日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)主催の年次コンファレンス「データマネジメント2020」もその1つ。毎年1800名の登録者を集める恒例の大規模イベントも今年は中止・延期か──開催日まで1週間というタイミングでのJDMCの決断は「終日同時5トラック/約40セッションをウェビナーとしてライブ配信する」だった。本稿では、同イベント事務局が諸課題に直面しながら挑んだ緊急プロジェクトの舞台裏をお届けする。

国内最大級のデータマネジメントイベントが開催危機に

 「データマネジメント」は、一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)が年次で開催している、企業のCIO、ITマネジャー、IT担当者向けのユーザーコンファレンスだ。2012年の初開催から年を追うごとに規模を拡大し、8回目となる2019年3月の前回開催では同時5トラック・合計39セッションを用意して事前登録1700名、当日参加1000名を動員(写真1)。この分野で国内最大級の総合イベントである。

写真1:2019年3月7日に雅叙園ホテルで開催されたデータマネジメント2019の基調講演会場

 規模拡大の背景に、データマネジメント分野に対する国内企業の機運向上がある。有名な「Garbage in, Garbage out」の言葉どおり、どんなに高度なデータ活用を計画しても、蓄積した大元のデータがゴミのようではビジネス価値に転換することはできない。そこで、名寄せ処理やクレンジング、マスターデータ管理といったデータ基盤の整備(データプレパレーション)から、複数システムのデータ統合まで、この領域にはあらためて注目が集まっている。

 そうした中、9回目を数える今年の「データマネジメント2020」では、「データを資産化し価値を創出せよ」のキャッチを掲げ、イベント事務局は早くから開催準備を進めていた。開催日は2020年3月5日、会場はホテル雅叙園東京と例年どおりの時期・会場を設定、2019年末にイベントの告知サイトをオープンし、1月下旬より事前登録受付を開始した。事務局によれば、上述の機運から当初は、前回を上回る参加者数が見込んでいたという。

開催1週間前、政府のイベント自粛要請で集合型を断念

 しかしながら、周知の難局だ。2月に入って横浜港に停泊した「ダイヤモンド・プリンセス号」の船内集団感染が大々的に報じられ、国内でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染報告がじわじわと増え始める。多くの人が1カ所に集まるイベントやセミナーが感染を広げてしまうという警告がなされるようになり、データマネジメント2020も、事前登録のペースが急に落ち込み出す。会長(NTTコムウェア 代表取締役社長の栗島聡氏)をはじめとしたJDMCの理事会やスポンサーから心配する声が届く中、事務局は、今回のコンファレンスをどのように開催するかについて、本格的な検討を始める。

 JDMCの事務局長として同団体の設立から携わる、リアライズ(現NTTデータ バリュー・エンジニア)代表取締役社長の大西浩史氏(写真2)はこの頃を次のように振り返る。「2月に入って新型コロナの報道が盛んになり、一気に自粛モードが広がりましたが、この時点では、これでは日本経済が萎縮してしまう。活動を、ビジネスを止めてはならない。自粛ムードに流されてはいけないと。抗う意味でも、絶対に例年どおり3月は開催しようというスタンスで準備を進めていました」。

写真2:JDMC事務局長兼理事の大西浩史氏は、「JDMCの活動を、日本の経済を止めてはならないという思いで開催を模索しました」と話す

 2月19日、データマネジメント2020のWebサイトには、マスクやアルコール消毒など、ウイルス感染対策を強化したうえで、予定どおり雅叙園で実施する旨の注意書きが掲載された。

 年次開催のデータマネジメントのほか、月例のセミナーや分科会など、JDMCの日々の活動業務全般に携わる副事務局長の臼井琴美氏(写真3)も、大西氏と同じ思いでJDMCの活動をストップさせることなく、開催できる方法がないか思案を巡らせていた。「中止や延期といっても、これだけの規模のコンファレンスなので、また集まっていただくことは困難です。何とかして開催する方法を打ち出さなくては、と考えていました」と同氏。ともかく、JDMCのベンダー会員やイベント運営会社など各方面に相談して回ることにした。

