[木内里美の是正勧告]

DXブームが「リエンジニアリング革命」の轍を踏む危惧

2018年8月21日(火)木内 里美

少し前まではDXと書けばデラックスを意味した。しかし今やデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)である。文字どおり「デジタルによる変革」の意味であり、ビジネスの世界では欠かせないキーワードになった。ところで、かつてこのDXと本質的に同じと言える潮流が起こったことがある。1990年代初めの「リエンジニアリング革命」だ。

 デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)の概念はスウェーデンのエリック・ストルターマン(Erik Stolterman)教授が2004年に発表した論文『Information Technology and the Good Life』が元だと言われている。論文のタイトルにあるようにストルターマン教授は、DXをテクノロジーとビジネスばかりでなく生活や社会とのかかわりなど包括的な観点で、「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」と位置づけた。

 14年も前に提唱された概念は決して新しいものではない。しかし、ここ数年でDXがキーワードになってきたのには理由があるはずだ。それを筆者は次のように考えている。

 下地としてはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される北米のメガプラットフォーマーの目覚しい台頭があるが、そればかりではない。民泊サービスのAirbnbが米サンフランシスコで創業したのが2008年。そして同じサンフランシスコで配車サービスのUberが創業したのが2009年だった。

 デジタルテクノロジーを駆使したこれらの新事業は爆発的に世界に拡大していき、既存の宿泊業やタクシー業を駆逐しかねないディスラプティブ(Disruptive:破壊的)な変化であると受け止められた。この革命的な流れをDXとしてとらえているのだろう。加えて、近年はCDO(Chief Digital Officer)というDX戦略を担う職務が認知されるようになってきた。概念そのものは新しいものではないが、こうして実現していく活動が新しいのだ。

リエンジニアリング革命はなぜ成功しなかったのか

 筆者がDXの動向を知ったとき、最初に頭に浮かんだのが『リエンジニアリング革命』だった。これは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のマイケル・ハマー(Michael Hammer)教授と経営コンサルタントのジェイムズ・チャンピー(James Champy)氏が1993年に共著した『Reengineering the Corporation』の日本語版タイトルである(写真1)。ここで示されたのは経営革新の概念であった。筆者が改革好きになったきっかけがここにある。

写真1:日本経済新聞社が1993年に刊行した『リエンジニアリング革命』の表紙。原書と同じ副題“A Manifesto for Business Revolution”が記されている

 当時の日本はバブル経済が崩壊して閉塞感に包まれ、脱却すべく改革の思いや活動が求められる中でリエンジニアリング革命が注目された。BPR(Business Process Reengineering)という言葉が今も使われるが、このBPRこそが、リエンジニアリング革命で示されたビジネス再設計の概念であった。

 リエンジニアリング革命が出てきて世の脚光を浴びた背景には、既存のビジネスモデルが顧客のニーズ多様化やプロセスの煩雑化によって非効率あるいは通用しなくなってきたという課題認識があった。求められることはプロセスの修正や改良や改善ではなく、初めからのやり直しである。そのためにはテクノロジーの活用が不可欠であることを示していた。BPRは業務改善ではない。業務プロセスの抜本的な改革だ。経営の基盤や戦略を再構築することだ。結果として人員は削減されスリムになる。

 しかし、リエンジニアリング革命は結局のところ成功しなかったと、トーマス・ダベンポート(Thomas Davenport)氏が1995年の論文にまとめている。多くが雇用削減の道具に使うとか改善にとどまり、抜本的な改革に至らなかったからだ。バブル崩壊後の日本でもリエンジニアリング革命、つまりBPRは成功しなかった。俯瞰する目でリデザインが行えなかったし、テクノロジーの本質的な活用もできなかった。結局、BPRと称しながら雇用調整としてのリストラに使われたのだ。

DXがリエンジニアリング革命のような末路をたどらないように

 リエンジニアリング革命の刊行から20年以上が経過し、DXが取り沙汰されているのが今日である。では、DXとリエンジニアリングはまったく異なるものなのか?――筆者は、この2つの改革概念の本質は同じだと感じている。どちらも時代背景を受けて抜本的な仕組み替えを求めている。不可欠の要素はどちらもテクノロジーの活用である。

 明らかに異なることもある。リエンジニアリングはプロセスに注目するが、DXはより包括的に経営や事業のモデルを考える点だ。そこにはVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)時代という言葉が象徴するように、社会環境の違いがある。顧客はより多様性を求め、それに応えるプロセスはより複雑になっている。

 さらに異なるのがテクノロジーの進化である。だれもがモバイル情報端末であるスマートフォンを持つ時代であり、いつでもどこでも情報にアクセスできる。まさにデジタルで動くデジタル時代になってきた。時代は企業に対し、常に変革を求めてくる。それが企業のサスティナビリティであり、かつてIBMのルイス・ガースナー(Louis Gerstner)氏が言った「変化に対応できるものだけが生き残る」の例えどおりだろう。

 となれば、不熱心や不徹底によって、リエンジニアリング革命のように失敗する可能性もある。かけ声だけに終わって成果を出せない危惧を、企業は払拭しなければならない。

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