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[技術解説]

CPSが導くデータ駆動型社会、「データのサプライチェーン」の安全をどう確保するか

2020年4月3日(金)佃 均(ITジャーナリスト)

「データ駆動型」「データドリブン」という言葉をよく耳にするようになった。初出は、2015年5月に経済産業省 産業構造審議会が公表した「CPSによるデータ駆動型社会の到来を見据えた変革」ではなかったか。ビッグデータ、IoT、AIなど、いかなるデータ活用でも基本となるのはデータの品質だが、CPS時代を迎えてより鮮明になる「データのサプライチェーン」では、それを構成する個々の品質が何より重要になると考えられる。ITベンダーとユーザー双方が着目すべきポイントを考察してみたい。

 図1は、冒頭で触れた、産業構造審議会 商務流通分科会の中間取りまとめにある「CPSによるデータ駆動型社会」の概念図だ。CPSはCyber Physical Systemの頭文字を取った言葉である。

図1:産業構造審議会 商務流通分科会中間取りまとめ 2015年5月(出典:経済産業省)
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 日本のIT産業の大元締めのような業界団体、電子情報技術協会(JEITA)は、CPSを次のように説明している。

実世界(フィジカル空間)にある多様なデータをセンサーネットワーク等で収集し、サイバー空間で大規模データ処理技術等を駆使して分析/知識化を行い、そこで創出した情報/価値によって、産業の活性化や社会問題の解決を図っていくもの

 もう1つ、経済産業省の外郭団体である情報処理推進機構(IPA)によるCPSの定義はこうだ。

フィジカルシステム=現実世界で、センサーシステムが収集した情報をサイバー空間でコンピュータ技術を活用し解析。経験や勘ではなく、定量的な分析で、あらゆる産業へ役立てようという取り組み

 と、文章で読むより、具体的なユースケースにあたったほうが、理解が早いかもしれない。図1の概念図では、自動/自律走行技術やジャストインタイムのサプライチェーン、患者一人ひとりにフィットしたテーラーメイド型医療などが挙げられている。「カメラやセンサーが在庫数を監視し、一定量を下回るタイミングで自動的に発注をかける」「自動走行トラックで商品が届くと、倉庫ロボットが指定の場所に運んでいく」──というようなイメージだ。

データが間違っていれば元も子もない

 コンピュータはプログラムがなければタダの箱だ。プログラムが動く(機能を果たす)には、データがなければならない。読者には釈迦に説法だろう。そして「コンピュータは正しく間違う」。これもいまさら繰り返す必要もない常識だ。データが間違っていたら、システムは「間違った」答えを「正しく」出す。間違ったデータを20世紀型ないしはエキスパートシステム型のAIにインプットすれば「バカ」なAIが育つ。データの正規性/真一性/真偽性が担保されなければならない。

 この問題を考えるとき、筆者は往年のTVドラマ『3年B組金八先生』に出てくる「腐ったミカンの方程式」のエピソードを思い出す。ひとつ間違うと、この方程式は純化主義を正当化する分かりやすい理由づけに使われる。多様性が求められる今の時代にミカン論法は向かないが、ことIT分野についてだけはジャストフィットなのだ。

 文字コードが違う、データ構造が違う場合、システムはエラーとしてはじき出す。ところがデータの中身まではチェックしない。文字コードも同じ、データ構造も同じなら、文字や数字が間違っていてもシステムは受け付ける。それが受発注データなら正しい数量の商品が正しい場所に届かず、正しい請求書が発行できない。

 データ活用のモダンなアプローチとして定着してきたビッグデータ分析は高度なアルゴリズムで行われる。何百万、何千万、場合によっては何億、何兆ものデータを扱うが、ここに真偽が定かならざるフェイク、過失による誤入力が一定の割合で紛れ込んでいたら、アルゴリズムは当然のごとく間違った答えを出してくる。

 通常の加減乗除であれば、ケタがおかしいとか目見当と違いすぎるので気がつくこともある。しかし専門家以外の人間にAIのアルゴリズムはわからないので、答えが誤っているかの判断ができない。いや、できないというより、判断の範疇にない。つまり、データの正規性/真一性/真偽性について評価を行って担保する機会すらないのだ。

●Next:CPS時代、データの正規性を確保しようとしない企業に未来はない

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