写真3:JDMC副事務局長の臼井琴美氏(中央)。各所の調整を一手に担って奔走した、本稿の主役とも言うべき人物だ。氏を囲むのはZoom Video Communicationsの加賀氏(右)と永瀬氏

 「事務局としては何とか通常どおりに開催したかったわけですが、皆さんと相談して代替手段を考えておくことにしました。このコンファレンスの規模からすると、実現できそうなのは、事前収録したセッションをネットで配信するオンデマンド型のウェビナーだろう、というのが大勢の見方でした」(臼井氏)

 今後の状況悪化次第ではオンデマンド型のウェビナーに切り替えざるをえないが、基本的には、感染防止策を徹底したうえで、何とか集合型でデータマネジメント2020を開催したい──。このような構えを決めた事務局だったが、2月26日昼過ぎに突然なされた政府発表で吹っ飛んだ。大規模なイベント開催を向こう2週間は自粛してほしいという要請だ。

 データマネジメント2020の開催予定日は自粛要請期間のど真ん中。感染は国内でもじわじわと広がっている。万一、コンファレンスがウイルス感染の温床になってしまえば、JDMCという組織自体の存続にもかかわる。もはや集合型の開催は断念せざるをえない。ならば、ウェビナーに切り替えるしか開催の道はないが、JDMCの理事会、そして事務局のメンバーからも、「この先の状況を考えるとウェビナーすら危ういのでは?」という声も上がったという。

 ウェビナー実施の手はずが整ったとしても、課題は山積みだ。「依頼している講師に配信会場に来てもらえるだろうか? 押さえている会場のネットワーク環境で大丈夫なのか? そもそも経験もないのにこの規模でウェビナーなんてできるのだろうか? 場合によっては開催自体延期か、あるいは中止か。そんなムードになりました」(臼井氏)

想像以上に困難─イベント事務局が直面した3つの課題

 調べるにつれ、データマネジメント2020をウェビナーに切り替える場合の困難は想像以上に大きいことがわかる。眼前の課題は大きく、終日5トラック・40セッションという規模、会場のネットワーク環境、そして事務局自身の経験値・ノウハウの不足の3つだ。「ウェビナーの存在は知っていたけど、仕組みやツールは全然知らない。私自身そんなレベルでした」と臼井氏。

 なかでも問題視されたのがネットワーク環境だ。臼井氏がウェビナーサービス提供企業のコクリポに問い合わせたところ、「下り1Mbps以上/上り3Mbps以上。持続的にこの実効速度が得られるインターネット回線を推奨」との回答だった。同イベントの運営進行を毎年請け負うワンベスト プロデューサーの小松伸也氏が、会場として押さえているホテル雅叙園のネットワーク環境を調べてみると、上記のスペックを満たしていないことがわかった。

 一方で、たとえウェビナーに切り替えるにせよ開催自体を不安視する声は日に日に大きくなっていた。「いくらがんばってもさすがに今回はダメだろう」「スポンサーや講演者の皆さんにすぐにお詫びを入れるべきだ」などと、理事会からはネガティブな意見が増えていた。今の状況では開催自体ままならない──。「実のところ、一時は少しあきらめかけていました」と、大西氏はこの頃の心境を打ち明ける。

 そんな中、事務局にJDMCのあるメンバーから“朗報”が入る。「Zoomのウェビナー機能を使えば、そのコンファレンスの規模でもライブ配信、行けるかもしれませんよ」。Box Japanで執行役員・マーケティング部 部長を務める三原茂氏だ。臼井氏は早速、Box Japanのオフィスに赴いてレクチャーを受けた(写真4)。政府からイベント自粛要請の出た翌日、2月27日のことだ。

写真4:Box JapanでZoomとBoxの連携による配信システムのレクチャーを受けた

●Next:「終日5トラック同時ライブ配信」をわずか1週間でどう実現したのか

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