[技術解説]

エンタープライズ2.0が解決する経営課題(1)

エンタープライズ2.0 入門

2007年7月30日(月)IT Leaders編集部

エンタープライズ2.0は企業にとって具体的にどのような価値があるのだろうか。企業が利益を生み出すためのマシーンである限り、企業経営になんらかのプラスになる価値がなければどんなに面白くても意味は無い。本章ではエンタープライズ2.0が、企業の経営課題をどのように解決するのかについて、集合知とマッシュアップという2つの切り口から見て行きたい

3-1 エンタープライズ2.0は経営課題解決の手段

エンタープライズ2.0のよくある失敗

まず、よくある失敗例を1つ紹介しておこう。

大手メーカーA社は営業部門、製品開発部門、製造部門、スタッフ部門の4つの部門からなる2,000人の会社である。会社の成長に伴い商品数は急激に拡大しているが、社員数の増加は抑えられており、現場の繁忙感は募るばかりだった。こうした中、部門間のコミュニケーションがぎくしゃくし始め、業務処理ミスや品質低下・トラブルが多発するようになり、漠然と組織の壁の高さや風通しの悪さが問題視されるようになった。

あるとき、情報システム部の若手社員が「うちの社内にもmixiみたいなのがあればもっと風通しが良くなるのにね」と言い出したらもともとmixiユーザーだった情報システム部長が「面白そうだな、是非やってみろ」と話に乗ってきた。こうして情報システム部内に、社内SNSシステムを立ち上げるプロジェクトがスタートした。都合の良いことに、ちょうど付き合いのあるITベンダーから「企業内SNSシステム」の提案があった。情報システム部は、「渡りに船」でこの話に乗り「A社社内SNSシステム」を開発し3か月にシステムをリリースした。こうして「A社内SNSシステム」は2,000人全社員に提供された。

ところがふたを開けてみると「A社内SNSシステム」の利用は芳しくなかった。最初はものめずらしさもあり、様子を見に来たり日記を投稿してみたユーザーもいた。しかし1か月か過ぎると、しだいに下火になっていった。継続的に熱心に毎日日記を書くユーザーもいたが、それはごく一部の「オタク」ユーザーに限られていた。こうした「オタク」ユーザー同士の「内輪ネタ」は、一般ユーザーが入りにくい雰囲気を作ってしまい、さらに利用は低迷した。

情報システム部は、利用が進まない理由を何人かのユーザーに聞いてみたところ、いくつか理由が発見された。まず、A社ではもともとグループウェアを利用しており業務上の情報共有はグループウェア上の掲示板で行われていた。そのため「すでにグループウェアの掲示板を使っているのに、それ以外にSNSを使うのは面倒くさい」という声が挙げられた。また、社内にログが残ってしまう「A社内SNSシステム」ではなく本物のMixiの上でA社のコミュニティを作ってやり取りをしている、ユーザーもいるということも明らかになった。

3か月経つとほとんど利用はなくなってしまったため利用低迷にあせった情報システム部は、社長に対し「社長も日記を書いてください。そして全社員日記を書けと命令してください。」と依頼を行い、トップダウンの活性化策を実施した。活性化策はカンフル剤のように一時的な利用促進にはなったが、時間が経つとまた利用は停滞した。

そうこうするうちに情報システム部内でも次の戦略プロジェクトが始まり、「A社内SNSシステム」の優先度は下がっていき、1年後に「A社内SNSシステム」の廃止が決定した。SNSを担当していた情報システム部のスタッフは、システム停止の処理をしながらこう思った。 「結局、社内SNSってなんだったのだろう?」

経営課題解決の手段としてのエンタープライズ2.0

 A社の話を他人事だと思えなかった人もいるかもしれない。現在、似たようなプロジェクトに何らかの形で関わっている方も多いだろう。A社はなぜ失敗したのか。それは、目的がなかったからである。

ブログやSNSを導入した企業に対して「本プロジェクトの目的は何ですか?」と聞くと「情報共有をするためだ」と答える企業が多い。この回答は一見至極、もっともに見えるのだが、よく考えてみると論理的にループしている。「ブログの目的はブログを導入することだ」と言っているに過ぎない。ブログやSNSに代表されるエンタープライズ2.0の活用は、あくまで経営課題解決のための手段である。企業にブログ・SNSを導入したり、マッシュアップの仕組みを導入しただけでは、コストは1銭も下がらないし、ROIもマイナスである。具体的な経営課題をゴールとし、それを如何にしてエンタープライズ2.0で解決できるかを考える必要がある。

このことはよく忘れられがちであるが、極めて大切なポイントである。企業が利益を生み出すためのマシーンである限り、利益に貢献しないエンタープライズ2.0など無用の長物である。エンタープライズ2.0でどのような経営課題を解決するかが大事なのである。例えば、「ダイエット」の例で考えてみよう。「ダイエット」はあくまで手段であり、「ダイエットをするためにダイエットをする」というのはおかしい(そういったストイックな人もいるかもしれないが)。「体重を減らす」というゴールがあり、それを解決する手段として「ダイエット」があるわけである。この因果関係を明確にすることが重要である。

ここで因果関係を考える際に有効な「目的-課題-解決策(Goal-Issue-Solution、GISツリー)」というフレームワークを紹介したい(図3-1)。例えば、ある企業が営業部門にブログの導入を行って実現できるのは「営業現場の成功事例・失敗事例の共有」といったことである。これは、「目的」ではなく、「手段(Solution)」である。この結果として、「他の営業が行った成功事例・失敗事例が活用できておらず、商談成約率にばらつきがある」という「課題(Issue)」を解決することができる。そして、最終的に「売上向上」という「ビジネス目標(Goal)」が達成されるのである。


図3-1 GISツリー

この「①解決策(Solution)」→「②課題(Issue)」→「③ビジネス目標(Goal)」という3段階の因果関係を、常に明確に把握することがエンタープライズ2.0を成功させるために欠かせないのである。A社の例は本来手段であるべき「SNS」が自己目的化し、「なんとなく情報共有が必要」というあいまいなゴールのまま、システム導入やプロジェクトの推進自体が目的となってしまったところに敗因がある。目的のないプロジェクトが成功することはないのである。

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