[ユーザー事例]

逆境を機に臨んだデジタル/組織変革─「COACH」のタペストリー・ジャパン

2022年12月7日(水)神 幸葉(IT Leaders編集部)

ニューヨーク発祥のファッションブランド「COACH」などをグローバルで展開する米タペストリー(Tapestry)。同社はコロナ禍の逆境を生かしてデジタル化に舵を切り、ファッションとデジタルの融合を進めてきた。2022年11月9日・10日に開催された「CIO Japan Summit 2022」(主催:マーカス・エバンズ ジャパン)に、タペストリーの日本法人であるタペストリー・ジャパン VP, Head of International ITの杉林隆彦氏が登壇。同社の取り組みを「生産性」「カスタマー」「チーム」の3つの切り口から説明した。

 タペストリーは、1941年に米ニューヨークで皮革小物工房を創業し、「COACH」を世に出した老舗ファッションブランドだ。2017年に現在の社名に変更している。「COACH」「Stuart Weitzman」「kate spade new york」の3つの高級ファッション/ライフスタイルブランドを展開する(図1)。

 グローバルの売上規模は約67億米ドル(約9300億円)で、2025年までに80億米ドル(約1兆1100億円)達成を目指している。日本法人のタペストリー・ジャパン(当時コーチ・ジャパン)は1991年に設立され、COACHとkate spade new yorkの両ブランド製品を全国約300店舗で販売している。

図1:タペストリーが展開する3ブランド(出典:タペストリー・ジャパン)
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 他の業界と同様、ファッション業界もコロナ禍で逆境に立たされた。そこで同社は、デジタル化に舵を切り、新しい生活様式や価値観、購買スタイルに対応すべく、「ファッションとデジタルの融合」を進めてきた。

 タペストリー・ジャパン VP, Head of International ITの杉林隆彦氏(写真1)によると、社内システムは、オンプレミスからクラウドへの移行がほぼ完了したところで、現在は、システム/アプリケーション開発体制を、ローコード/ノーコードによる内製化に取り組んでいるという。

写真1:タペストリー・ジャパン VP, Head of International ITの杉林隆彦氏

製造や物流のプロセスにデジタルを導入し効率化

 杉林氏によると、タペストリー・ジャパンのデジタルへの取り組みは、「生産性」「カスタマー」「チーム」の3つの切り口で進められている。

 まず、「生産性」については、製品の型取りやサンプル作成においてデジタル技術を積極的に採り入れている。布の裁断は、布からパーツを切り出す形をシステムが計算し、レーザーによる自動カッティングで行う(写真2)。アナログだったデザイン作業も、360度ビューの3Dレンダリングデータを工場と共有し、スピードとサンプル精度を向上させた。物流では、輸送時のパッキングや段ボールのサイズ調整などをデジタル化している(図2)。

写真2:デジタル裁断作業の様子(出典:タペストリー・ジャパン)
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図2:デジタル技術により輸送時の最適化を図る(出典:タペストリー・ジャパン)
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新たな価値観を持つZ世代に購買をどう促すか

 続いては「カスタマー」の取り組みだ。タペストリーでは、購買行動分析やそれに基づく需要予測でも、もちろんデジタルを駆使している。杉林氏によると、分析・予測は外部の専門家に委託するのではなく、社内のデータサイエンティストが取り組んでいるという。ここから得られる洞察が、ECサイトやメールでのデジタルマーケティングに貢献する。「詳細にわたる分析や、顧客データと外部データを組み合わせなどにより、これまでとは違った視点の顧客セグメンテーションが行えるようになった」(同氏)という。

 杉林氏は、取り組みの一例として、Z世代(1997~2012年生まれ)の購買行動分析を説明した。COACHは幅広い年齢層に支持されているブランドで、Z世代もメイン顧客層に含まれる。この世代には次のような特徴があるという。

●SNSでコミュニケーションがほぼ完結する
●自分が発信した情報がグローバルに届くことを意識している
●複数のスーパーアプリやSNSを検索用、交流用など用途別に使い分ける
●広告よりも身近な友人などを信頼できる情報源として購買の参考にする

 このような特徴から、SNSを通じたマーケティングは重要にして必須のアクションとなる。タペストリーは、ブランドのSNSでライブストリーミングやバーチャルショッピングを提供し、購買行動につながっていく成果を実感(写真3)。「コロナ禍で実店舗の休業や客足が遠のいたことは、デジタルシフトへの追い風でもあった」(杉林氏)わけだ。

写真3:デジタルを活用して購買行動につなげる動き(出典:タペストリー・ジャパン)
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 また、ファッション製品の場合、購買者の視点に立つと海外モデルが着用しているアイテムは自分が着こなしているイメージがしにくいものである。そこで、外資系のタペストリーも、Z世代にとって身近な情報源であるSNSのインフルエンサーなどにPRを託して販促手段としている(写真4)。

 「ただし、それを繰り返すとPR費用もかさんでしまう。そこで、インフルエンサーのような役割を当社の店舗スタッフが担い、スタッフに影響されて来店へつなげられるサイクルを作る工夫もしている」(杉林氏)

写真4:インフルエンサーの発信力を生かしたPR(出典:タペストリー・ジャパン)
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●Next:変化に対応する「チーム」─グローバル化、企業文化、組織体制の取り組み

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