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Googleから人材流出始まる-背景にクラウドソーシングの本格化

2009年6月1日(月)

米国ITビジネス最新動向 世界中の優秀な頭脳を集めて成長を続けるGoogleに、異変が起きている。これまで同社を支えてきた大物技術者たちが、次々にスピンオフ。こぞって新規ビジネスの立ち上げに乗り出した。これが、安定より冒険を好むシリコンバレーならではのベンチャー気質である。一般消費者の知恵を集めてビジネスに生かすクラウドソーシングの本格化との関連性も無視できない。

2008年3月、米Googleの要職にあった2人が米Facebookに転職した。シェリル・サンドバーグ氏とイーサン・ベアード氏である。

サンドバーグ氏は、Googleのオンラインセールス担当副社長として、検索結果ページに広告を自動表示するAdWordsを成功させた人物である。同氏は現在、FacebookのCOO(最高執行責任者)を務めている。一方のベアード氏は、Googleでビジネス開発担当ディレクターという立場にあった。そのベアード氏はFacebookに移ってから、プラットフォーム・マーケティング担当ディレクターとして活躍している。

2人だけではない。2008年にはこのほか、技術者38人がGoogleを飛び出して起業した。どの技術者も、Google MapsやGmail、Google Groups、YouTubeの開発に携わってきた優秀な人材である。表1にその起業例を示す。これらの企業はいずれも投資家から高い評価を受け、シリーズAラウンド(1回めの投資受け入れ)で500万ドルを獲得している。

ただし、検索エンジンを開発・提供するCuilに限ってはシリーズAラウンドでの調達額は800万ドルに上った。同社はさらに、シリーズBラウンド(2回めの投資受け入れ)で2500万ドルを調達。合計3300万ドルを獲得した。Googleの10倍の索引作成スピードを誇る同社の検索エンジンに対する投資家からの期待のほどが伺われる。

表1 米Googleをスピンオフした技術者によるベンチャービジネスの例
社名 URL 業務内容
Cloudera www.cloudera.com Hadoop(オープンソースの大規模分散ファイルシステム)のディストリビューション・サービス
Cuil www.cuil.com 検索エンジンの開発、提供
Friendfeed www.friendfeed.com 各種SNSのアグリゲーション(集約)
Howcast Media www.howcast.com オンラインビデオ制作のための情報サービス
Ooyala www.ooyala.com オンラインビデオの視聴者の行動分析サービスをSaaSとして提供

大手IT企業がSNSに食指

2003年以来、多数のSNS(ソーシャルネットワーキング・サービス)が生まれた。その先駆けである米MySpaceは大学生の間で急速に普及した後、高校生へとユーザー層を拡大した。これを追うように2004年に生まれたFacebookは、豊富な機能や厳格なプライバシー保護でユーザーに訴求。後発でありながら、2008年12月には訪問者数でMySpaceを逆転した。2009年3月、Facebookの登録ユーザー数は約2億人を突破。1カ月に9100万人以上が利用するサイトに成長した(図1)。

図1 2008年12月、Facebookへの訪問者数はMySpaceへの訪問者数を上回った

2007年、米MicrosoftはFacebookの株式のうち1.6%を2億4000万ドルで取得した。つまり、その時点でFacebookの時価総額は150億ドルに相当したということである。誰がFacebookを買収するかが取りざたされたことも何度かある。しかし、前述したように同社はGoogleから優れた人材を多く受け入れており、事業を簡単に売却するとは考えにくい。一説によると、同社が株式公開する日は近いという。

Facebookとともに大きく注目されているベンチャー企業が、Twitterである。Twitterはショートメッセージ(1回に140文字以内)を交換するためのSNSだ。ユーザーは、同社のサイト内で知人や著名人などを検索してその人の「フォロワー」になると、その人物が書き込んだメッセージを読み、それに返答することができる。Webページ上でリアルタイムでメッセージを交換でき、メールよりはるかに簡便であることから、人気が急上昇している。Twitterのユーザー数はすでに1000万人を超え、現在も1カ月に33%の割合で増加している。この調子で行くと、2009年内にはユーザー数が1億人を超えると予測されている。

2008年末、TwitterはFacebookが持ちかけた買収案を拒否した。一方、GoogleがTwitterを買収するのではないかという噂もあった。この記事を執筆している2009年5月上旬には、米アップルがTwitterに7億ドルで買収を持ちかけているというニュースが流れている。各社がTwitterを獲得しようと動く大きな理由は、同社の優れたメッセージ検索技術にある。実は、この技術は同社が2008年7月に吸収合併した米Summizeが開発したものである。

将来的には検索結果ページに表示する広告を収入源にしていくものと見られるが、Twitterの収益モデルはまだ不透明だ。しかし、同社が運転資金に窮することはしばらくないだろう。というのも、同社は3回にわたる投資受け入れで、ベンチャーキャピタルから合計5500万ドルを調達済み。しかも一般に、SNSを運営するには巨額の資金は必要ない。クラウドコンピューティングを利用することで、システムへの初期投資を抑えられるからだ。

SNSからクラウドソーシングへ

ここまで読んで「SNSなんて、若者や学生たちのお遊びだ」と決め付けてはいけない。米国の先進企業は、見ず知らずの顧客や見込み客との情報交換を容易にし、新商品やサービスを生み出す格好の場としてSNSを利用している。

菓子製造大手の米Frito-Lay社は2007年、Yahoo!の動画サイトを利用して自社のコマーシャルビデオを一般公募。数千の応募作品の中から厳選した2作品を実際にテレビCMとして放映し、作者2人に賞金1万ドルずつを贈った。

米スターバックスは2008年、セールスフォース・ドットコムのForce.com上に「My Starbucks Idea」と呼ぶSNSサイトを立ち上げた(図2)。一般消費者がスターバックスに関する意見やアイデアを書き込み、それに対してほかの人々が投票する仕組みである。このサイトには1年間で77万件以上のアイデアが寄せられ、得票数が多かった上位8件のアイデアが採用された。

図¥図2 スターバックスは、SNSでアイデアを公募

例えば、3万9570票を集めた「VIP会員制度を作る」というアイデアは、ゴールド会員制度の創設につながった。これは、入会金として25ドルを支払って会員になるとスターバックスの全商品を10%割引で購入できるという制度である。この会員制度は現在、米国でのみ実施中だが、顧客の囲い込みに寄与していることは間違いないだろう。

これらの例のように、一般の衆知をビジネスに利用する手法を「クラウドソーシング(crowdsourcing)」と呼ぶ。人の役に立ったり社会に貢献したりすることに喜びを感じる人間の本性を、うまく利用した手法だ。クラウドコンピューティングのクラウドは「cloud(雲)」だが、こちらは「crowd(群衆)」であることにご注意いただきたい。こうしてクラウドソーシングの企業利用が広がることにより、FacebookやTwitterといったSNSの存在感はますます高まるはず。冒頭で紹介した技術者たちの動きは、そんなトレンドをいち早く反映したものだろう。

山谷 正己
米Just Skill, Inc.社長/名桜大学客員教授
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