[ユーザー事例]

10km離れた2会場が一体化─NTT東日本がN響コンサートでリアルタイム・リモート演奏会を実証

全光ネットワークを用いた低遅延通信で、遠隔の演奏や観客の手拍子を完全同期

2022年11月18日(金)神 幸葉(IT Leaders編集部)

2022年11月7日、伝統の「N響コンサート」が、NTT東日本グループが開発する低遅延通信技術を活用した、リアルタイムかつリモートの演奏会として開催された。本会場と中継会場間の約10kmを同技術でつないで、両会場の演奏と観客の手拍子を低遅延・双方向で配信するという、複数会場ながらそれを感じさせない臨場感・一体感を創出するユニークな試みだ。

デジタル時代の新しい音楽体験を模索

 音楽業界は、新型コロナウイルス感染拡大で多大な影響を受けた業界の1つだ。世界がコロナ禍に慣れつつある今も、演奏の指導や国内外の演奏者たちを招聘した音楽イベントの開催などには依然、困難が伴う。

 一方、遠隔で行うコミュニケーションが当たり前となるなか、音楽イベントのライブ/オンライン配信やリモートレッスンなどが世界的に広がり、コロナ禍で演奏を楽しむ習慣も定着しつつある。しかし、リモートの演奏会やレッスンには、通信や音声・映像処理の遅延という大きな課題がある。わずかなズレでも、期待される演奏に程遠くなってしまうのがこの世界である。

 そうした中で、NTT東日本と、NTT東日本グループで文化芸術分野でのICTソリューション活用に取り組むNTT ArtTechnologyがユニークな試みを始めている。新しい共創・鑑賞モデルの音楽体験を目指した「多地点間協奏サービス」の研究だ。

 多地点間協奏サービスは、NTTのIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想をベースにして取り組まれている。IOWN構想は、光技術を活用して高速大容量通信や膨大な計算リソースなどを提供できるネットワーク/情報処理基盤の構築を目指すというもの。NTT東日本グループは、次世代のコミュニケーション基盤として2030年頃の実用化を目標とする(図1)。

図1:NTT東日本グループのIOWN構想(出典:NTT東日本)
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リモート演奏環境の低遅延・双方向性を実現する技術

 IOWN構想を基に、今回の実証コンサートで用いられたのが、オールフォトニクスネットワーク(APN:全光ネットワーク)技術である。APNは、ネットワークから端末までの全体でフォトニクス(光)ベースの技術を用いて、現在の電子ベースの技術では実現困難なレベルの低消費電力、高品質・大容量、低遅延伝送を実現するという。

 NTT東日本 経営企画部 IOWN推進室 担当部長の薄井宗一郎氏(写真1)は、「Web会議で発生している数百ミリ秒程度の遅延でも演奏は成り立たない」として、実証コンサート用にシステムに組み込んだオールフォトニクスネットワークに関わる2つの技術を説明した。

写真1:NTT東日本 経営企画部 IOWN推進室 担当部長の薄井宗一郎氏

低遅延伝送技術:電気処理を主体とする通信装置(ルーター、レイヤ2スイッチなど)を用いずに、非IP方式のレイヤ1通信パスをエンドツーエンドに設定することで物理的極限に迫る低遅延化を実現する。このような特徴を持つAPN端末装置をユーザー拠点に設置することで、ユーザーに100Gbps超の高速通信環境を提供可能にする(図2)。

図2:低遅延伝送技術のイメージ(出典:NTT東日本)
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低遅延映像処理技術:各拠点からの映像を縮小し、1台のモニターで画面を分割表示させる処理において、伝送される映像を入力順に画面配置を制御しながら表示する技術。処理装置への映像入力から出力までの処理遅延を10ミリ秒程度以下に抑えることができる(図3)。

図3:低遅延映像処理技術のイメージ(出典:NTT東日本)
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 これらの技術を用いることで、低遅延/双方向性配信を可能にすると同時に、ハウリング対策も容易になる。また、事前検証などを通じて「演奏者が演奏時に感じるリアリティにも大きく影響するスピーカー位置なども工夫し、演奏者が自然に演奏できる音響環境も構築した」(薄井氏)。加えて、カメラ、モニターに関してもできるだけ低遅延の市販製品を選定。薄井氏によると、今回は演奏会ということで、数100ミリ程度という極めて低遅延での伝送を目指したという(図4)。

図4:IOWN技術適用による遅延削減のイメージ(出典:NTT東日本)
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●Next:演奏と1600人の観客の手拍子が一体化! 新しい音楽体験を実現

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