[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

政府のデジタル施策の遅れに失望しつつも、未来に期待するドイツ国民:第45回

欧州デジタル競争力センター「デジタルレポート2023」

2023年9月25日(月)麻生川 静男

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、ドイツはロシアからの天然ガスパイプラインを止められ、深刻なエネルギー危機に見舞われている。にもかかわらず、ドイツ経済は、表面的には依然として力強く発展しているように見える。しかし、国家のデジタル化は欧州圏内ではかなり遅れている点を憂慮する声が挙がっている。その声は、2023年1月25日に同国の研究機関、欧州デジタル競争力センター(European Center for Digital Competitiveness)が発表した「デジタルレポート2023(Digitalreport 2023)」からもうかがえ、ドイツ国民は政府のデジタル化の遅れに失望しつつも、未来に期待を持っているようだ。

デジタル化進捗は地域によって大きな差

 ドイツのIT系メディアのコム・マガジン(com!)は、いくつかの調査結果を引用しつつ、ドイツのデジタル化の遅れに関する記事を掲載している。

 同メディアによると、真っ先に槍玉に挙げられているのが2017年に発表された「オンラインアクセス法(OZG)」に対する不満だ。ドイツ政府の当初の発表では、5年以内に行政サービスの大部分(例えば、身分証明書、運転免許証、車体登録、教会脱会証明書など)を電子化するというふれこみであった。

 しかし、当初予定されていた575件の行政サービスのデジタル化のうち実現されたのは、2022年末時点でわずか114件である。また、記事では、デジタル化の進捗度合いが地域によって大きな差が見られる点が指摘されている。

 例えば、ドイツ政府が外部の研究機関であるライプニッツ欧州経済研究センター(ZEW)やドイツ経済研究所(IW)などに依頼して調査した「ドイツ経済のデジタル化指標2022(Digitalisierungsindex 2022)」によると、2021年に比べて2022年のデジタル化指標の向上は微々たるものだ。地域的には南ドイツ(バーデン・ヴュルテンベルク州とバイエルン州)が最も進んでいることが報告されている。この傾向は従来からまったく変わっていない。

 この報告で目立ったのは企業内の変化ではなく、企業外、つまり社会全体のデジタル化が進んだことだ。一般市民のデジタルスキルは2021年よりかなり(113.6から122.5へ)向上している。もっとも、欧州全体から見ればドイツのデジタル化は相変わらず中位(2022年では13位)止まり。トップはフィンランド、デンマークなどの北欧諸国だ。

 なお、com!の記事は以下の6つの章で構成されている。上記は1つ目の章からの引用である。

(1)ドイツはデジタル競争のキャッチアップに失敗
(2)ドイツ人のメンタリティはリスク回避的
(3)連邦政府の方針とは
(4)ドイツは数十年にわたりデジタル化を軽視してきた
(5)ドイツのラストチャンス
(6)結論と将来展望

 他の章で言及されている内容は、これまで本連載でも幾度か紹介したので、そちらを参考にしていただきたい(関連記事社会のデジタル化に取り残されたドイツ、移住者らが訴える惨状:第1回ドイツ企業の技術革新はゆっくりと進む─Bitkomのデジタル化調査より:第6回ドイツのデジタル化ランキングで上位につけた先進企業の顔ぶれ:第38回

ドイツ国民の生の声から見えるもの

 ここからは、欧州デジタル競争力センターが調査した「デジタルレポート2023(Digitalreport 2023)」からドイツ国民の生の声を紹介したい。11の質問への回答結果がまとめられているが、ドイツ政府のやりかたにかなり失望している様子がうかがえる。ここでは6つを抜粋し、回答から見えてくるものを解説する。なお、同レポートの原文(ドイツ語)はWebサイトからダウンロードできる。

質問1:デジタル化を急速に推進することが、ドイツの将来にどの程度の役割を果たすと考えるか?

 全体の8割が、デジタル化はドイツの将来に重要な役割を果たすと考えていて、重要ではないとの否定的意見は、わずか1割に過ぎなかった。

 調査では、国民の認識と共に、階級差による認識の差も結果に表れている。質問1で、デジタル化の進展がドイツの将来に「非常に大きな影響を与える」と回答したのは全体で31%。だが、階層別で見ると上位の階層では47%がそう答えているのに対し、下位の階層はわずか15%しか答えていない。

 一般的に、欧米社会はフランス革命の理念「自由、平等、博愛」を民主主義や人権擁護という具体的手段で実現していると考えられている。しかし、実際に欧米に暮らした経験からすると、現在でもなお根強く階層社会的な要素が感じ取られる。

 例えば、ドイツには日本のスポーツ紙に相当するBildzeitungという新聞がある。英国のタブロイド紙のような大衆紙で、このような新聞を読むのは社会的に下位層とみなされ、少なくとも高等教育を受けた人は読まないものとされている。このような階級差意識はドイツだけでなく、欧米諸国では現在でもなお根強い。こうした、階級差に拠る回答の差は下記の質問9、質問11でも見られる(後述)。

 質問1への回答結果から、経営層や政治家がここ1年間の間にドイツのデジタル化の遅れに対し、ますます悲観的になっていることが分かる。2021年時点では、経営者層や政治家の51%は、「ドイツはデジタル先進国になれる可能性がある」と考えていた。「そのような可能性はまったくない」との悲観的な見方はわずか5%に過ぎなかった。

 ところが、1年経ってみると、「可能性がある」は28%に下落し、「可能性がまったくない」は16%に増加した。また、「可能性はあるもののかなり低い」は51%なので、結局、経営層や政治家の7割近くは、自国のデジタル化に暗い見通しを持っていることになる。

●Next:デジタル化推進の現状に対する国民意識、デジタル化への期待

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