[木内里美の是正勧告]

ICTのパワーをソーシャルビジネスに生かす

2017年7月24日(月)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

行政でも民間企業でも解決できない問題は、市民セクターの活動によって解決していかねばならない。事業ベースで取り組むソーシャルビジネスはその典型例だが、公共性や社会性と事業性を両立させなければならないという点でハードルは決して低くはない。そこで期待されるのがICTが秘めた潜在的パワーである。

 社会的な課題は歴史が動く限り尽きることはない。政府や行政のセクターでも市場の企業セクターでも、解決できない複雑な課題はたくさんある。例えば、経済的な理由などでまともに食事の摂れない子供を支援するために地域で展開しているボランタリーな活動であるこども食堂や、ホームレスや貧困老人の実態だ、予想以上に進んでいる日本社会における貧困層の増加は、行政も市場経済でも救えないから起きている現実がある。そしてその貧困度合いは改善どころか、年々悪化に向かっている。

 20年後くらいから顕著になる人口構成の大きな変化に伴う日本の社会的課題はより複雑になっていくことだろう。貧困層や高齢者問題ばかりでなく、若者の就労や起業支援やチャレンジドのサポート、子育て支援など、課題の複雑化と困難さの予測は難しくない。

 行政でも民間企業でも解決できない問題は、こども食堂のように市民セクターの活動によって解決していかねばならない。ボランティア活動やNPOがそれらの課題解決を目指しているが、活動を継続的に拡大していくには一定の収益が必要である。会費や寄付頼みでは限界があるのだ。

 経営手法を用いた事業ベースで収益を得ることによって、これらの社会問題に取り組むのが“ソーシャルビジネス”と言われる市民セクターの活動である。ホームレスの生活支援ために雑誌の編集と販売をしている英国のビッグイシューは、ソーシャルビジネスの成功例の一つである。その起源は明確ではないが今世紀に入ってから動きが活発になり、英国や米国では政策的に支援する制度化も進んでいる。しかし日本はまだこれからという段階だ。

公共性と事業化の難しさ

 ソーシャルビジネスの難しさは公共性や社会性と事業性を両立させなければならないところにある。事業性だけで解決されるなら企業がビジネスとして解決しているはずだ。儲けることに主眼があるわけではなく、社会課題解決のための活動継続と成長のために利益を得る必要があるのだ。

 筆者はビジネスの傍ら、教育・食育・健育(筆者の造語で病気にさせない体づくりを意味している。ヘルスケアの概念でもある)をテーマに、いくつかの社会活動をしている。既存の枠組みでは実現が難しい子供たちの人間基礎力教育や化学肥料と農薬に依存しない安全な食を支える農産物流通など、取り組んでみたい課題があるからだ。見方を変えれば、社会活動をするためにビジネスをしているとも言える。

 いくつかのボランタリー活動を通じて、その限界を痛切に感じてきた。事業型のNPOもやってきたが、結局は活動資金を企業に頼らざるを得ないし、ボランタリー活動も無理な要求は出来ない。NPOでできる事業も高が知れていて、付加的な事業レベルからの脱却も難しい。公共性や社会性を主体にしつつ、事業によって利益を得ながら活動を続けられるソーシャルビジネスに関心を持ったのには、そんな背景がある。

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