[インタビュー]

気鋭のデジタルリーダーはJFR=“大丸・松坂屋・パルコ連合”をどう変えるのか

J.フロント リテイリング グループデジタル統括部 チーフ・デジタル・デザイナー 野村泰一氏

2022年9月7日(水)Darsana

全日本空輸(ANA)でデータ活用やDX/組織変革を牽引してきたデジタルリーダーが、まったく異業種のJ.フロント リテイリング(JFR)に転身──。2022年春、JFRのグループデジタル統括部 チーフ・デジタル・デザイナーに“電撃就任”した野村泰一氏は、老舗百貨店の大丸、松坂屋とアパレル/ファッション店舗のパルコを擁するJFRをどのように変えていこうとしているのか。野村氏に、2022年秋から本格的な改革の第一歩を踏み出すJFRでのアクションを詳しく聞いた。
※本記事は、AnityAが運営するWebメディア「Darsana」が2022年8月22日に掲載した記事を転載したものです。

JFRの2022年は攻めに転じる年

 「我々に求められるのは、アフターコロナをただ待つのではなく、ウィズコロナを前提とした変革への覚悟です」──。自社サイトのトップメッセージで、こう危機感を顕わにするのは、J.フロント リテイリング(JFR)の代表取締役社長を務める好本達也氏だ。

 JFRは、2007年に百貨店の大丸と松坂屋が経営統合して大丸松坂屋百貨店が誕生したときに設立された共同持株会社で、2012年にはショッピングセンターのパルコ(PARCO)も傘下に収めている(写真1)。

写真1:大丸・松坂屋・パルコを運営するJ.フロント リテイリング(出典:J.フロント リテイリング)

 現在、JFRはコロナ危機からの完全復活と再成長を目指して、2021年度から新たな中期経営計画をスタートさせている。2022年度は、コロナ危機への対応という「守り重視」から、トップラインの成長を追求する「攻め」に転じる年と位置づけており、人材育成にも積極的に投資する計画だ。

 こうした中で2022年春、JFRにある人物が入社したことがわかり、IT/デジタル界隈の人たちを驚かせた。全日本空輸(ANA)でデータ活用を中心としたDX施策を牽引してきた野村泰一氏(写真2)が、JFRに転じてグループデジタル統括部のチーフ・デジタル・デザイナーに就任したのだ。

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 野村氏は、従来の取り組みの延長線上にある「改善」ではなく、新たな視点でビジネスの成長を考え、場合によってはこれまでのやり方を変えることも辞さない「改革」を企業に根付かせることを目指して、DXを推進してきた変革の第一人者だ。

 変革を実現するためには、「スキルやツールだけに頼るのではなく、部門を横断して課題解決に取り組むためのマインドセットを醸成することが重要」というのが野村氏の考え。新たな改革のフィールドとなったJFRでも、早速JFRに必要なマインドを醸成するための取り組みや、人材育成、システム活用のための施策を仕込んでいるという。

 「社外のDX担当の方々と話をする中で、これまでANAで取り組んできた一連の取り組みが、もしかしたらほかの業界にも通用するのではないか、と思うようになったのです。そんな中、経営トップが大きな危機感を持って改革を断行する覚悟を決め、DX推進というフィールドを私に与えてくれたのがJFRでした。4月に入社して4カ月ですが、いよいよこの秋からデータ活用のための仕組みづくりと人材育成を本格化させます」(野村氏)

 野村氏は、江戸時代から続く老舗百貨店の大丸、松坂屋と、若者文化の発信拠点パルコを擁するJFRをどこからどのように変えていこうとしているのか。秋から本格的な改革の第一歩を踏み出す同社の取り組みについて、野村氏に語ってもらった。

写真2:野村泰一(のむら たいいち)氏
J.フロント リテイリング グループデジタル統括部 チーフ・デジタル・デザイナー。前職のANA時代には、マイクロサービス型のデータプラットフォームを構築する一方で、内製化チームを整備し、年間20万時間以上の効率化を達成した。また、オリジナルのワークショップを組織横断的に展開し、課題を吸い上げるとともにDXを進めるための文化作りや人材育成なども行う組織変革のスペシャリストとしても知られる。

“出戻り”経験がDX推進の糧に

──野村さんは、長年務めたANAを退職して、航空ベンチャーのPeach Aviationの立ち上げに参画し、その後、ANAに戻ってデータ活用を中心としたDXを推進してきました。変革の手法を確立するのに、これまでの一連の経験はどのような形で役立ちましたか?

