[知っておいて損はない気になるキーワード解説]

何故か今熱い!進化した「ビーコン」の実力

2018年3月1日(木)清水 響子

マイクロサービス、RPA、デジタルツイン、AMP..。数え切れないほどの新しい思想やアーキテクチャー、技術等々に関するIT用語が、生まれては消え、またときに息を吹き返しています。メディア露出が増えれば何となくわかっているような気になって、でも実はモヤッとしていて、美味しそうな圏外なようなキーワードたちの数々を、「それってウチに影響あるんだっけ?」という視点で、分解していきたいと思います。

【用語】ビーコン

 ビーコンは狼煙(のろし)の意味で幅広く使われてきた用語で、無線で信号を発する標識を指します。古くは電波で登山者の位置を特定する雪崩ビーコンが知られていますが、LINEを使っている方なら、最近LINE Beaconの通知を目にされたのではないでしょうか。

 いまビーコンがあらためて熱い理由は、Bluetooth Low Energy(BLE)を活用した省電力通信により、数センチ~数10センチ単位のピンポイントで端末の位置情報を特定できる点。専用ビーコン端末は遭難者救助や高齢者等の見守りサービスに活用されてきましたが、2013年にiOSがiBeaconを、2015年にAndroidがEddystoneを投入してスマートフォンがビーコン端末として機能するようになり、市中のビーコンが一気に急増。双方向コミュニケーションも可能になり、じわじわと導入が加速しています。

 東京電力と府中市、ottaによる「tepcotta」では子どもや高齢者が持つホイッスル型ビーコンで位置情報を把握した見守りサービスを展開したり、東京メトロ、LINE、大日本印刷による「&HAND」プロジェクトでは座席の必要な乗客のスマートフォンが発するビーコン信号を同一車内サポーターのスマートフォンに発信して譲り合いを推進したりと、比較的小さなエリア内でのピンポイントなコミュニケーションを円滑にします。

(図1)ビーコンの仕組み:ユーザーが持つビーコン端末やスマートフォンの発する信号を受信機がキャッチ。建物内でも数10cm程度のピンポイントでユーザーの位置を正確に把握できる。
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【イノベーション】シェアリングエコノミーや仮想化にも

 現在主流のBLEビーコンは、受信機を細かく配置してビーコン端末が発する信号を受信することにより、ユーザーやモノの位置を正確に把握するのが基本的な仕組みです。ビーコン端末が発する信号の強度に基づき、ビーコンと受信機間の距離を計測します。ビーコン端末がスマートフォンの場合は、位置に応じた情報発信やユーザーの移動速度や向きといったデータも取得可能で、屋内の道案内などに使われます。

 ビーコンが起動していれば(スマートフォンのBluetoothがオンになっていれば)、物理的にそこに存在する人やモノへ無作為に情報発信することも可能です。またiBeaconやEddystoneはユーザーIDの取得機能があり、会員の属性や行動といま現在の位置情報に基づいた情報提供が可能。マーケッターの悲願だった、物理的に側にいるターゲットに対する近接マーケティング(Proximity Marketing)を実現します。

(図2)BLEビーコンの仕組み:ユーザーが持つビーコン端末やスマートフォンのBluetooth信号を受信機がキャッチし、信号の強度によりユーザーの位置を正確にユーザーの位置を把握する。受信機同士が干渉し合わないため高精度の計測が可能。
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屋内や地下で活躍

 位置情報の取得にはGPSやWifiが普及していますが、ビーコンは通信の小口化によってGPSの屋内や地下における弱さと消費電力、Wifiの測位精度といった難点をカバーします。また、新規アクセスポイント設置に伴うWifiの導入コストや、プロバイダーが限られる超音波の運用コストに比べると安価といえます。

(図3)GPS、Wifi、超音波との違い
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 受信機のカバー範囲は最大約数10メートル程度に限られるため、用途によっては大量の端末を配置します。例えば今年4月開業のGINZA SIX(商業施設は地下2階~6階と13階の一部)の場合、館内に180個の受信機が配置されています。Wifiと違って受信機同士が干渉し合わないため、地下空間でも店舗内の特定の場所などピンポイントでの位置を特定します。

 tepcottaなどの場合、アプリをインストールしたスマートフォンをビーコン受信機としても機能させており、専用受信機がない場所でビーコンの電波をキャッチする仕組みも構築できます。

