[インタビュー]

「モデルベースとデータドリブンの徹底が製造業の未来を拓く」─ダッソー幹部

2016年12月2日(金)川上 潤司(IT Leaders編集部)

モノづくりから事づくりへ、プロダクトからサービスへ──。様々な表現で製造業が進むべき進路が語られる。この業界に向けた様々なソリューションを展開している仏ダッソー・システムズ(Dassault Systèmes)は今、どのようなメッセージを投げかけているのか。来日したエリック・グリーン氏(Vice President, User Experience and Marketing)に話を聞いた。

 デジタルテクノロジーの進展によって、企業間の競争軸が大きく変わろうとしている。それは製造業においても同様で、ただモノを作って市場に提供するだけの企業は存在感を示すことができなくなってきているのが昨今の状況だ。

ダッソー・システムズのエリック・グリーン氏(Vice President, User Experience and Marketing)

 自動車ひとつとっても、A地点からB地点への移動手段としてとらえるのではなく、搭乗者を取り巻く空間として、いかに快適かつ豊かな体験を提供するかが、これから考えるべき付加価値であるし、顧客もそのような評価尺度を持って選択するようになるだろう。感動を伴うようなユーザー体験を基軸にして市場が活性化していく動き、いわば“Experience Economy”(体験経済)が確実に回り始めているのである。だからこそ、製品を企画し、設計に落とし込み、実際に製造し、市場にデリバリーするという一連の業務のあり方を、時代に合わせて見直し、再定義することが欠かせない。

 製造業を支える各種ソリューションを提供している当社がユーザーに変革を促してきた歴史を振り返って見ると、まずは設計業務に3D CADを持ち込むことから始まった。それはやがて3Dのデジタルモックアップへと進化し、設計段階でのシミュレーションなど業務の生産性や品質を高めることへとつながった。もっとも、それはまだ大量生産を前提に、設計者や製品エンジニアなど一部の実務担当者を支援する域にとどまっていた。

 モノが市場に潤沢に供給されるようになったのに伴い、消費者の嗜好が多様化し、厳しい選択眼を持つようになったのは皆さんがご承知の通り。多品種少量生産や製品寿命の短期化の傾向が強まり、一方では安全性の確保といった課題にも対峙しながら、消費者起点でのモノづくりが強く意識されるようになった。この「新製品拡散時代」の製造業を支えるものとしてPLM(Product Lifecycle Management)、文字通り、製品のライフサイクル全般をとらえ、適切な製品を適切なタイミングで、さらには適切なコストで供給しようとのアプローチが盛んになった。当社はここでも首尾一貫して3Dにこだわり3D PLMのコンセプトを基軸にしていた。

 そして先に触れた体験経済の到来である。かつてのマスプロダクションに対比すればマスカスタマイゼーションへの強烈なシフト。誰もが自分向けの特注品を望む、“オーダー・オブ・ワン”の時代を迎え、それに応えるための業務のあり方の抜本的見直し、そしてそれを支えるプラットフォームが求められている。当社が今まさに力を注ごうとしているのがこの領域だ。

 最終顧客が魅力を感じる体験をどう具現化するか。往年の静的な設計、関係者同士のファイルベースでのやり取りでは、現場に複雑性とストレスをもたらすだけである。モデルベースでデータドリブンなモノづくり、換言すれば、顧客が何を求めているか、実際にどう使っているかを常に参照しながら、アイデア創出から最終的なデリバリーまでを臨機応変にサポートする仕組み。それを「3D Experience for Manufacturing」と位置付け、実際に使える形で市場に提供するのが我々の最大のミッションである。

顧客価値の最大化に向けた全社一丸の仕組みを築く

 もう少し具体論に落とし込もう。製造業にとっての新たなパラダイムを支えるのに重要な要件として、まずはすべてのステークホルダーをつなげることが挙がる。設計に関わるエンジニアと製造現場で働くエンジニアをつなげること、つまりは設計という仮想環境における内容と、製造という現実世界で起こる内容を「モデルベースで」シームレスに統合できなければならない。さらには、サプライチェーンの計画とオペレーションとの連携も不可欠だ。“つなげる”というのは、担当が異なっても常に関連するデータが共有・連携され、種々のオペレーションが合理的に同期されるということだ。システムがサイロ化されていては始まらない。

 当社では、グローバルな生産工程におけプランニングやシミュレーション、モデリングなどを担う「DELMIA」をはじめ、いくつもの用途別の製品ブランドを抱えているが、すべては単一のプラットフォームに統合できる設計思想を貫いている。それは、例えば、2014年に買収したサプライチェーン関連の「Quintiq」や、今年6月に買収した生産計画関連の「Ortems」など、ルーツが異なる製品についても違いはなく、ユーザーインタフェースも含めて徹底して統合することに力を注いでいる。

 2つめの要件としては、今よりも多種多様で大量のデータを利用可能にし、知見を得て、より良い結果に導くサイクルを作り出す必要がある。工場にある機械や設備の稼働状況はもちろんのこと、実務担当者の作業内容や所要時間、さらには出荷後の製品が実際にどのような使われ方をしているかといったデータでさえも、今の技術をもってすれば難しいことではない。他にも市場統計はじめビジネスの周りには実に多彩なデータが溢れている。それらは意思決定の最適化や、予測分析によるプロアクティブな対応、製品・サービスそのものの改善などにつながる宝の山だ。もっとも、玉石混淆のビッグデータから“玉”を探し出すのは言葉ほど簡単ではない。先にも触れた「プラットフォーム」としての単一アーキテクチャの強みが際立つのがここであり、どんな方向からでも串を刺して必要なデータを抽出できる。

 工場内の機械が故障したため直ちに代替プランを立てなければならない、為替変動の傾向を見てより収益性の高いグローバル生産計画を立てなければならない…。モデルベース、そしてデータドリブンの統合基盤は、製造業が日々直面する短期的あるいは長期的な課題に対して、いくつものシナリオを描き、その中から最適な策を選択して実践することを強力に支援する。

 こうした話を聞いて「確かに理想ではあるが、社内には様々な経緯で導入した既存システムがあり、そう簡単には置き換えられるものではない」という意見を持つ人もいることだろう。重要なのは、大きな変革期を迎えている中で、自社の戦略とそれを支えるIT基盤のあり方をしっかりと見つめ直すという行為だ。成長のためにやるべき事は何か。ITが支援できている領域とできていない領域はどこか。後者において最優先で対処しなければならない要件は何かをいち早く明確にする必要がある。

 うかうかしていると、あっという間に勢力地図が塗り変わるのが昨今の情勢だ。グローバルの大手製造業は着々と行動を起こしている。私の立場からすると、行く行くは当社製品に揃えるのが合理的だとアドバイスしたいところだが、それはさておき、既存システムをうまく活用する道もあるはずだ。モノづくりとしての生業で、どうやって顧客に価値を提供していくのか。そのために全社が一丸となって動くには、どんな仕組みが必要か。それを是非、突き詰めてほしい。当社はいかなる相談にも乗る準備を整えている。

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