[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

“AI先進7カ国”の活用成熟度でドイツはトップグループ評価も、現地報道から浮かび上がる「実態」は?:第10回

2020年1月29日(水)麻生川 静男

デロイト トウシュ トーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)グループが、世界の“AI先進7カ国”の1900社を対象に、企業におけるAI利用の実態調査を行い、2019年3月にその結果を報告した。本稿では、同調査結果のうち、欧州中核3国(フランス、英国、ドイツ)の動向を紹介したのち、現地の報道より浮かび上がるドイツのAI政策や企業の取り組みの「実態」をお伝えする。

グローバルAI活用実態調査で日本は対象除外

 デロイトの調査「Deloitte's State of AI in the Enterprise, 2nd Edition survey」(2019年3月発表)におけるAI先進7カ国の1900社の国別内訳は、オーストラリア100社、カナダ300社、中国100社、ドイツ100社、フランス100社、イギリス100社、米国1100社となっている。

 デロイトから見て、これらの調査対象は、AIを実務に活用している先進的な会社だという。中国が含まれていて、日本が除外されているのは、日本企業のAIの取り組みが世界基準で見て明らかに参考にならないレベルと考えられていると推察される。なお、本誌では、2020年1月24日にデロイトによる日本企業のAI活用成熟度調査の結果を紹介しているので、併せてお読みいただきたい(関連記事AI活用のPoCを実施した企業の7割が本番運用へ、人材不足がAI活用の障壁)。

 デロイトは同調査におけるAIの定義として、次の4分野を挙げている。

(1)マシンラーニング(機械学習):自然言語やコンピュータビジョン解析の技術要素
(2)ディープラーニング(深層学習):マシンラーニングのサブセットの位置づけ
(3)自然言語解析(Natural Language Processing:NLP):文章の意味解析に加えて、音声認識・対話を行うチャットボットも含む
(4)コンピュータビジョン:一般の画像認識に加えて文字認識も含む

 デロイトによると、実際、企業で最も多く適用されているのは、(4)のコンピュータビジョン、その中でも顔認識であるという。銀行ATMでの本人認証やセキュリティゾーン入退室管理などだ。

 同社によれば、AI投資は全体として増加傾向にあり、年率10%で増加を続けている。20%超の投資増という企業は12%、10~20%増は39%、1~9%増は36%だったという。

 調査対象となったAI先進7カ国・1900社のAIに対する取り組みの度合いを3段階で評価している(図1)。トップグループ(Seasoned)評価は全体の21%。これらの企業は社内ですでに数多くのAI活用実績を挙げていて、AI人材を積極的に採用している。2番手グループ(Skilled)評価は43%で、いくつかのAIプロジェクトに取り組んではいるものの、期待とおりの成果を得られていないようだ。最後尾(Starters)評価は36%で、ようやくAIプロジェクトに着手した、新米レベルだとしている。デロイトは、国に関係なく、大半のAIアーリーアダプター(早期導入者)は戦略的な取り組みを進めていると指摘している。

図1:世界7カ国の企業におけるAI活用レベル分布と課題(出典:Insights from Deloitte's State of AI in the Enterprise, 2nd Edition survey、2019年3月発表)
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フランス、英国、ドイツのAI活用動向

 デロイトの調査結果から、欧州の中核3国であるフランス、英国、ドイツについて個別のAI活用の特徴を見てみよう。

フランス:活用度合いは最下位、企業の多くがAIaaSを指向

 フランス政府は2019年より「AI for Humanity」というプロジェクトを推進している。投資額は15億ユーロ(約1800億円)で、同政府の積極的なAI投資とは裏腹に、調査ではフランス企業の51%が最後尾グループ、調査7カ国中の最低という評価だった。

 企業におけるAIの活用も、大規模なプロジェクトより、小規模なものが多いようだ。デロイトは、フランス企業のAI活用が遅れている理由の1つとして、企業内ではGDPR(General Data Protection Regulation)への取り組みの優先順位のほうが高い点を挙げている。また、フランスのAI推進担当者は、自社開発ではなく、AIaaS(AI as a Service)形式のように、すぐにでも使い始められることを望んでいるという。これらのことから、フランスでの本格的なAI活用はまだまだこれからだと言える。

イギリス:AIへの投資額でトップ、大規模システムへの適用意欲が高い

 イギリス企業の多くはAIが今後の成長には欠かせないと考えている。次年度以降のAI投資額を10%以上増額すると答えた企業が60%を超えており、これは米国やドイツに比べて高い数値だ。

 AI活用の規模に関しても、フランスとは真逆で、大規模なシステムにAIを適用すると答えた企業が29%に上り、AI活用に積極的な企業が多いことがうかがえる。AI活用についてのマイナスの側面(法規制、誤作動など)を認識しているものの、それよりもプラス側面を評価する気質が感じられる。

ドイツ:AI活用は世界トップグループの一角、自社開発よりAIaaSを指向

 ドイツでのAI活用は、RPA(Robotic Process Automation)とルールベースのエキスパートシステムが目立つ。ドイツ企業でのRPAの普及率は67%で、さらに30%の企業が採用を検討している。これは、他の6カ国の平均値49%に比べてかなり高い。この特徴は、近年注目のプロセスマイニング(Process Mining)の活用が最も進んでいることにも関係があるだろう(関連記事[特集] プロセスマイニングの衝撃)。

 ただし、フランスと同様に、ドイツもAIを自社開発することはしない方針の企業が多い。ドイツ企業の65%はAIをAIaaSとして活用し、外部の力を借りるという。他の6カ国の平均値は50%である。また、ドイツ企業では、会社全体へのAI活用計画を持っている会社は他国に比べる少ない(26%、他の6カ国の平均は35%)という傾向も出ている。とはいえ、全体的にみてドイツ企業のAI活用はかなり進んでいて、この領域では世界のトップグループに入っていると言える。

●Next:世界調査の高評価と大きな隔たり─ドイツのAI活用度合いの実態

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