[ザ・プロジェクト]

メガバンクの使命で挑む、FinTech時代のカスタマーエンゲージメント─みずほ銀行

SME向けオンラインレンディング──従来の領域を超えた事業創出プロジェクトの戦略・人材・技術

2019年7月25日(木)河原 潤(IT Leaders編集部)

みずほ銀行が2019年5月に提供開始した、中小企業法人顧客向けのオンラインレンディング(融資)サービス「みずほスマートビジネスローン」。メガバンクのノンバンク領域事業への参入ということで大きな注目を集めている。本誌は2つの点に注目した。1つは、法人事業では大手企業顧客中心のメガバンクが「中小企業経営者の悩み」の解消に取り組んだ動機。もう1つは、融資サービスのコアである与信プロセスを、先端技術を駆使してデジタル化した仕組みだ。新サービスの企画からシステム構築まで率いる、同行 リテール法人推進部長の半田邦雄氏にプロジェクトの狙いや経緯を詳しく聞いた。

中小企業の経営環境変化とメガバンクの使命

──まず、半田さんのプロフィールからうかがいます。

 1993年にみずほ銀行に入行後、2004年からSME(中堅・中小企業)法人向けの業務企画セクションを中心に、約80万社の法人のお客さまに対して新たなビジネスの提供やプロモーションを担ってきました。2019年3月までリテール法人業務部で新規企画推進室長を務め、そこで今回のレンディングサービスのプロジェクトを立ち上げました。2019年4月にこれらの業務企画、プロダクト開発機能と対面やコールセンターの業務推進機能を統合したリテール法人推進部を設置し、その部長に就任しました。

 みずほ銀行では古くからBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを活用してきましたが、多くは「このようなデータを出してほしい」とエンジニアに依頼するようなかたちでした。私の場合は、自分でプログラムを組んで、得られたデータや結果からどんな示唆があるのかを考える、データマーケティングのようなこともやっていました。その経験は今の取り組みのバックボーンになっていますね。

写真1:みずほ銀行 リテール法人推進部長 半田邦雄氏

──新しいレンディングサービスは、市場・顧客のどんなニーズにこたえるものなのでしょう。背景のところからお聞かせください。

 みずほ銀行は、第一国立銀行から数えて150年ほどの歴史を持つ銀行です。全国にある約400の支店を通じて、約80万社とのお取引がありますが、融資のお取引など、個々にさまざまなご提案ができているお客さまばかりではありません。

 特に中小企業のお客さま。もちろん今までも、メガバンクの使命として、日本の中小企業のお客さまのさまざまな経営をご支援してきましたが、最近は中小企業のあり方も大きく変わり、事業のスピードもどんどん速くなっています。そんな状況下で業務企画に携わる中、従来型の銀行のやり方では、ご要望に十分にこたえられない部分を感じていました。

 例えば、法人のお客さまが銀行口座を開設するのに不便を強いてきたところがあります。まず、店舗に来ていただかなくてはなりませんが、窓口は午後3時に閉まってしまいます。例えば、忙しい経営者の皆さんが何とか時間をやり繰りしてご足労いただいても、書類の確認にお時間をいただいたうえ、不足があれば、「次回こちらの書類を持ってお越しください」と申し上げるといった具合です。結局、口座開設まで2週間くらいかかってしまっていました。

──口座を開設してからも、緊密な対応は、取引の多い限られた顧客がどうしても中心になってしまいますよね。それを改善して、多数の中小企業顧客に対しても手厚いサポートができるようにしていくと。

 はい。せっかくご縁をいただいたお客さまに対して、当行ならではのご支援ができないか。そのためにどうしたらよいのか──3年ほど前から本格的な検討が始まりました。その過程で、「お客さまもデジタル化に取り組んでおり、私たちもデジタルなアプローチで、より快適なサービスを届けられるのではないか」との考えに至りました。

 そこから、デジタルやFinTechの仕組みを駆使して、銀行業務の核である預金・決済・融資をもっと身近に感じていだだき、便利にご利用いただける新たなサービスやお客さまとのコミュニケーションの設計がスタートしました。

中小企業の経営者の「銀行の不便」を解消する

──今回のレンディングサービスの前から、顧客に向けたデジタルのアプローチが始まっていたわけですね。

 はい。まずは時間と手間のかかる口座開設の問題をどう解消するかということで、インターネットを通じ開設依頼をいただき、当行が事前審査を終えた状態で予約のうえご来店いただく。これによって、口座開設が短期化でき、窓口で長時間お待たせするのをなくすことができました。2016年より始まった法人口座のネット受付サービスです。

 これにより、当行の側でも口座開設以外のさまざまな金融商品・サービスをご提案できる時間を確保できます。現時点で、全店舗でこのサービスを提供できている金融機関は、おそらく私たちだけだと思います。

 また、これまでお振り込みには手数料がかかっていました。もっと手軽な決済かつキャッシュレスを実現できないかという声にこたえるべく、国際ブランドのVISAと提携し、大手行初の事業性デビットカードである「みずほビジネスデビット」の提供を2018年から始めています。

 スムーズに口座を開いていただく、デビットを使っていただくというのは、もちろんお客さまにとってベネフィットですが、同時に、お客さまとプロダクトサービスを通じたコンタクトポイントが生まれ、それらを通じていただいたデータの分析で、当行は「今、お客さまがどんな金融サービス求めているのか」をより正確にとらえることが可能になります。サービスが生成するデータが、さらに多様なソリューションを提供する機会を生む。これが私たちの基本的な考え方になっています。

業務企画主導でレンディングサービス構築プロジェクトが始動

──みずほ銀行のデジタル施策はそうしたいくつかの段階を経て、2019年5月、いよいよ中小企業顧客向けのレンディングサービスの提供がスタートします。

 はい。銀行固有業務のうち、最も重要な機能の1つである融資におけるデジタル施策ということになります。融資は、金融機関側で「与信」という信用審査プロセスがありますから、ここまで提供してきたサービスと比べて、ハードルがかなり高く、検討もより複雑でした。

──与信を正しく行うための仕組みの構築ですね。ハードルの高いプロジェクトに、どんな体制で臨んだのですか。

 単に、業務企画の担当セクションがITのセクションに要件を渡してシステムの構築を待つというレベルではないことがわかっていました。そこで、新サービスのシステムにおける「テクノロジー・プロセス・ヒト」の連携・統合の部分を業務企画セクションに集約してプロジェクトを進めていくという方針を固めました。それが2017年に立ち上がった新規事業推進室です。ここが中核になって、新サービスのコンセプト、設計を定めていく。スタート時は10名弱のチームでしたが、1年で25人程の組織に拡大させました。

──その25名に、データサイエンティストも含まれているのですか。

 はい。金融工学専門でアルゴリズムやデータに精通したスタッフ、IT・システム開発のプロジェクトマネジメント経験を有するスタッフ、銀行業務のオペレーション/事務手続きに詳しいスタッフなどが集まりました。

 あとは海外勤務経験者、カード会社出身者など。人材は本当に多彩ですね。それぞれの分野で専門性の高い人材で、私たちの抱えるプロジェクトを通じてお客さまのために何ができるかという目的の下で結束しました。多種多様ですが、データリテラシーが相応に高いという点は共通しているかもしれません。これが行内のコアチームで、協業については後ほどお話しします。

●Next:新領域事業のシステム構築で何にフォーカスしたのか?

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