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理研が「量子計算クラウドサービス」公開、超伝導方式による64量子ビットの国産量子コンピュータ

2023年3月27日(月)日川 佳三(IT Leaders編集部)

理化学研究所は2023年3月27日、「量子計算クラウドサービス」を公開した。超伝導方式を採用した64量子ビットの国産量子コンピュータであり、外部からクラウドサービスとして利用可能である。ユーザーは当面、理研との共同研究契約を通じて利用する。同サービスの稼働基盤は、理研、産業技術総合研究所(産総研)、情報通信研究機構(NICT)、大阪大学、富士通、NTTの6組織で構成する共同研究グループが整備した。

 理化学研究所の「量子計算クラウドサービス」は、外部からクラウドサービスとして利用可能な、超伝導方式を採用した64量子ビットの国産量子コンピュータである。

 クラウドサーバーに接続することで、超伝導量子コンピュータにジョブを送信し、計算結果を受信する。当面は理研との共同研究契約を通じての利用となる。量子計算などの研究開発の推進・発展を目的とした非商用利用であれば、いずれの研究・技術者でも利用申請が行える(図1)。

図1:理研が公開した「量子計算クラウドサービス」の概要(出典:理化学研究所、産業技術総合研究所、情報通信研究機構、大阪大学、富士通、NTT)
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 公開した超伝導量子コンピュータは、理研、産業技術総合研究所(産総研)、情報通信研究機構(NICT)、大阪大学、富士通、NTTの6組織で構成する共同研究グループが整備した。量子ビットを64個並べた64量子ビットの集積回路を用いている。ハードウェア面では、(1)「2次元集積回路」と、(2)「垂直配線パッケージ」という2つの特徴を持つ。これらにより、量子ビット数を容易に増やせるシステム構成を実現したとしている。

写真1:64量子ビット集積回路チップの外観(出典:理化学研究所、産業技術総合研究所、情報通信研究機構、大阪大学、富士通、NTT)
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 (1)2次元集積回路の上では、正方形に並べた4個の量子ビットをそれぞれ隣り合う量子ビットをつなぐ「量子ビット間結合」によって接続している(写真1の右上)。この4量子ビットで構成する基本ユニットを2次元に並べて量子ビット集積回路を構成。今回の64量子ビット集積回路は16個の機能単位で、2cm角のシリコンチップ上に構築している(写真1の左)。

 (2)個々の量子ビットに対する制御や読み出し用の配線の取り回しに工夫を施している。2次元平面に配置した量子ビットへの配線を、量子ビットと同じ平面上で配線するのではなく、チップに対して垂直に結合させる垂直配線パッケージ方式を採用している(図2)。

 加えて、量子ビット集積回路チップへの配線を一括で接続できる配線パッケージを開発。「量子ビットと同じ平面上で配線した場合、チップ内に並ぶ量子ビットの数に対し、配線を外部に取り出すための辺の長さが不足してしまう問題」(理研)に対処する。

図2:垂直配線パッケージの概要。左の概念図は、量子ビットに対する制御・読み出し用配線を、信号用コンタクトプローブを介してチップに対して垂直に接続している様子。右の写真は、量子ビット集積回路チップを装着した配線パッケージの外観(出典:理化学研究所、産業技術総合研究所、情報通信研究機構、大阪大学、富士通、NTT)
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 また、高精度で位相の安定したマイクロ波パルス生成が可能な制御装置と、これを用いて量子ビットを制御するソフトウェアを開発。「量子ビットは、マイクロ波の周波数(8~9GHz)で振動する電圧パルスを用いて制御するが、量子ビットごとに異なる周波数のマイクロ波が必要になる」(理研)。

 共同研究グループは現在、さらに多くの量子ビットでの量子計算動作を実現するため、希釈冷凍機内の配線の高密度化などの開発を進めている。ユーザーのニーズなどを踏まえ、公開装置についても高度化に向けた必要な研究開発を進めていくとしている。

 「量子コンピュータが、従来の半導体集積回路を用いたコンピュータのようにどこでも自由に使えるようになるためには長い開発期間が必要である。共同研究グループは今後、拡張性の高い集積回路を主要技術として、100量子ビット、1000量子ビットといったマイルストーンを達成していく。将来的に大規模量子コンピュータを実現して社会に実装するため、100万量子ビット級の集積化の技術開発、エラー訂正・誤り耐性量子計算の実現を探求していく」(理研)

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