[Small Smart Nationsから学ぶ「信頼経営」への進化─DBIC VISION PAPER 2]

鏡としての4つの国家「SSNs」─日本が生き残る道を限界戦略に学ぶ:第2回

2022年10月5日(水)デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)

スイスのビジネススクール、IMD(The Institute for Management Development)による「IMD世界競争力ランキング」。2021年版を見ると、今回のVISION PAPER 2で日本との比較対象とした「スモール・スマート・ネーションズ(Small Smart Nations:SSNs)」の4カ国は、相変わらず上位に高止まりしている。日本はこの年、2020年の34位から今年は31位と幾分持ち直したというものの、大きな変化はない。ランキングを軸にしてSSNsの共通点を分析し、日本が学ぶべき点を仮説として提示したい。

●第1回:「Small Smart Nations─小さく賢く機敏な国々」の成果が示すもの

滑り落ちる日本のランキング─没落と勃興を分けた分水嶺

 国や社会は自ら市場で競争するわけではないが、国際競争に強い企業が生まれ育つ土壌を作り出している。このような認識のもとで「国の競争力」という概念が生まれ、それに基づいて「世界競争力ランキング」が発表されるようになったのは、今から約30年前、1989年のことであった。そして、その当初から1993年にかけての5年連続で、世界トップの座に君臨していたのは、日本であった。

図1:IMD世界競争力ランキング(2021年)トップ15カ国と日本
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 しかしバブル経済崩壊のツケが表面化し始めた1990年代後半に、日本の評価は坂道を転がるように急落した。その後、2000年代から2010年代半ばにかけては、波のような上下が続いたが、全体としては少しずつ低下傾向にあった。

 そしてどうやらここ数年で、日本に対する評価はさらにもう一段レベルが下がったようである。2019年には30位と過去最低を記録し、2020年には34位とさらにその記録を更新した。本年は31位と前年からやや持ち直したものの、低落傾向はもはや鮮明である(図1図3)。

図2:世界競争力ランキング(30年の推移)
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 かつて世界トップの座を誇った日本が、今や欧米先進諸国のみならず、中南米やアフリカの国々も含めた64カ国の中で、上位30カ国にも入れなくなってしまったというのは、一体どうしたことであろうか。

図3:IMD世界競争力センターの3つのランキング(2021)
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見失われた競争力の地平

 こうした状況について、日本の企業や政府関係者からは「我々だって日々努力している」「朝から晩まで必死で働いている」といった恨み節が聞こえてくる。しかし、そもそもランキングとは、相対的な指標である。本人としては血のにじむような努力で100メートル走のタイムを縮め、自己新記録を更新したとしても、競争相手がさらにタイムを縮めれば、順位は落ちるのみである。そこに同情の余地はない。

 今の日本は、過去の栄光にすがり、その過去の貯金を食いつぶしながら何とかしのいでいるように見えるが、このままではそれも長くは続かないであろう。

鏡としての4つの国家「SSNs」

 それでは日本が再び世界有数の競争力を取り戻すためには、何が必要か。2020年のVISION PAPER 1は、世界および他社から謙虚に学ぶ姿勢が弱いことを日本の病巣として指摘した。これを踏まえて、VISION PAPER 2となる本連載においては、現在、国際競争力が高く評価されるいくつかの国々に焦点を当てて、その競争力の高さの源泉を探っていく。

 具体的には、2021年の世界競争力ランキングのトップ3である、スイス、スウェーデン、デンマーク、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、2021年には5位に順位を下げたものの、2020年は首位であったシンガポールの4カ国を取り上げる。

 まずはこれらの国々の概要と世界競争力ランキングにおける推移について見ていこう。


●About World Competitiveness Yearbook●
IMD世界競争力ランキングとは

 スイス・ローザンヌに拠点を置くビジネススクール、IMD(The Institute for Management Development)が、世界の主要60カ国と地域を対象に、「企業にとってビジネスをしやすい環境がどれほど整っているか」を基準に順位付けしたもの。「経済状況」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の4つの指標が設定されており、全部で300を超える項目を調査して決まる。

 初めて同ランキングが発表されたのは1989年で、2021年で33回目。幅広い観点から企業が競争力を発揮できる土壌の整備度を測るものと見ることができるため、世界各国の経営層や投資家が参考にしている(関連記事IMD世界競争力ランキング2022、デンマークが北欧初の首位、日本は3つ下げて34位に)。

●About World Happiness Report●
世界幸福度ランキングとは

 国連の持続可能な開発ソリューションネットワーク(Sustainable Development Solutions Network:SDSN)が、毎年3月20日の「国際幸福デー」に合わせて発表しているランキングデータ。調査は世界の150か国以上を対象に、2012年から毎年実施。調査で用いられるのは、主観的な幸福度を調べるためのキャントリルラダー(Cantril ladder)と呼ばれる11件法。0~10までの11段階のラダー(はしご)をイメージし、自分自身の生活への満足度がどこにあるのかを判断する調査手法。このような主観に、以下の6項目の内容が加味される(関連リンクSDSNによる2022年の世界幸福度ランキング)。

①1人あたりGDP(国内総生産)
②社会保障制度などの社会的支援
③健康寿命
④人生の自由度
⑤他者への寛容さ
⑥国への信頼度


スイス Switzerland

正式名称:Swiss Confederation
地域:欧州
首都:ベルン
人口:860万人(99位;2019年)
人口密度:208人/k㎡(2019年)
言語:ドイツ語(スイスドイツ語)・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語
面積:4万1000k㎡(132位)※九州の約1.1倍
世界幸福度ランキング:3位(2021年)

スイス Switzerland
外交・経済・文化、社会システムに異彩を放つ永世中立国家

 スイスは、約4万平方キロメートルという九州と同じくらいの広さの国土に、九州の約6割に当たる約860万人が暮らしている。20の州と6の準州から成る連邦共和制で、地域や言語、宗教、政党などのバランスによって7人の閣僚が選ばれて日本の内閣のようなもの(連邦参事会)を構成し、そのうちの1人が毎年持ち回りで大統領を務めるという、ユニークな国家運営が行われている。

 また、国にとっての重要事項は国民投票で決める、永世中立国であり、ヨーロッパの真ん中にありながらEUに加盟しないなど、様々な点で独自の道を歩んでいることでも有名な国である。

 2019年の1人当たり国民総所得は85,500ドルで、日本(41,710ドル)の2倍以上である。製造業では、ネスレ(食品)やABB(重電)といった世界的大企業を擁し、時計など精密機械にも強い。UBSやチューリッヒ保険など金融・保険分野でも世界的な強さを誇る。

 世界競争力ランキングの発足当初は、日本とシンガポールに次ぐ2位であったが、1990年代から2000年代半ばまでは下降基調で、2004年には14位にまで落ち込んだ。しかしそこから持ち直し、2008年以降は常に5位以内を堅持している。

●Next:スウェーデン、デンマーク、シンガポールが競争力を高められた理由

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