[架け橋 by CIO Lounge]

金融ITに見る変化対応と主体性の大切さ

CIO Lounge 理事 松井哲二氏

2022年9月15日(木)CIO Lounge

日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、CIO Lounge 理事 松井哲二氏からのメッセージである。

 筆者は1970年代から最近まで、一貫して金融業の情報システムに携わってきました。歴史と言うほどではありませんが、そんな仕事の経緯を振り返って、改めて皆さんにお伝えしたいことがあります。それは変化への対応の重要性と、一方で変化に流されない主体性の大切さです。どういうことか、少しお付き合い下さい。

 1978年に筆者は京都信用金庫に入庫しました(信金では入社ではなく、入庫と言います)。当時は、勘定系システムを米バロース(Burroughs、現Unisys)のメインフレームから日立製作所のそれへと移行するプロジェクトの真っ最中。担当する先輩職員の方々は毎日が徹夜状態だったと記憶しています。

金融自由化の荒波に対応してきた

 その後も金融機関の情報システムは、金融自由化に伴うさまざまな変化の波に洗われてきました。勘定系の移行から休む間もない、1983年の夏のことです。システム部でトップクラスの先輩システムエンジニア(SE)2名が別室にこもり、「BACK」と呼ぶプロジェクトの開発を始めたのです。1970年代に米国で広がったMMF(マネーマーケットファンド)を取り扱うための取り組みです。

 開始から1年も経たない1984年4月には、証券会社と提携して「京信資金総合口座CMA」の取り扱いを開始しました。当時は慎重さよりもスピードが重視されたのでしょう。京都信用金庫の革新が成しえた、金融自由化が本格的に幕を開ける前夜の出来事でした。

 その後に到来したのが預金金利の自由化です。日銀の規制金利に横並びの“護送船団方式”とも呼ばれた状態から、各金融機関が自由に金利を設定できる時代への変化でした。1985年にまず10億円以上の大口定期の金利が自由化され、以降は国債定期、NCD(譲渡性預金)、営業店の小口ディーリング、スイスフラン口座、スーパーMMC(市場金利連動型定期貯金)、外貨定期預金、スウィング(預金振替)口座などの開発が次々と続きます。

 1992年には規制金利が全廃され、自由金利の時代を迎えました。筆者は、このような金利自由化の潮流の中で、当初から金利テーブルの設計に携わりました。科目・商品・預入日・預入期間・金額・金利をテーブル化して、金利を自由に設定できる仕掛けです。毎週末に翌週の金利を設定できるように運用を設計しました。

 こうした開発を通じて、金融機関ではITが事業戦略の柱であることや金融機関が変化に対応する状況を、身をもって体験しました。仕事はハードでしたが、信金では経営とシステム部門長、システム部署の距離が近く、情報システムを担当する醍醐味や面白さを日々、感じることができた時代でした。

 ──こう記すと、すべてのシステム企画や開発が上手くいったようですが、残念ながらそうではありません。今も鮮明に覚えているのは、国債定期の開発に携わった関係で、1986年に担当した証券システム構築です。それは筆者の中で最低最悪のプロジェクトでした。

 当時のシステムメーカーには証券システムの知識がなく、やむなく他ベンダーからパッケージを購入しました。パッケージのままでは動かないので、証券会社のSEに依頼。詳細は避けますが、ツギハギだらけの体制なので開発は難航し、最終的には失敗しました。あえてよかったことを探すと、外注によるシステム開発の品質管理と運用管理の難しさを理解したこと。主体性のある内製化の重要性を再認識しました。

 こうした経験から、システム部長をしていた時、勘定系システムについてはシステム部の職員が維持・保守するようにしていました。約50名のシステムアナリスト(SA)とSEが1000本以上あるオンラインプログラムを隅々まで理解したうえで、システム関連会社の京信システムサービスの社員約30名がプログラミングを担う体制です。幸い深刻なトラブルはなく、自営・自前の大切さを感じる日々でした。

●Next:共同化から統廃合へ─全国に約500あった信金が約250に半減

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