受信機は数100円~数1,000円、シェアサービスも

 ビーコンのメリットは、ハード導入の手軽さです。アプリックスが提供する受信機「MyBeacon® Pro 汎用型/近接域特化型」の場合、50×70×27.5mmの手のひらサイズ。単3乾電池2本で動作し、省電力です。ほかにも厚さ1.5mm程度、電池式で約6か月間稼働するタグキャストのテーブル設置型PaperBeaconやスタイリッシュなシリコン製のEstimoteなど、内外で様々な受信端末が販売されており、Amazon等で購入できる製品もあります。価格は1台数100円~数1,000円程度が主流で、中小規模でも導入しやすいといえるでしょう。

 他方、ビーコンの世界にシェアリングエコノミーを持ち込んだのはunneryのBeacon Bank。2017年12月現在10万個近いビーコン受信機Public Beaconが登録されており、基本サービスは無料で利用可能です。

仮想ビーコンも登場

 装置の省力化や多様化は進むものの、電池切れや盗難対策といったビーコン受信機というモノの管理は少し厄介ですが、これを解決するソリューションも登場しています。シスコシステムズが投入したCisco Beacon Pointは、物理ビーコン受信機と同程度のサイズでビーム状のBLE電波を生成し、1台で8つまでの仮想受信機を設置します。クラウド上の管理システムから数や配置を操作でき、管理コストが下がりそうです。また、米スタートアップMist Systemsは、仮想ビーコン機能を備えた大規模無線LANシステムIntelligent Wireless Cloudを提供しており、やはり1台で8つまでの仮想ビーコンを生成できます。

(図4)仮想ビーコンによる構成イメージ(右) :ビーム状のBLE電波を生成して仮想ビーコン受信機を配置。Cisco Beacon PointやIntelligent Wireless Cloudは1台の物理端末で8つの仮想ビーコンを生成し、数や配置は管理システムから制御できる。
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【歴史】BLEでブレーク

 最初のビーコンは、1940年にスイスのエンジニアが考案した雪崩ビーコンに遡るといわれ、電波による位置情報の取得自体は新しい発想ではありません。道路交通情報システム(VICS)では道路に配置されたビーコンを通じてドライバー向けの情報提供を行っており、航空機や船舶でも同様の位置情報に基づく誘導や有事の対策システムが構築されています。

BLE登場で進む実用化

 ビーコンの導入が飛躍的に進むようになった技術的背景は、近距離無線通信規格・Bluetoothです。1999年7月のリリースから初期のBluetoothは、最大通信速度24Mbpsと大容量データ転送を想定。消費電力が大きかったため、多数の受信機を配置するような用途には不向きでした。これに対し、IoTを視野にした2009年12月のメジャーバージョンアップ版Bluetooth 4.0は、通信速度を1Mbpsと抑える代わりに接続・切断の頻度を増やす小口トランザクションに思想を転換。大幅な省電力仕様Bluetooth Low Battery(BLE)に対応し、ボタン電池ひとつで数年間動作することが可能になりました。

スマートフォンOS対応で加速

 見守りや登山、輸送機運行といった特定の目的がなければ、新たに端末を持ち歩くのはうっとうしいもの。ビーコン普及の壁だったユーザー端末の問題は、2013年6月リリースのiOS 7で搭載された通信プロトコル、iBeaconによりブレークスルーを迎えます。専用端末や専用アプリがなくてもiPhoneやiPadがビーコンとして機能するようになり、Macy’sがさっそく同年11月に顧客向けサービスに取り入れ、PayPalはPOS端末上の双方向ビーコンを使ったスマホ決済を開始します。日本でも2014年12月にビーコン技術を使ったナビゲーションアプリ「東京駅構内ナビ」が登場しました。

 対するAndroidのビーコンプロトコルEddystoneの参入は、iBeaconに遅れること2年の2015年7月。オープンソースかつAndroid及びiOSのクロスプラットフォーム対応に加え、独自機能として受信端末のChromeブラウザに直接URLを送信するEddystone-URL、端末のバッテリー電圧、温度、広告回数や起動時間を取得できるEddystone-TLMを搭載しています。

 2強以外には2014年にAltBeacon、2017年にGeoBeaconのプロトコルがともにオープンソースで登場しており、いずれもOSに依存せず利用できます。

 また、2015年1月にはFacebookがPlace Tipsを投入。店舗内で投稿されたFacebookユーザーによる投稿や写真をオーナーやその場にいるユーザーが閲覧できるもので、Facebookは米国の小売店舗にビーコン端末を無償配布しました。SNSと近接マーケティングは親和性が高く、TwitterやLINEも同時期からビーコンを活用したサービスを展開しています。

 さらにここへきてビーコン普及が期待されるイベントは、2016年以降iPhoneからイヤホンジャックが消えたこと。必然的にBluetoothをオン状態に保つユーザーが増え、特にiPhone支持者の多い日本市場では、ビーコン活躍の場が拡大すると見込まれています。

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