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[市場動向]

“バカを排除する仕掛け”などの欠落が生んだ、マイナンバーの情報紐づけミス

「JDEA=データハンドリングのプロ集団」が危機感を顕わに緊急コメント

2023年6月20日(火)佃 均(ITジャーナリスト)

世間を騒がせているマイナンバーカードの情報紐づけミス問題。2023年6月14日、日本データ・エンジニアリング協会(JDEA)が「マイナンバーへ紐づけられた誤情報登録報道に対する所感」を公表した。社会一般の話題に、受託系ITサービス事業者団体が専門家の立場からコメントを出したのは久しぶり(少なくともこの10年で唯一)で、2023年度総会から1週間という迅速な言及に、「データハンドリングのプロ集団」の危機感と焦燥感がうかがえる。

 なぜ、日本データ・エンジニアリング協会(JDEA:Japan Data Engineering Association)が、このタイミングで「マイナンバーへ紐付けられた誤情報登録報道に対する所感」画面1)を公表することになったのか。本件には、「デジタルが喧伝され、データの時代と言われながら、その原点であるデータをあまりに軽んじていないか」という危機感と焦燥感があるようだ。今回の「所感」の本音と、その内輪話も併せてお伝えしたい。

 ちなみに筆者にとってJDEAは「日本パンチセンター協会」と名乗っていた時代からの長いつきあい(協会を創立した川口重信、大神正、西澤健、河野健比古の諸氏。いずれも故人)である。その関係から、JDEAが「データの時代」にふさわしいデータ生成工学の旗頭になることを願って、応援団の1人としてあれやこれや協力していこうと考えている。

総会の余談から所感公表まで正味3日

画面1:JDEAの「マイナンバーへ紐づけられた誤情報登録報道に対する所感」
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 JDEAでマイナンバー紐づけミスの問題が議題に挙がったのは2023年6月7日、浜松市で開催された2023年度総会の席上だった。2022年度の活動報告、収支報告、2023年度の活動計画、予算案、理事・事務局の承認と通常の議事が終了し、余談として、誤情報紐づけはなぜ起こったのかが話題になった(写真1)。

 2日後の6月9日には、同協会活性化委員会の委員長を務める村岡宏哲氏(ワイシーシーデータサービス 代表取締役)が「所感原案」を作成、委員会のメンバーがメールで意見交換を行っているうち、10日には本文の最終版が整った、という経過をたどった。

 筆者の予定に、翌週6月14日に情報サービス産業協会(JISA)の2023年度総会と総会後の情報交換会があり、「そこに参集する報道関係者に所感をリリースしたらいい」という話がまとまったわけだ。

写真1:マイナンバー誤情報紐づけ問題で議論百出だったJDEA2023年度総会の様子

データハンドリングのプロだからこそ

 「マイナンバーカードを使ってコンビニで住民票の写しを取ったら別人の情報が出てきた」という、横浜市や川崎市、東京・足立区などでの事案は、富士通Japanが手がけたシステムの欠陥なので、データの問題ではない。しかし、医療機関でマイナンバーカードを保険証として使ったら別の人の診療情報が表示されたり「無効」と判定されたりしたのは、データの取り扱いに問題がありそうである。

 別人の健康保険情報紐づけは7300件超、別人の金融口座紐づけは約13万件。マイナンバーと健康保険番号、金融口座番号を紐づけする作業は当該本人が行うのが原則である。前者(健康保険情報)は健保組合や自治体窓口における入力補助、後者(金融口座情報)は保護者の判断が関与していると考えられる。なぜ、そんなに多くの誤情報紐づけが起こったのかがポイントである。

 政府(厚生労働大臣、総務大臣、デジタル担当大臣)の説明は「ヒューマンエラー」だった。「人の手作業だからミスは付きもの」というのは、何となく「そうだよねー」になりがちである。しかしデジタルと言いながら肝心かなめの入口がアナログで、しかも人任せというのはどういうことなのか。ヒューマンエラーで済ませていいのか? という意見が続出した。

写真2:JDEA会長の河野純氏

 JDEAの前身となった団体の設立は1971年で、IT業界団体の中で最も長い歴史を持つ。社会・産業の情報化がパンチカードで行われていた時代からインターネット/Webの現在まで、一貫して「データ」を取り扱うさまざまな業務を受託してきた。データハンドリングのプロ集団である。

 JDEA会長の河野純氏(電算 代表取締役社長、写真2)は、「ヒューマンエラーは付きもの。だからこそエラーをゼロに近づける工夫が必要」と話す。「その工夫とは、データを取り扱う前の環境設定とデータの設計、データを生成するプロセスの標準化と見える化、生成されたデータの精度を検証する仕組み」と言うのは、JDEA活性化委員会の委員長を務める村岡宏哲氏(ワイシーシーデータサービス 代表取締役)である。JDEAはこれに「データ生成工学」という仮称を付けている(写真3)。

写真3:データ生成の現場ではイメージカットやAIを駆使しダブルチェック体制が取られている

工学的見地から「上流工程に問題あり」

 「前もって断っておかなければならないのは、JDEAはマイナンバー制度に異を唱えているのではありません」と河野氏、村岡氏は口を揃えて強調する。国・自治体、医療機関、教育機関などからデータ入力やデータクリーニング、データベース構築さらに関連アプリケーションの開発といった業務を受託する立場上、協会として制度そのものを云々する立場にないのは理解できる。

 「また、保険証情報の紐づけミスと、別人の金融口座の紐づけは切り分けて考えなければなりません」。前者は同姓同名の人を未確認に紐づけしたヒューマンエラーに依るものだ。後者でミスが起こったのは、主に次の3点に起因する。

①未成年者の金融口座開設にかかる手続きが周知されていないこと
②未成年者の財産権にかかる民法の規定(保護者・親権者と未成年者の関係)
③親権者・保護者に未成年者(とくに乳幼児)の金融口座開設を義務付ける社会的合理性

 さらには、次のような制度設計上の課題も内包している。

④マイナンバー、住民記録の氏名は漢字表記、金融口座はカタカナ
⑤漢字氏名のヨミが未確定
⑥住所表記方法の不統一

 河野氏、村岡氏が「切り分けて」と言うのはまさにそのことである。そのうえで、今回の誤情報、とくに別人の健康保険番号の紐づけがなぜ発生したのかを分析してもらった。

 まず、最も上位工程の環境設定では、2万円相当のマイナポイントの締め切りが駆け込み需要を生んで、入力を補助したり代行する人の大きな負荷となり、これがヒューマンエラーを発生させる原因になった、と両氏は指摘する。

 そう言いながら、「生年月日、住所まで確認すれば同名異人だということが判ったはず。そんな時間的余裕がなかったのでしょうか」「行政窓口で、ログアウトしないまま入力したというのは、再ログインの手続きがよほど面倒なのか、いったんオンラインが切れるとレスポンスに時間がかかるのか……」と首を傾げるのは無理からぬところである。

●Next:「データハンドリングのプロ」が当たり前に行っていること

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