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モバイル時代の企業ITは、BPMとルールベース、SOAが鍵を握る

2013年5月7日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

米IBMのWebSphere事業部門が「モバイル最優先」を訴えるカンファレンスを開催した。といっても、単にモバイルデバイスの活用を提唱したわけではない。モバイル時代の企業情報システムのアーキテクチャや、システムの構成要素をあの手この手で伝えようと意図していた点で意義深い内容だった。

2日目の基調講演、SOAとBPM/ODMに焦点を当てる

初日の基調講演が、モバイル最優先の戦略の下で5つの原則を基本にシステムの刷新を訴えたものだとすれば、2日目の基調講演はモバイル時代の情報システム・アーキテクチャや、ビジネスプロセスの革新の必然性、そのための手段を伝えようとしたものだった。

トップを切って登壇したのは、音楽などの著作権の管理とライセンス、著作者への印税の支払いを中核業務とするBMI(ブロードキャストミュージック)のジム・キング上級副社長。著作権者は作曲家、歌手、パフォーマなど様々で、利用者もレストランやバー、劇場など多岐にわたる。ネットによるストリーム配信やソーシャルメディアでの利用も増えている。

加えてどんな曲がどんなチャネルでヒットしているかを分析し、著作者に知らせる必要もある。「契約内容も個々に違うので、業務は極めて複雑」という。当然、何もしなければシステムも複雑になってしまう。これに対処するため、BMIはビジネスプロセスとルールの明確化、データの一元化と深い分析、SOAによるシステム再利用、一貫した使い勝手、という4項目の設計規則を規定(写真8)。印税の計算や徴収、支払いをIBMのBPM/ODMを利用して可視化し、ある程度まで自動化した。分析ツールのCognosやデータ管理用のPureData Systemも利用しているという。

写真8:BMIが規定した4つの設計規則

この講演を受けて登壇したIBMのロバート・ルブラン氏が強調したのが、アーキテクチャ設計の重要性、特にサービス指向アーキテクチャ(SOA)の意義だった(写真9)。「昨日も話したが、トランザクションからインタラクションへとビジネスは動いている。様々なところから集まるメッセージの複雑さと量がどんどん増え、しかも加速している。フロントとバックエンドをシームレスに連携させるには、シンプルで優れたシステムデザイン欠かせない。この点でサービス指向アーキテクチャが最適だ。再利用可能で可搬性があり、疎結合のシステムにし、APIを公開するにはそれがベストである。(SOAを普及させる)キラーアプリはモバイルかも知れない」。

写真9:フロントエンドとバックエンドの連携にはSOAが欠かせない

その後、SOAに関する事例に言及。「例えば米国テニス協会は、1億人以上がモバイルで観戦する状況に対処しなければならない。映像を流すのに加えて、選手のサーブをもとに勝率を計算することもやっている。そのシステムの基盤にはSOAがあるという。一方、「決済サービスを提供するVISAヨーロッパは、36ある国の違いに対処し、4000の加盟店に対する8000件/秒のトランザクションを処理するために、ODMとSOAを活用している」(ルブラン氏)。

リーダー企業と負け組の差は?

この後、パートナーや顧客に対する表彰を挟んで、SOAとBPMに話が移る。まず格安航空会社ながらカナダ第2位の規模を持つWestJetのビデオを上映。顧客に選ばれるためのテクノロジ活用が戦略の1つであり、例えばモバイルによるノーティフィケション(通知)技術を活用。搭乗ゲートの変更案内などはもちろん、搭乗便に映画や音楽の設備がないことを通知。乗客が自分で持って来るように促すことで、ストレスフリーの旅を提供する。一連の処理はODMのルールエンジンが管理する。

バックエンドのシステムは、SOAによってレイヤー構造にしてレガシーシステムと、フロントのキオスク端末やWeb、モバイルを連携させている。「WestJetの設立は1996年。情報システムの多くは15年以上前に構築したレガシーであり、SOAは有用だった。おかげでフロントシステムは一貫した、直感的かつ簡便な操作を実現している」。採用したIBMの製品はODMのほか、WebSphere、DataPower、MQ、WorkLightなど幅広い。