野村氏:大企業とベンチャー、システム部門とオペレーション部門、営業部門など、異なる社風、異なる役割を幅広く経験したことが、DXを推進する上で大きな糧になりました。若い頃に、ANAでレガシーなシステムを使ったビジネスモデルの開発を担当し、メインフレームやWeb、端末まで一とおり触っていたことがとても役に立っています。こうしたスキルを身につけた上で、航空ベンチャーの立ち上げを経験し、さまざまなビジネスを一からデザインできたのは、自分の強みになっていると思います。

 これまで取り組んできた変革のデザインは、データプラットフォームをベースとしたB2Cのモデル作りやデジタルテクノロジーを使ったビジネスデザイン、それを生み出すための組織設計やマインドセットの浸透、人材育成──といった要素を「合わせて実行する」というスタイルで、これが私の流儀であり、ポイントだと思っています。JFRでは、これまでの経験を生かしながら「JFRならではのDX」をデザインし、実装していく計画です。

野村氏は「これまでの経験としてさまざまなビジネスを一からデザインできたのは、自分の強みになっている」と話す

なぜ、多くの企業で「改革プロジェクト」がうまくいかないのか

──「改革」を起こそうとしているのに「改善」にとどまってしまう/コストを投入し、努力もしているのにDXが思うように進まない──と悩んでいる企業が少なくありません。ANA時代に「部門を超えて協力しよう」という文化を醸成し、挑戦を恐れないマインドを浸透させた結果、さまざまな改革を成功させました。その経験から、企業が「改善」にとどまらない「改革」を起こすためには何が必要だとお考えですか?

野村氏:たしかに、改革のための努力や投資が、一向に結果に結びつかないという話はよく耳にします。そういう方々に、どんな取り組みをしているのかとお聞きすると、「現状の取り組みに対してPDCAを回して改善しています」「新たにデータプラットフォームを導入しました」「データ活用のためのデータサイエンティストを雇用したり、社内人材をデータサイエンティストにするための育成を行いました」といったことを実行している企業が多いようです。

 もちろん、こうした取り組みは重要なのですが、これまでと同じ組織構造の中、同じマインドのもとで取り組んだのでは、「従来の延長線上の取り組みにとどまってしまう」と思うのです。それは「改善」であり、なかなか「ダイナミックな改革」には至りません。

 どういうことかというと、「改善」は「既存のモデルが磨かれるもの」であり、現状からの脱却、つまり、これまでにない大きな成果や新たなビジネスモデルの獲得にはなかなかつながりません。

 一方の「改革」は、「これまでの方法論やビジネスモデル、組織のあり方を否定することすらあるほどの、大きな変化を起こす取り組み」なので、反発や抵抗などの摩擦は必至です。それでもなお、覚悟を決めて取り組むからこそ、大きな成果や新たなビジネスモデルを生み出すことができるわけです。

 DXはまさに「改革」ですから、従来の組織構造やマインドセットの上で、仕組みづくりと人材育成を行うだけでは、なかなか変化は起こせません。企業のありたい姿から逆算し、それを実現するために必要な「マインドセットの醸成」と「それを根付かせるためのプロセスづくり」もセットで行わないと、せっかくの仕組みやスキルが生かせないままになってしまいます。

 前職の取り組みにおいても、デジタル化のための仕組みづくりをしただけではありません。仕組みを生かすためにはマインドセットが大切ですから、まずはイノベーションを担当する部門からその意識を変え、ワークショップや案件構築をきっかけにコミュニケーションすることで、他の部署にも伝播するよう心掛けました。

 例えば「失敗しても責めず、そこからの学びを今後の取り組みに生かそう」というマインドは、納期と品質を絶対視する風土を持つ部門にとってはとても大きな変革です。しかし、こういうマインドへのこだわりが、人財育成に影響し、さまざまな改革施策につながったという実感があります。

 つまり、さまざまな施策を「改革」につなげるためには──

●システム環境と人材育成、業務プロセスといった「変革要素」の連動
●マインドセット、スキル、ナレッジを掛け合わせた人材育成
●組織機能とデジタル人材の一体化

──といった取り組みが欠かせないと考えています。JFRでは、こうした考え方に基づいた変革を進めていこうとしています。

●Next:野村流!JFR花伝書の内容と、実践・定着のためのワークショップ

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※本記事は、AnityAが運営するWebメディア「Darsana」が2022年8月22日に掲載した記事を転載したものです。

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