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[市場動向]

コロナ禍が突きつけるIT課題の解決に向け、EAの取り組みを急ぐべきこれだけの理由

[前編]複雑多岐なITシステム、DX推進で広がるAs Is/To Beのギャップに求められる全体指針

2020年6月19日(金)田口 潤(IT Leaders編集部)

2020年4月末に、DXに「EA」が不可欠な理由─マスタープランなき政府の新型コロナ対策を反面教師にという記事を掲載した。政府の新型コロナウイルス対策へのクレームではない。DXを推進するより前に、EA(Enterprise Architecture)に取り組むべきと本気で思うからである。しつこいようだが、あらためてその理由を前後編の2回にわたって解説する。

 2020年4月末に掲載した関連記事DXに「EA」が不可欠な理由─マスタープランなき政府の新型コロナ対策を反面教師にで、筆者は、政府の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を引き合いに、レガシー問題の解決やデジタルトランスフォーメーション(DX)にはEA(Enterprise Architecture)が大いに役立つと書いた。今回は、EAの歴史を振り返りつつ、なぜ今EAが必要なのか説明する。

コロナ禍でDXは喫緊、待ったなし

 コロナ禍への対応で大混乱が続き、社会や経済の先行きは一層不透明さを増している。”アフターコロナ”や”ニューノーマル”という言葉が生まれ、コロナ禍以前と以降ではグローバル社会や経済のあり方から個人の行動様式に至るまで多くが変わると言われている。となれば企業もビジネススタイルの変革など、何らかの対応は不可避だ。必然的にデジタル化、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる必要がある。

 ところが、ことはそう簡単ではない。コロナ禍の中で、例えば在宅勤務に関するITやアプリケーションの不十分さが明らかになった。そこには印鑑を前提にした書類やファクスによる情報のやりとりが多く残る問題も、コロナ禍以前からのレガシーシステム問題、いわゆる「2025年の崖」も関わる。加えてサプライチェーンやBCP(事業継続計画)を見直す必要もあらためて顕在化した。

 例えば図1。これはコロナ禍以前の2019年夏にNTTデータ経営研究所が実施した調査の一部だが、比較的難度が低いと思われる「業務処理の効率化・省力化」でさえ「成果が出ている」と答えたのは40%ほどでしかない。そしてこの項目が他より高めなのは、ここ数年、ブームになっているRPAによると見られる。より本格的で時間も費用もかかる取り組みは、まだこれからなのだ。一方で売上げの低迷に直面する企業は多く、実施すべきIT/デジタル案件が数多くある中で予算は限られるどころか、減る可能性さえある。

図1:日本企業のDXへの道は始まったばかり(出典:NTTデータ経営研究所「日本企業のデジタル化への取り組みに関するアンケート調査」)
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 では、どうすればいいか? 筆者は、今こそEAに最優先で取り組む必要があると確信している。こう書くと、「EA? 昔に流行ったし、手がけようとしたけれど、難しくて手間がかかりそうなのに加えて、役に立つかどうかも分からなかった」と考える方も多いだろう。そのとおりで、日本では2000年代半ばに関心を集めたが、次第に議論や話題に上らなくなり、2010年以降には終息してしまった感がある。

 しかし、それは日本での話。大きなブームでこそないが、海外では調査会社やコンサルティング会社が相当の頻度でレポートや論文を発行している(画面1)。そこにあるのは「変化の時代であり、先が見えない時代だからこそ、優先順位を決めるための、何らかの指標が必要。それはEAしかない」という論理あるいは問題意識である。この意味で今日のEAは、2000年代のそれとは位置づけが様変わりしたと考えられる。どういう意味なのか、紐解いていこう。

画面1:例えばマッキンゼーはEAに関して今も継続的に情報を発信している(出典:Mckinsey & Company)
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2000年代はEAの必要性が弱かった

 まずEAの概要から。EAでは複雑なビジネス構造とそれを支える情報システムやIT基盤の状況を、図や表、文書などで表現し、関係者が共有できるようにする。関係者とは経営層や事業責任者、現場のスタッフ、IT部門などであり、全員が共通認識を持てるようにするわけである。それを現状(As Is)とあるべき姿(To Be)、それぞれについて行う。

 そうすれば、あるべき姿を実現するには、何をどう変える必要があるかを把握・検討できるようになる。関係者全員の共通認識の下でそれができるので、求心力や推進力も働く。

 よく見かけるのが図2だ。構成要素が多いので4つの層――ビジネス、データ、アプリケーション、ITインフラの各レイヤ――に分けて、それぞれ図式化を進める。4層に分けたとしても4枚の図で済むわけではないが、ビジネス(プロセス)からITインフラまでの全部をひっくるめて可視化できない点で、4層に分けるのは合理的だろう。

図2:エンタープライズアーキテクチャの概念
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 それができれば個々の層(レイヤ)の要素や関係だけでなく、異なるレイヤの関係も分かる。あるアプリケーションがどんな業務をサポートしているか、アプリケーション同士でデータ連携ができているか、といったことである。このように関係者が共通認識の下で合意でき、向かうべき方向を決めことができるのがEAだ。マスタープランなしに何か複雑なことに取り組む愚かさを考えると、EAの価値や必要性は明らかに思える。

●なぜ、日本企業はEAに関心を持たなくなってしまったのか?

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