続いてマリー・ウィック氏が登壇。プロセス革新の意義を語った。「リーダー企業と負け組の企業の差は何か。銀行を例に挙げると、口座開設に要する時間が5分と76分など大きな差がある。顧客が主役になり、セルフサービスで口座を開設できる今、その差は致命的だ。事業部門とIT部門が協力して、顧客とのコネクトのあり方、それを支えるプロセスを変革する必要がある」(写真10)。

写真10:ビジネスプロセス革新が求められている

その例として、3000台のタブレットとBPMを導入し、患者のケアを変えた病院の取り組みや、5分で口座開設を可能にした銀行の取り組みに触れ、会場に対し「プロセス変革には何が必要かを考えてほしい」と問いかけた。「WorkLightをBPMに統合し、ODMからも使えるようにした。これを生かすにはバックエンドのシステムがサービス指向である必要がある。モバイルもクラウドも,ソーシャルも、そしてビッグデータも、統合されたSOA基盤上に構築される」。

さらにウィック氏は、車を運転中に事故を起こしたケースを想定。モバイルによる顧客中心のプロセスの具体例を示した(写真11)。スマートフォンには保険のアプリが入っており、それで事故現場の写真を撮ったり、証人がいればその証言を入力。保険会社に牽引用のトラックとレンタカーの手配を依頼する。しかし『レンタカーの手配に20分かかる』と言われた。待てないのでタクシーで移動するが、その間にも事故処理の状況や、保険の処理ステータスを把握できる。アプリが保険会社のバックエンドシステムと連携して、自分の情報や事故処理、保険請求プロセスを教えてくれるのだ。このように知りたいことが適切なタイミングで得られることが重要だ」。

写真11-1:自動車事故が発生してしまったら…
写真11-2:モバイルアプリでプロセスを管理

 

デジタルフロントオフィスからグローバルに統合された事業へ

ウィック氏の話を受ける形で、オーストラリア第3位の健康保険会社、HCF(Hospitals Contribution Fund of Australia)の社長が登壇。保険の処理プロセスを刷新することで、従来は3週間要した処理が1日に、歯科の請求では治療時に支払い処理が完了するまでになった。市場シェアも以前の9%から12.5%に高まったという(写真12)。ツールにはIBMのBPM/ODMのほか、DWHのNetezza、分析ツール(Predictive Analytics)を組み合わせている。個人情報の保護や不正請求の検出・排除をする必要があるためだ。

写真12:保険の処理プロセスを刷新して、市場シェアを高めた

基調講演の最後を務めたのは、IBMのスマータープラネット担当の副社長Adam Klaber氏。マラリアや結核の撲滅に向け資金提供するThe Global Fundという非営利組織における助成金管理システムなどいくつかの事例を紹介。さらに「モバイルによるWebへのアクセスは、従来型のネットのアクセスに比べ8倍速く進んでいる」などの数字を示し、その上で企業や組織の現在の取り組みを「デジタルフロントオフィス」、「グローバルに統合された事業」という2つのカテゴリに分類した。

デジタルフロントオフィスは、最も適切なメッセージを適切な時間、適切なチャネル、そして適切な場所に届けるようにすること。WesJetや文具販売大手のステープルズの取り組みがこのカテゴリになる。もう一つの「グローバルに統合された事業」は、フロント業務から記録業務までを一気通貫で完全に統合することを意味する。保険会社や銀行、製造業が目指すカテゴリだ。そして「どちらのカテゴリでも初日に述べた5つの原則が大事であり、今後、この2つのカテゴリはプロセスをスマートにする中で統合されていく」と、締めくくった。

最後にImpact2013で発表された主要な製品を表1に示す。多くはバージョンアップだが、100万件/秒のメッセージをニア・リアルタイムで処理・管理するアプライアンス「MessageSight」など、モバイル(IOT)時代に向けた新製品もリリースされた。
 いかがだっただろうか。関連する製品を開発・販売するIBMのWebSphere事業部門が主催だけに、我田引水的な面は否めない。しかしモバイルファーストというトレンドがある以上、企業が自社の情報システムをモバイル対応させる必要があることは間違いないだろう。IBMの製品体系の分かりにくさや、事例発表が表層的過ぎるなど多少の不満はあるものの、多くの点で示唆に富む内容だった。

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