[シリコンバレー最前線]

技術者を組織に従属させないハリウッド流の開発プロジェクトを

2011年12月8日(木)山谷 正己(米Just Skill 社長)

シリコンバレーでの開発プロジェクトは、数人の優秀な技術者が短期集中型で進めるアジャイル型が主流。開発方法論にこだわらず、自由な発想を互いにぶつけ合いながら優れたソフトウェアを生み出している。

約百年前の1914年4月10日、豪華客船タイタニック号は乗客2223人を乗せ、英サザンプトン港からニューヨークに向けて初の航海に出航した。その4日後の深夜、北大西洋沖で霧に覆われた氷山に激突。翌日の午前2時20分に沈没した。限られた数の救命ボートに乗り切れなかった1517人が溺死した。

この史上最悪の海難事故をテーマにした映画が、1997年末に公開された「タイタニック」である。2億ドルの制作費と3年の歳月を投じた同作は、アカデミー作品賞や監督賞、撮影賞など計11部門を受賞。これまでの興行収入は、18億ドルに達する。投資利益率900%の、まさにビッグビジネスである。

いきなり映画の話から始めたのは、シリコンバレー企業の組織構造はハリウッドを手本にしているからだ。

かつて米国の通常の企業は、ピラミッド型の階層構造をよしとしていた。人から人へと情報伝達するには好都合だったからだ。しかし、シリコンバレー企業では1990年代の中頃から中間管理者を減らす動きが出てきた。グループウェアやイントラネットの普及によって情報伝達が迅速かつ正確になり、情報伝達役の中間管理者が不要になったためである。さらに、2000年以降のネットバブル崩壊により、人件費削減を目的にした中間管理職のレイオフに拍車がかかった。その後、中間管理職を一掃したシリコンバレー企業が進めたのが経営陣と実務担当者(特に技術者)の分離だ(図1)。その際の合い言葉が、「ハリウッドを見習え」だった。

図1 シリコンバレー企業の組織構造。技術者集団からメンバーを選抜し、開発チームを結成。ソフトウェア完成後、メンバーは技術者集団に戻る
図1 シリコンバレー企業の組織構造。技術者集団からメンバーを選抜し、開発チームを結成。ソフトウェア完成後、メンバーは技術者集団に戻る

技術者は特定部署に所属しない

映画制作はプロデューサや監督、俳優、大道具、小道具など数百人から数千人のスタッフがかかわる巨大プロジェクトである。多数のメンバーを抱えて、決められた予算と期間内に作品を完成させる。ハリウッドの映画制作は、プロジェクト運営の優れたモデルである。

プロデューサーは、映画の企画を立案して制作資金を調達し、監督や脚本家を選ぶ。指名された監督(ディレクター)は、俳優やカメラマン、編集技術者などを選定して制作チームを編成し、撮影現場ではメガホンを持つ。映画俳優はプロデューサーやディレクターから独立した存在であり、演技力に磨きをかけるべく日々、自己研鑽に励む。いくら容姿が良くても、演技が下手であれば大作映画には声がかからない。

こうしたハリウッド流のやり方を見習った結果、シリコンバレーの企業の組織は極めてフラットになった。経営陣としては、社長兼CEOの下に各業務担当の執行役員(CIO、COO、CMOなど)、さらにそれぞれの役員の下にディレクターが配される。日本で言う部長や課長はいない。

システムアーキテクトやソフトウェアエンジニアなどの技術者は、特定の部門に所属することなく、独立した技術者集団として存在する。彼/彼女らの名刺はシンプルそのものだ。氏名と会社名のほかは、「システムアーキテクト」「Javaエバンジェリスト」といった職種が印刷してあるだけ。部署や役職名はない。会社名、部署名、役職名、最後に氏名を記した日本企業の名刺とは対照的である。

ディレクターは、プロジェクトを遂行するのにふさわしい技術者をその都度選定する。アーキテクトは誰、データベース担当は誰、ネットワーク担当は誰、といった具合である。プロジェクトが完了したら開発チームは解散し、メンバーはもとの技術者集団に戻る。

ソフトウェア開発プロジェクトを成功させる最も重要な要素は、言うまでもなく開発技術者のスキルである。それだけに、高度なスキルを持った技術者は引っ張りだこ。一方、スキルが劣った技術者は魅力あるプロジェクトには指名されない。したがって、技術者は自ら目標を立てて腕を磨くことに専念する。上司に言われて研修を受講するのではない。あくまで自発的・意欲的に先進技術の習得に努める。まさに、先ほど触れたハリウッドの映画俳優のようではないか。こうした自己研鑽の一助となるのが、本誌2011年8月号で紹介した大学のエクステンションである。

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