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5GやAR、ドローンで“東京の農業”をデジタル&スマートに─実証実験の成果とこれから

NTT東日本などの「ローカル5Gを活用した遠隔農作業支援」プロジェクト

2022年12月23日(金)神 幸葉(IT Leaders編集部)

農地、就農人口、生産額のいずれもが減少傾向にある東京の農業をデジタル&スマートに──。NTT東日本は2022年12月20日、「ローカル5Gを活用した遠隔農作業支援」プロジェクトの報告会を開催した。同プロジェクトは、同社と東京都農林水産振興財団、NTTアグリテクノロジーが2021年4月に締結した連携協定に基づき、ローカル5Gと先端技術を活用した新しい農業技術の実証試験を行うというもの。報告会では、プロジェクトの成果に加えて、ドローンやARを活用したさらなる遠隔農作業支援の高品質化の試みが紹介された。

東京の農業を変える!先端技術を活用し、“稼ぐ”農業を模索

 2021年3月に東京都が策定した「未来の東京」戦略の中に、具体的な戦略の1つとして「稼ぐ東京・イノベーション戦略」がある(図1)。同戦略に沿って、東京都の農林水産業の変革を目指す試みが「東京スマート農林水産業プロジェクト」だ。

図1:「未来の東京」戦略の概要(出典:東京都)
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 東京都の農業は、多摩地域や練馬、杉並、世田谷、足立、葛飾、江戸川などの区部で小規模で営まれているが、農地、就農人口、生産額のいずれもが減少傾向にある。東京スマート農林水産業プロジェクトは、縮小を続ける東京の農業に対し、官民学で連携し、先端技術などを活用することで稼ぐ産業へのシフトを目指している。

 これまでに東京都はベンチャー企業などと協業し、多品目少量を生産する東京の農業に合わせたスケジュール管理アプリや、庭先に設けた直売所で野菜を販売する人に向けた商品管理システムなど、効率的に農家が稼げる仕組み作りやシステム開発を進めてきた。

 東京都農林水産振興財団、NTT東日本、NTTアグリテクノロジーが協業で取り組むプロジェクトもその一環である。3者は2021年4月に締結した連携協定に基づき、ローカル5Gを活用した新しい農業技術の実証試験を行っている。

 実証実験の背景として3者は、年々減少する生産者を維持するためには、生産人口拡大の仕組みづくりやサポート体制の強化が必要なことを挙げている。また、小規模で分散している東京の農地を巡回する技術指導を行う指導員の業務効率化も必要に迫られていたという。

ローカル5G活用で遠隔での農作業指導を実現

 3者合同の実証実験は、NTT東日本研修センター(東京都調布市)敷地内の農業ハウスと、東京都農林総合研究センター(東京都立川市、注1)の2拠点で行われている。両拠点をローカル5Gと4Kカメラ、スマートグラス、遠隔操作走行型カメラ等の端末を活用してリアルタイムで繋ぎ、迅速かつ的確な遠隔での農作業支援実現を目指している(図2)。

注1:農林総合研究センターは東京都における農林業の技術開発を担う公的試験研究機関。都から東京都農林水産振興財団が運営を委託されている。

図2:2拠点をリアルタイムで繋ぐ農作業指導
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 NTT東日本研修センター内の農業ハウス(約450㎡)は、東京都農林総合研究センターが開発した「東京フューチャーアグリシステム」を採用。全自動で温度・湿度・日照量・CO2濃度等の環境データを基に統合環境制御を行うことができる。そこで、大玉トマトを350株栽培している(写真1)。

写真1:NTT東日本研修センター敷地内の農業ハウス
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 ハウスの運営には、全体を俯瞰してただちに状況を把握できる4Kカメラを5台、作業者が着用して指導員からリアルタイムで指示を受けるためのスマートグラス、遠隔操縦も可能な自動走行型カメラを導入している(図3)。

図3:ハウス内に導入された機器の役割(出典:NTT東日本)
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完全週休2日制、平日9~16時─農作業の働き方改革も

 実際に農作業を行うスタッフに、農業未経験者を雇用する。NTT東日本 経営企画部 営業戦略推進室 担当課長の中西雄大氏(写真2)は、「プロフェッショナルである東京都農林総合研究センターの指導員から指導を受けることで、未経験者でも失敗のない安定栽培ができることを実証し、サービスの社会実装を実現したい」と説明(写真3)。スタッフが完全週休2日制、平日9時~16時という勤務体系も実証実験の大きなポイントの1つで、「休みなしのイメージが定着していた農業において、今回のプロジェクトは農業の新しい働き方の体現を目指している」(中西氏)という。

写真2:NTT東日本 経営企画部 営業戦略推進室 担当課長の中西雄大氏
写真3:農作業スタッフ、指導員の新しい働き方を実現する(出典:NTT東日本)
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 一方で、課題だった東京都農林総合研究センターの指導員の働き方も、訪問回数や移動時間の削減などによる業務効率化、生育に伴う変化・異常の早期把握、指導品質の高度化を実現したという。今回のプロジェクトにおいて指導員は、移動の手間なく、毎日カメラを通じて10分間の遠隔観察を行っている。

 「これを社会実装できれば1人の指導員で、より多くの生産者に対し効率性の高い技術指導ができる。また、これまでは多くても週に1回程度が限界だった生育観察も増やすことができる」と中西氏は説明した。

 実際に遠隔観察で実際に早期発見・対処につながった実例もある。指導員がカメラで葉の異常を確認し、スマートグラスを着用した農作業スタッフと共に詳細を確認、原因を特定し対処まで遠隔指導を行い、数日後には異常を回復できたという(図4)。

図4:遠隔観察による早期発見・対処の実例(出典:NTT東日本)
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 収穫量は10a(1000㎡)あたり31トンと目安値(注2)の約2倍の収穫量を達成している。糖度に関しても目安を上回る実績を出せているという。「収穫量で成果を出せたことは、未経験者の新規就農や既存生産者の新たな挑戦を後押しできると考えている」(中西氏)

 同プロジェクトで収穫したトマトは、地元のJAと連携しての市場流通のほか、「こども食堂」や調布市内の小学校の給食としても提供しているという。

注2:東京都農林総合研究センターが、『令和3年産指定野菜(春野菜、夏秋野菜等)の作付面積、 収穫量及び出荷量(農林水産省)』より、夏秋トマトと冬春トマトの10aあたり収穫量を合計し算出したもの

●Next:ドローンやARも活用し、さらなる作業支援の高品質化を目指す

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