[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

僕たちの進化を阻んでいるのは、たぶん僕たち自身だろう─10の考察

ふくおかフィナンシャルグループ IT統括部 部長 島本栄光氏

2023年1月13日(金)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、ふくおかフィナンシャルグループ IT統括部 部長の島本栄光氏によるオピニオンである。

 みなさま、新年あけましておめでとうございます。新年を迎えたからといっても時の流れが途切れるわけではないのですが、こういう節目に頭の中や行動を改めて整えておくのは、私はとても好きです。この場をお借りし、新年に向けて考えたいことなどを書き連ねさせていただきたいと思います。

「物語」

 何かを説明するときや将来構想を語るとき、「物語」や「ストーリー」が大切と言われる。それらがあることで具体的なイメージを抱かせ、理解を深めさせることができる。一方、「イメージする」「わかりやすい」というのは危険である。なぜか。一度、人の頭の中につくられたイメージは、その後に壊すのが難しいからだ。

 「わかりやすい」というのは、実はわかりやすい方向から見ているだけで、対象のすべてを表しているとは限らない。現実は極めて複雑で、さまざまな要因が絡まり、時とともに変化する。自身も時を経て変化している。要は今「何となくわかった気になっているだけ」なのかもしれないのだ。

 「因果の物語」にも注意が必要である。これは過去の事実がプロセスを経て今につながり、将来こうなるという思考パターンであり、因果があると人は何となく安心する。納得感と言ってもよい。とはいえ、1人の人間の頭でカバーできる情報量はたかがしれている。要するに、因果とは「今を、都合よく『過去というメガネ』で、その人が見たいように見ているだけ」かもしれない。

「にわたま」

 「鶏が先か、卵が先か」という問いがある。これは「因果律のジレンマ」の代表例だが、鶏と卵の場合は、この二者に限定して考えてしまって思考停止に陥りがちだ。そこで、視野を広げさまざまな知見を取り入れてみてはどうだろう。

 鶏はニワトリという生物種だが、卵はニワトリ以外の鳥類も産む。ニワトリに近い種の鳥類が時間をかけて徐々に変化(進化)することでニワトリになるとも考えられる。つまり「卵が先にあり、卵から生まれる鳥類が長い時間かけニワトリに進化した」というのが、「鶏が先か、卵が先か」の答えになる。鶏と卵という二者の狭い視野から、「進化」という生物学の知識を加味して視野を広げたことで問題が解決する。

卵が先にあり、卵から生まれる鳥類が長い時間かけニワトリに進化した(写真:Getty Images)

 ビジネスも同じだろう。狭い視野で物事を捉えると、いつまでも解決策を導き出せない。挙げ句の果てに、考えることをやめてしまうという最悪の事態に陥る。答えや本質は、実は自らの視野の外に存在しているかもしれない。

「摩擦」

 人が乗って快適と感じる車の開発は、タイヤとその接地面との間のせめぎ合いと教えてくれた人がいた。滑らかで乗り心地をよくするため、技術者たちはタイヤが地面から拾うロードノイズや振動を抑える研究を重ねる。言ってみれば、地面から受ける「ストレス」、つまり「摩擦」をいかに小さくするかということである。

 どのような素材のゴムを使えばよいか、複数の素材の配合割合をどうするか、タイヤの溝の形状をどうすべきか、タイヤの扁平率はどの程度が適切か、さらにはホイールの形状や素材はどうかなど無数の条件を組み合わせ、摩擦をいかに減らすか考える。

 しかし減らすと言っても、ゼロにすると問題が生じる。地面との摩擦がないと、タイヤは接地面でスリップしてしまうので、クルマは前に進まない。「摩擦」をうまく利用してこそ、クルマを快適に走らせることができる。だから「摩擦」をコントロールする。そして心地よい「摩擦」を追求する。これが実は自然の摂理かもしれない。

地面との「摩擦」をうまく利用してこそ、クルマを快適に走らせることができる(写真:Getty Images)

「遍在」

 少し前に「ユビキタス」という言葉が流行し、「ユビキタスコンピューティング」のように使われた。日本語に訳せば「遍在」。さまざまなところに存在する、いつでもどこでもその恩恵を受けることができる、などという意味だ。最近はこの言葉を聞かないが、その概念は世の中に深く静かに根を張っている。

 クラウドコンピューティングや5Gなどが本格化し、IoTやスマホはもはやもはや当たり前。当たり前となれば、人々の口に上らなくなるのは当然だ。しかし、だからこそ我々は、意識しなければならないだろう。もし何らかの事故やトラブルが生じたら、遍在しているだけに影響は半端ではない。

「多様性」

 多様性(ダイバーシティ)を考えるとき、「何が違うか」という差異に注目しがちだ。仮に多様性の議論で「同質性が重要」と言うと、「同質の集まりは多様ではない」との指摘を受ける。ところが差異と同時に、「何が同じか」に着目しないと多様性の本質を見失う。例えば人間は姿形・体質・性格など極めて多様だが、ゲノム配列のおよそ99.9%は同じ。多様性が認識される差異を生み出しているのは、残り0.1%に過ぎない。

 企業や組織における多様性も同じだ。多様性を作ることが企業や組織の目的ではない。まず、ある目的を達成したいという「同質性」を持つものが集まる。その上でさまざまな視点を取り入れたり、将来の環境変化に対応するために多様性を確保する。これが本来の多様性の在り方だと思う。

 話は逸れるが、社会はさまざまな考え方の人から成り立っている。各々の考えを尊重するのが大事なのは言うまでもない。だからと言って、例えば「核兵器を使って戦争しても問題ない」という考え方は違う。それを許容することが多様性ではない。

●Next:バーチャル/リアルを意識しなくなる世界を前にしている

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