[木内里美の是正勧告]

MLMに酔う人たちとマインドコントロール

2023年4月21日(金)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

「MLM」。こうした3文字用語を挙げるとITキーワードのように思うかもしれないが、今回、取り上げるのは「Multi-Level Marketing」のことである。マーケティングと言ってもデジタルマーケティングなどとは異なり、ITやデジタルとはまったく関係ない「マルチ商法」と呼ばれる連鎖販売取引のことだ。

合法だが、MLMは特定商取引法で規制されている

 MLM(Multi-Level Marketing)に似た概念に、「ネズミ講」と呼ばれる無限連鎖講があるが、これは無限連鎖禁止法で禁止されている非合法のものであって、MLMは合法の商取引である。では、なぜここでMLMを取り上げるのかというと、筆者の周りで散見されるし(後述)、在宅勤務などで1人の時間が増えたことに起因する心の隙を狙って広がっているように思えるからである。

 MLMについて説明しておこう。合法とはいえ、MLMは特定商取引法によって規制されている。これは訪問販売、通信販売および電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業務提供誘引販売取引並びに訪問購入に係る取引を対象に、守るべきルールや罰則などを定めている法律である。

 MLMは健康食品や日用品など物品の販売を対象にしたものが多かったが、最近は投資や副業のようなサービス系のMLMが増えている。物品販売のMLMはある程度資産があり経済的な余裕のある人が勧誘者や販売者になりやすい傾向があったが、サービス系のMLMはネットワークビジネスが解る若い人がターゲットになりやすい。資産や収入を増やしたいという思いにつけ込む面がある。

リッチな生活への憧れでMLMのようなネットワークビジネスに惹かれる若者は多い(画像:Getty Images)

 MLMの仕組みはさまざまだが、多くは初期投資や継続投資が必要で、直接販売や連鎖販売の実績に応じて配当金やバックマージン、ボーナスが貰える基本的な構造は似ている。MLMの初期にメンバーになって普及拡大が進んだ場合、大きな収益が得られることは間違いない。末端に行くほどビジネスは困難になり、親族や友人に無理な勧誘をするなどして関係を悪くする例は、よく耳にする。「MLMは友達を失う」と言われる所以である。

 この独特のビジネス形態に嵌ってしまう人が実は少なくない。大儲けができるかもしれないという期待感なのか、支配組織に嵌るのか、コミュニティに魅力があるのか、筆者には皆目見当がつかない。MLMの最大の問題は不法な行為をする業者が少なくなく、常に被害者が出ていることだ。

筆者が誘われたMLMの実例

 筆者はMLMに誘われたことが今までに3度ある。最初はまだ学生の頃だったが、物品販売型のMLMに誘われて赤坂のマンションを訪問した。どういう経緯だったのか、今では定かでないが、多分、親しい友人に誘われたのだと思う。

 そのマンションは相当豪華で、今で言うと数億円くらいしそうなタワーマンション上層階といったところだ。広い室内はいかにも高価そうな輸入家具や調度品で埋め尽くされ、大きなシャンデリアもあった。「メンバーになって活発に活動するとこんな暮らしができるんですよ」と言わんばかりだった。

 MLMの仕組みや扱う商品などについて詳しく説明された。連鎖販売であるから、連鎖が繋がればマージンが大きいことは容易にわかるが、我が家には必要のない日用品が多く、初期投資額も小さくなかったし、販売を拡張する見込みもなかったことから入会は丁寧にお断りした。その会社は2022年10月に特定商取引法違反で消費者庁から6カ月の取引停止命令を受けた。

 その時のニュース解説によると、①社名や目的を言わずに勧誘した、②目的を告げずに誘った相手を密室に連れ込んで勧誘した、③相手の意向を無視して一方的に勧誘した、④契約締結前に書面を交付しなかった、という4項目で特定商取引法違反があったという。6カ月の取引停止期間が最近満了したので、再び被害者が出るのではないかと心配されている。このような違反行為はMLMでは後を絶たない。

 2度目の勧誘はコロナ蔓延中の2020年だった。イベントで親しくなったFacebook仲間から、食事をしながら「サプリメントのMLMビジネスをやらないか」と誘われた。1本の正規料金が4万8600円で、7本購入すると1本4万5000円に割引されるという。さらに今月中ならキャンペーンがあり、10本を31万5000円で購入できるので確実に儲かるという。この「今月中」は新規勧誘の常套句で、35%も安くなると勘違いしてしまう。

 そうではなく、元々高価な値付けをしているだけだ。筆者が、同じものを海外の製造元からダイレクトに取り寄せれば、3本600ドル(当時の為替レートで6万3000円)で買えることを伝えると、正規品はMLMでしか販売していないから紛い物だと言う。これもMLMが使う常套文句である。

 どうやら安い原価で仕入れているMLMの元売り会社が、高値で会員に販売して大儲けをしているようだ。その利益から販売実績に応じて報奨金をキャッシュバッする仕組みである。セミナーにも誘われたが、MLMに関心がないことを伝えて入会を断った。2022年、そのMLMの販売会社が消費者庁から6カ月の取引停止処分を受けた。そのことを伝えたのだが、以来仲間とは疎遠になったままだ。

 3回目は2022年の秋。知人の紹介で歌舞伎のお供をしていただいた方から、後日ヘルシーランチに誘われた。ちょっと変わった造りの洒落たお店で、ほぼ女性客で満席状態だった。ランチが済んでコーヒーを飲み始めたころ、何やらホワイトボードが持ち込まれてセミナーらしきものが始まった。これがMLMのセミナーで、お店にいた人のほとんどは会員か誘われてきた会員予備軍のようだとわかった。

 帰るわけにもいかず、セミナーが終わるまでじっと聴いていたが、扱っている商品はオーストラリアのファッションモデル、ミランダ・カーのCMで盛んに流れていたドリンク系のサプリメントだった。説明者の流暢なプレゼンテーションが半端ない。セミナーに参加していた人たちの表情を具に観察してみたが、説得力に引き込まれたのか時々頷いたりしながら酔ったように話を聴いている人ばかりだった。

 セミナーが終わったら、会員らしき人がテーブルの席の前に来て、セミナーの内容を繰り返すようにレクチャーを始めた。重ねての説明は不要とお断りしたのだが、仕組みを紙に書きながら説明を止めない。

図1:レクチャーを受けた時のMLMの説明図
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 この時の一連のプロセスで特定商取引法の違反が少なくとも2つある。1つはMLMのセミナーであることを事前に明かさずに筆者を会場の店に連れて行ったこと。もう1つは断ったにも拘らず、執拗に勧誘を続けたことだ。まあ多くのMLMがこのようなものだろう。

●Next:言葉巧みな説明に聴き入る人々

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