[経営者をその気にさせる―デジタル時代の基幹システム活用戦略]

PDCAサイクルとOODAループ【第6回】

2018年1月26日(金)青柳 行浩(NTTデータ グローバルソリューションズ ビジネスイノベーション推進部 ビジネストランスフォーメーション室 室長)

グローバル化により企業活動の範囲が広がっただけではなく、競合相手が拡大(発展途上国企業の台頭や異種産業企業の参入など)し、よりきめの細かい企業活動(高頻度化/高速化)が求められるようになった。このきめの細かい企業活動を乗り越えために、低価格化が進み利用可能となってきたデジタル技術により、現場活動のデジタル化を進展させようとしている。しかし、現場活動のみをデジタル化してもこれからの企業活動に適応させることはできない。従来型のPDCAサイクルによる企業活動ではこれからの企業環境に対して先行するどころか追従することさえできなくなる。

 「2025年問題」は、従来型のPDCAサイクルを支えてきたERPによる基幹システムが成熟期を迎えている象徴であり、これからの企業環境を勝ち残るためにはデジタル化を含めた新しい基幹システムにより高頻度で高速化した企業活動の構築しなければならない。

 西暦が2000年になることによりコンピュータシステム上の不具合が生じることから、日本を含めたコンピュータシステムを活用している先進国ではこの対策で大騒ぎとなり、この問題は「2000年問題」と呼ばれた。それ以降、コンピュータシステム上の問題に限らず、暦上のある年や日付が到来すると、社会や日常生活に深刻な影響が起きる社会問題は「年問題」と呼ばれるようになった。

 ちなみにコンピュータシステム上の有名な「年問題」としては2036年問題(コンピュータの時刻を同期するためのプロトコルであるNTPが、西暦2036年に時間計測機能のオーバーフローを起こしてしまうことによって、NTPを利用しているコンピュータの時計機能が狂う)や2038年問題(1970年1月1日0時(Unix epoch)からの秒数が31ビットからあふれ、32ビット符号付きで処理しているシステムに問題が起こる)があげられる。

次にくる「2025年問題」への対応策

 本連載でも第2回にとりあげた2025年末のECC6.0 の保守切れは現行のSAPユーザーのほとんどがECC6.0というバージョンを利用していることから、企業への影響範囲は広く、一種の社会問題となることから、「2025年問題」といえるだろう。ECC6.0への移行においても同じような保守切れが発生しており、この移行を経験した現行SAPユーザーも少なくない。しかし、その後も更にSAPユーザーは拡大しており、そのほとんどがECC6.0というバージョンを利用していることやS/4 HANAがDBを含めた全面的な刷新となっていることから、より影響が大きいことが想定される。

 第2回で「2025年問題」の対応策として、①マイグレーション、 ②マイグレーション+アップデート、③リコンストラクション(新規導入だけではなく他のパッケージへの置換を含む)、④継続利用の4つのオプションを上げた。「2025年問題」に対応していくためにはそれぞれのオプション対応に必要な期間を考慮した上でどのオプション対応を行うかを選定しなければならない。特に①~③のシステム変更を伴うオプションでは、事業(製品やサービス)の種類、会社数、範囲(国内/海外)利用者数、機能範囲(会計/ロジスティックス)、システム構成(オンプレミス/クラウド)などの様々な要因を考慮したうえで対応に必要な期間を想定する必要がある。

 また、今回の保守切れにおいても、ECC6.0への移行の際に発生したような保守切れ直前の駆込需要が見込まれ、自社の期待通りのスケジュールでの移行ができないリスクがある。いずれのオプションを選定するかが決定していない時点では、オプションのうち最も期間がかかるリコンストラクションが最大の制約条件になる。

 例えばリコンストラクション(システム化計画から本稼働まで)の期間を4年と置くと、このリスクを回避するために2023年に移行後の本稼働しようとすると2018年中にどのオプションを選定するかを決めなければならない。仮に①マイグレーションを選定したとしても、国内拠点や海外拠点が複数ある場合には移行に3年かかる可能性もあり、2018年中にオプションを選定し、2019年から推進しなければ間に合わない。

(図1)2023年を本稼働としたスケジュール
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 実際のS/4 HANAのマイグレーションにかかるスケジュールは、アドオンやパラメータ修正及びテストの期間については事前検証結果に基づいて算出されるために変わってくるが、次のようになる。

(図2)ECC6.0へのアップグレードスケジュール(例)
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 図1のオプション①~③で一番異なってくるのは開発の期間だろう。テストの期間に関しても、①マイグレーションを選んだ場合でも業務に必要なケースを一通り確認するとしても、ある程度は簡便化することが可能であるが、今回は大幅なマイグレーションであるために③と同様のテストを実施することも想定され、この期間はオプション①~③で変わらない。現実にS/4 HANAへの移行を行っているプロジェクトでは、再構築で対応している場合が多い。かつてのECC6.0へのアップグレードとは異なり、今回のS/4 HANAへの移行では①、②ではなく、③を選択、企業におけるデジタル化のための基幹システムの再構築を目指さなくてはならない。

 デジタル化のための基幹システムとはどのような基幹システムを構築すべきだろうか?企業におけるデジタル化を「可視化の範囲を飛躍的に拡張し、高精度・高頻度で情報を取得すること、高精度・高頻度で得られた情報を分析し、それに基づいた将来を先読み(予測)し、適正な打ち手を講ずることができるようにすること」と定義し、一方でデジタル化のキーワードとして「IoT」、「ビッグデータ」、「AI」、「FINTECH」、「ロボット&RPA」そして「クラウド」をあげた。

(図3)デジタル化のための基幹システム(イメージ)
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 「ロボット&RPA」に関しては従来型のIT化、つまり自動化の流れであり、「FINTECH」に関しては主に仮想通貨などの企業間取引のデジタル化の流れとなるために、情報を取得するという観点からは上記定義の一部に含まれる。「IoT」、「AI」及び「クラウド」が今後のデジタル化のための基幹システムを支えるデジタル技術になる。「クラウド」はこの基幹システムのバックグラウンドとして位置づけられる。

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