[ザ・プロジェクト]

ヤンマーがグループ横断/現場主導で取り組む“データドリブンな業務改革”、その軌跡と成果

1年間で30のプロジェクトが進行、データカルチャーの醸成へ

2024年1月9日(火)神 幸葉(IT Leaders編集部)

発動機/農機/建機のグローバルメーカーであるヤンマーが、次世代経営基盤構築の過程で、AIを駆使しながら多様な業務データの分析・活用に取り組んでいる。グループ全社の現場からデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組みたい人材を募った「DXコミュニティ」をベースに、現場主導型でプロジェクトを立ち上げて活動中だ。PoCに進んだプロジェクトは1年間で約30テーマに上る。活動全体をサポートデジタル戦略推進部やプロジェクト担当者に活動の軌跡と成果を聞いた。

創業111年のグローバルメーカーが描く次世代経営基盤

 1912(大正元)年創業の山岡発動機工作所(大阪府大阪市)から出発したヤンマーは、1933年に世界で初めてディーゼルエンジンの小型化を成功させるなど、1世紀以上エンジンや農業機械などの製造に携わるグローバルメーカーである。2013年4月にヤンマーホールディングスを設立して持株会社制に移行し、国内外でグループ会社は110社を超える。よく知られている農機、建機、発動機、小型船舶などの製造・販売のほか、最近ではレストラン・食事業のようなさまざまな分野に事業を展開している(図1)。

図1:ヤンマーグループの事業一覧(出典:ヤンマーホールディングス)
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 ヤンマーグループは、2022~2025年度の中期経営戦略の中で6つの戦略課題を挙げる。その1つに次世代経営基盤の構築がある(図2)。

図2:2022~2025年度の中期戦略課題(出典:ヤンマーホールディングス)
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 次世代経営基盤の構築における重点的な取り組みとして、「インフラ整備とセキュリティ強化」「データ基盤の再構築とシステムのモダナイゼーション」「草の根DX組織の構築・グループ展開」「データ活用・分析」の4つを挙げている(図3)。その中で、ヤンマーホールディングス デジタル戦略推進部 DX推進グループが中心となって進めているのが、草の根DX組織の構築・グループ展開とデータ活用・分析である。

図3:「次世代経営基盤の構築」の概要(出典:ヤンマーホールディングス)
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グループ横断型コミュニティから活動の環を広げる

 草の根DX組織の構築・グループ展開は、「DX人材」の育成、社内文化醸成に取り組む活動のこと。海外現地法人を含むグループ全社から、DXやデジタルに関心を持つメンバーを募り、クロスファンクション型の「DXコミュニティ」を形成している。

 DX推進グループの方針・立ち位置は、グループの各現場から集まったDX推進に携わりたい人材をサポートすること。ヤンマーホールディングス デジタル戦略推進部 DX推進グループ 課長の山根寛司氏(写真1)は、「当部は事業の現場にはいませんので、それぞれの現場のメンバーに指示を出しても響きません。だから、研修/トレーニングを用意するなどのサポートという役割で動いています」と説明する(図4)。

写真1:ヤンマーホールディングス デジタル戦略推進部 DX推進グループ 課長の山根寛司氏
図4:DXコミュニティのイメージ(出典:ヤンマーホールディングス)
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 DXコミュニティには現在約900人が在籍し、現場の業務改善をはじめとする意見交換をオンライン上で行っている。国内外のグループ社員が参加するためオンラインがメインだが、リアルでも定期的に研修/トレーニングなどのイベントを開催している。「AIやRPAを活用するためのトレーニングを企画したときは、コミュニティの外からも興味を持った人が集まってきました。そんな好循環ができていると思います」(山根氏)。

 一方で、デジタルに関する経営層の理解を促すために、CDO(最高デジタル責任者)が現場に赴いてDX推進の取り組みを直に確認し、それを毎月開催の経営会議で共有するといった活動もある。ボトムアップとトップダウンの両方から、活動の認知拡大やテーマの発掘などにあたっているわけだ(図5)。

図5:ボトムアップ/トップダウンの両輪で取り組むDX推進(出典:ヤンマーホールディングス)
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約30のPoCが現場主導で走る

 2022年夏、デジタル戦略推進部はAIを用いたデータ分析・活用の取り組みをスタートさせている。最初に実施したのは、社内でAI活用に関するアイデアを募ること。アンケートを行うと、「AIで何ができるかを具体的にイメージできない」という社員からも回答があったという。

 その後、AIに関する理解を深めてもらう目的で、AIプラットフォームを提供するDataRobotの協力を得ながら社内勉強会を企画。初回開催に100人を超える社員が参加した。その後改めてテーマを募ると19の応募があった。その中から7テーマに絞り込み、実際に「DataRobot」を使ってAI予測モデルを構築するプロジェクトのPoCが始まった。

 PoCを進める中で、業務・施策ごとにAI活用の向き不向きが見えてきたという。需要予測、 顧客ターゲティング、販売予測などは、ヤンマーが蓄積しているデータとの相性が良いことがわかった。

 PoCを始めたテーマの状況や結果などは社内ポータルサイトで公開している。山根氏は、「本番業務への適用までにはまだ道半ばですが、コミュニティやポータルサイトを通じてAI活用の社内での認知が広まり、理解が深まってきたと思います」と話す。

 メンバーが興味を持ってコミュニティに集い、そこで開かれる勉強会などを通じてテーマを募るといった活動を続けた結果、現在(2023年11月)までに、約30テーマがPoCに進んでいる。分析などの難易度が高そうなPoCではDataRobotが直接支援するケースもあるが、基本はヤンマーの社員たちがみずから手を動かしている。

 「現場で業務を知るメンバー自身がトライ&エラーで取り組むことが重要だと考えています。それぞれがノウハウを習得しながら、さらなる内製化を目指していきたいです」(山根氏)

●Next:プロジェクトの中身と見えてきた成果、目指すは全社のデータ文化醸成

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