[イベントレポート]

サービタイゼーションに向けて進化したERPの最新版「IFS Applications10」が登場

IFS World Conference 2018(2)

2018年5月10日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)

製造業や設備産業向けのERPソリューションを提供するスウェーデンIFSは、米国アトランタで開催したカンファレンス「IFS World Conference2018」において、IFS Applications10を発表した。2015年5月に発表した現行版「IFS Applications9」から3年ぶり。何をどう変えたのかを紹介する。IFSのユーザーか否かとは無関係に、ERPが向かう先の一端が見えるはずだ。

 「10」という節目のバージョンだけに気合いの入った機能強化をする可能性がある。一方で10回目ともなると新鮮味のある機能追加は難しいはず--そんな筆者の杞憂を一掃するかのように、スウェーデンIFSは「IFS Applications10(以下Ap10)」に詰め込んだ新機能を、世界各国から集まったユーザーやパートナー企業にアピールした(写真1)。IFS World Conference2018の初日(5月1日)の基調講演でのことである。

写真1:IFS World Conference2018の基調講演の開演前の様子

 新機能は①新しいユーザーインタフェースの提供、②サービスマネジメント関連機能の強化、③「DDMRP(需要主導型MRP)」と呼ばれる生産計画手法のサポート、の3つが中心。このほかに税処理や複数元帳管理のようなグローバル対応に関わる機能強化など「500以上のアップデート」(同社)を施した。今時の発表だけにAIにも言及したが、あくまでERPの機能を補強する存在という位置づけだった。

消費者向けサービス用UIの優れた点を取り入れる

 上記のうち説明に時間をかけ、デモを実施するなどもっとも力が入っていたのが①のUI。「IFS AURENA(オリーナ)」と名付けた新UIをお披露目した。ただしIFS Applicationsには「Enterprise Explorer(EE)」や「IFS Lobby」といった既存UIがある。しかもEEはAp8から、LobbyはAp9からと、どちらも比較的新しいUIだ。なぜ、このタイミングで新しいUIを用意したのか?

 IFSの説明を要約するとこうなる。EEやLobbyはデータや情報を一覧しやすくする目的で開発されており、操作には多少の習熟が必要になる。一方でECなど消費者向けサービスのUIは特に学ばなくても利用できるよう工夫されている。そして業務効率や生産性を向上させるには、直感的で分かりやすいUIがいい。そうであるなら、消費者向けサービスのUIに倣ってERPのUIを使いやすくするのは、当然であるーー。

 実際、AURENAの開発では消費者向けサービスの画面構成を研究し、例えば画面左側に情報を絞り込むフィルターを表示する、重要な情報は赤色などでハイライト表示する、といった工夫をしている(写真2)。もちろん見た目だけの話ではない。AURENAの実装にあたってはHTML5やoData4(オープンなAPI)、Angular js(JavaScriptフレームワーク)、あるいは宣言型言語といった消費者向けサービスの技術を取り入れた(https://bit.ly/2rop9Ir)。裏側の技術を変えた点で、既存のUIとは別にAURENAを開発したのは必然とも言える。

写真2:「AURENA」の画面例。消費者向けサービスのUIを研究して開発した
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 とはいえAp10のUIをAURENAだけにするのは変化が大きすぎる。そこでIFSは、当面は一般従業員や取引先などライトなユーザー向けのUIとしてAURENAを提供し、その後にコアなユーザー向けを開発する計画だ。つまりAURENAはEEやLobbyの置き換えではなく、併存するという。

 UIに関してはもうひとつ、「AURENA Bot」と呼ぶチャットボットも用意した。音声や自然文を使って操作できるようにするもので、休暇申請のような比較的シンプルな業務での利用を想定している。AURENAからBotにアクセスするほか、SkypeやFacebook MessengerのようなSNS/チャットツールからもアクセスできる。言語認識や回答生成の機能はIFSが開発、音声認識の基盤技術にはマイクロソフトの「Cortana」を利用している。

 音声や自然文でERPのような業務アプリケーションを操作できるようにする試みは珍しいが、IFSが最初ではない。2017年7月にERP大手の米Inforが、「Coleman」というAIプラットフォームを発表済みだ(音声インタフェースにはAmazon Alexaを使用)。AURENA Botのデモを見る限り完成度は高くないが、ERPと言えども直感的で自然な使い勝手が求められる以上、今後はこの方向に向かうだろう。

SAPに次いで「需要主導型MRP」をサポート

 ERPという点で重要な機能強化の1つが、サービスマネジメント関連機能の強化だ。”サービタイゼーション”というキーワードが象徴するように、製造業や装置産業では顧客へのサービス強化およびサービスの収益化が重要になっている。そのためにIFSは専用のソリューションを提供している(https://it.impressbm.co.jp/articles/-/16057)が、IFS Applicationsそのものも機能強化した。

 Ap10では①CRMと連携したサービス契約管理やサービス業務管理の強化、②複数の従業員が関わるサービス業務のサポート、③モバイルによるサービス業務遂行機能の強化、④サービスに関わるリソースの可視化やコスト管理の強化、などを行った(写真3)。こうした点を強調してIFSは「セールスからサービスまでを一貫する、”サービスセントリックERP”だ」という。

写真3:IFS Applications10では「サービスセントリック」に基づき機能を強化した
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 「需要主導型MRP(DDMRP:Demand Driven MRP)」も大きなトピックの1つだ(写真4)。元々のMRP(資材所要量計画)は、製品を構成するBOM(Bill of Material=部品表)をもとにリードタイムやコストが異なる資材(部品)の調達量や時期を計算。仕掛かり在庫を減らしつつ製品の生産に要するリードタイムやコストを最少化する手法である。ERPの源流でもある。

写真4:DDMRPのイメージ。CRMとの連携を強化している
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 しかし現実は理論通りに動かない。製品の納期が変動したり、部品の調達リードタイムが想定と変わったりするため、想定通りにMRPができないことが多く、定着していない。DDMRPは、戦略的な在庫(Strategic Inventory )バッファ、それらの動的な調整、需要主導の計画などの手法に基づき、現実に合わせてMRPを行う(https://www.demanddrivenmrp.com/)。サービスセントリックERPの実現に欠かせない要素でもあるため、IFSはAp10に取り入れた。

 同社のアントニー・ボーン氏(グローバル・インダストリー・ソリューション部門バイスプレジデント)は、「部品展開計算だけに利用するなど、MRPを本格的に利用している企業は非常に少ない。DDMRPを使うことで、その壁を乗り越えられると考えている」と話す。なおDDMRPもIFSが初めてではなく、SAPが2017年8月に「S/4 HANA」でのサポートを表明している。今後、採用するERPが増えるかも知れない。

●Next:「500以上のアップデート」で注目すべきもの

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