[架け橋 by CIO Lounge]

今、IT部門に求められる3つのキーワード

CIO Lounge 安藤啓吾氏

2022年10月21日(金)CIO Lounge

日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、CIO Lounge 安藤啓吾氏からのメッセージである。

 読者の皆様、こんにちは。筆者は、海外に行きたいとの思いから三菱商事に就職しましたが、配属されたのはIT部門。文系卒でもあり、当初は不満も含めて戸惑いがあったものの、その後、33年間、IT関連一筋でした。18年の海外駐在など様々な経験を積ませてもらったことは、今となっては幸せだったと感じています。この間、IT技術もIT部門の位置付けも、大きく変わりました。

 例えば入社直後の1980年代末は、まだまだ大型汎用機の時代でした。インターネットはまだなく、持ち運べないほど重い“ラップトップ”型PCが出始めたころですから、クラウドやスマホ全盛の現在とは隔世の感があります。IT部門についても、コンピュータを使って業務を効率化する専門部署から、戦略的情報システム(SIS)やオフィスオートメーション(OA)を担う部門、あるいは情報システム部門の分社化やアウトソーシングといった変遷を経て、次第に経営戦略の一翼を担う組織として考えられるようになってきたと思います。

 それでも、こういった変化は数年単位のものでしたから、以前はある程度の先読みが可能でした。しかし昨今、我々を取り巻く環境はさらにダイナミックかつ急激に変化しています。指数関数的に進化するデジタル技術とそれによる破壊的イノベーション、地球温暖化による気候変動、人の価値観の変化など、“変数”を挙げればきりがありません。今や先を読むのは不可能と言っていい状況です。

 まさにVUCA時代といわれるゆえんですが、そのような環境下では「先が読めないことを前提に、変化に対して、如何に迅速に、かつ柔軟に対応する」が求められ、そのために「個人がより自律的に動き、柔軟性と意思決定スピードを高められる環境」が必要です。読者の皆様には言うまでもないことですが、当然、IT・デジタルの重みは増す一方です。それでは、このような流れの中でIT部門はどんな役割を期待され、担う必要があるでしょうか?

「スピード感」「目利き力」「企画力」

 これまでは「事業部門(ユーザー)は要件を出す人、IT部門はシステムを作る人」という関係でした。結果として、そして今もなお「IT部門は受け身」との声を、経営層や事業部門からよく聞くのが現実です。しかし今後のIT部門はそれを許されないでしょう。受け身から脱却し、先進技術の目利きを行いながら、新しい技術・手法を活用したソリューションをタイムリーに、また積極的に提案・構築しなければなりません。

 そのために筆者は、次の3つのキーワードが重要だと考えます。①スピード感、②目利き力、そして③企画力です。順に説明しましょう。まずスピード感は、IT部門が変わるために最初に必要なことであり、重視すべきことです。というのもITプロジェクトでは金科玉条のごとく「QCD」が重視されてきました。“Q”はQuality/品質、“C”はCost/費用、“D”はDelivery/納期であり、元々は生産プロセスの用語ですが、ITプロジェクトでも重要な基準となっています。

 多くの日本企業において、特に大切とされてきた要素がQです。担当したITプロジェクトにおいて、「少しくらい費用がオーバーしても、少しくらいスケジュールが遅れても、品質だけは守る」といった思いを持たれた方は少なくないと思います。何を隠そう、筆者も品質を重視してコスト超過やスケジュール遅延を起こしたり、容認した経験があります。

 しかしスピード感が大事な今日、このような考え方はディスアドバンテージになる可能性が大きいです。品質にこだわって納期に間に合わず、新たなビジネス機会を逃すことがあっては元も子もありません。もちろん最低限の品質は担保すべきですが、凄まじいスピードで状況が変わる中、QCDもQ>C>Dから、D>C>Qに優先順位が変わっていることを認識する必要があるのです。

 次に目利き力。IT部門の人間ならテクノロジーに強く、目利き力も高いと見られがちです。しかし担当するITの専門性は持ち得ていたとしても、それは目利き力とはまったく違います。ここでいう目利き力は、マインドセットに依存すると言ってもいいかもしれません。ITのプロとしての専門性だけを深堀していても目利き力は養われないのです。むしろ汎用機の技術者がPCを馬鹿にしていたり、専用ネットワークの技術者がインターネットを否定していたりした事実があり、時に専門性は目利きを阻害します。

 そうではなく、自分の仕事に直接関係ない技術に興味をもち、積極的に取り入れたり取り組んだりする姿勢が、結果として目利き力を磨いていくのではないでしょうか。マインドとしては「常に半歩先を行く」です。他の人より1歩も2歩も先を行くのは難しいかも知れませんが、せめて半歩先を歩くことを目指していきたいものです。

●Next:“I型人材”から“T型人材”へ─広範な知識と視座で臨もう

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